妄想圏外区域 A そこの扉をがらりと開けると、薬品のツンとした臭いが漂ってきた。 日曜日だから先生も生徒もいない。 静かなそこに鎮座する一番奥のベッドに、俺はばふんと横になった。 ここの保健室は軽く不良のたまり場になっている。だから滅多に人が訪れることはない。流石に今日は不良も来ないだろう。 「……っ、く」 さっきからやばかった目頭が急に熱くなってきた。 腕で目を押さえても、その熱さは衰えようとしない。 この歳になって泣くなんて…かっこわりぃな、俺。 「……アツヤ?泣いているのか?」 「っ!?」 突然響いた聞き覚えのある声に、俺は反射的に上体を起こした。 「涼野…お前いつの間に……なんで…」 「ついさっきだ。…お前を追ってきた」 いつものように淡々と、だけどどこか哀しそうな微笑を浮かべつつ、俺に手を伸ばしてくる涼野。 「目が赤くなっている」 一粒だけ零れた涙を指で掬われ、恥ずかしいような情けないような気持ちに苛まれた。 . [*前へ][次へ#] |