妄想圏外区域
B
すっかり冷えてしまったキャラメルミルクを飲み干して、僕は改めて自分が着ている物に気付いた。
サッカー部の、ユニフォーム。
制服も、そのまま帰ってきたから鞄も、全部部室に置きっぱなしだ。
明日も学校だから取りに行かなきゃ。それにきっと風丸君達が心配してる。
「基山君。今日は有難う。僕、今度南雲君と会った時はしっかり話し合ってみる」
玄関で靴を履いて、ぺこりと頭を下げる。
「うん。…頑張って」
…告白のことも、きちんと受け止めて返事をしないと。
心の中でそう決意していた僕は、基山君の手が伸びてきたことに少しも意識が向かなくて。
「ぅわっ!?」
気付いた時には基山君の腕の中にいた。
「…ゆっくりでいい、そう言ったけど……」
できれば早く、思い出してほしい
耳元で囁かれた低音ボイスに、思わず肩がぴくりと跳ねてしまう。
努力します、と。
一言答えようとした僕の言葉は、唐突に開かれたドアの音によって遮られた。
「…に、してんだ……てめぇら………」
怒り。呆然。困惑。
色んな感情が入り混じったその声は、今、将に、僕が思い描いていた人の声。
「…何してるって見れば分かるよね。あと、チャイムぐらい鳴らしなよ。親しき中にも礼儀ありだよ、晴矢」
挑発的な響きを持った基山君の声が、どこか遠くで聞こえた。
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