妄想圏外区域
B
「おいっ、離せよ!!」
今将に探しにいこうとしていた木暮君の叫び声がグラウンドに響いた。
一体どこから、なんて思っていると校舎裏から姿を現し…あれ?
「離せっつってんだろ!」
木暮君は宙に浮いていた。正確に言うと、燃えるような赤い髪をした男の子に首根っこを掴まれていた。
その様子にギョッとして練習をやめる皆。キャプテンを見ると、驚いていたのは一瞬で直ぐさま真剣な顔になっていた。
「…ぎゃーぎゃー煩ぇんだよ、チビ」
「っわ!?」
「木暮君!」
離された、というより地面に放られた木暮君に駆け寄る音無さん。
僕は何もすることが出来ず、ただその光景を眺めることしか出来なかった。
「おい、キャプテンはどいつだ?」
決して不快ではない、けれど背筋がぞくりとする低い声。
「俺だ。…木暮が何かしたのか?」
「何か?はっ、そりゃもう盛大にやってくれたぜ」
そう言って学ランの袖を捲くると、そこには真新しい歯型がくっきりと残っていた。
「それは…」
「ああそうだよ、そこのチビがいきなり噛み付いてきやがったんだ」
「いきなりじゃないだろっ!お前が、お前があんなこと言うから…っ!」
「はぁ?別に俺は実行したわけじゃねぇぜ?未遂ですらねーのに噛み付きやがって…、どうしてくれんだ?」
「ぐっ…」
悔しそうに唇を噛み締める木暮君の姿から、噛み付いたのにはそれなりの理由があったんだとすぐに分かった。多分皆も気付いている。でも……。
「…俺が謝ったとして、それでお前は満足なのか?」
「はっ、まさか。…そうだな。てめぇらサッカー部だろ?誰でもいい、俺からボールを奪ってみろよ」
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