妄想圏外区域
F
「わぁっ、雪が積もってる!アツヤ、雪合戦しよ!」
「おー!兄ちゃんには負けないからな!」
マフラーと手袋を着けて外に飛び出す僕等。
「あんまり遠くに行っちゃ駄目よー」
「「はーい!」」
お母さんの声に返事をして、僕とアツヤは空き地を目指して走り出した。
長靴がぽすぽすと雪の上に足跡を作っていく。
雪は大好き。
寒いし冷たいけど、とっても綺麗だから。
そして、雪ならではの遊びがたくさんできるから。
…ちらちらと降ってきた雪を見て、ふっとあの日のことを思い出す。
大雨だった、あの日のこと。
傘は返ってこないままだけど、始めからそのつもりだったから気にしていない。
気になるのは、あの男の子のこと。
「大丈夫だったかなぁ…」
「何が?」
「ううん、何でもないよっ…て、わっ!?」
「へへっ、兄ちゃん隙だらけー!」
「ちょっと!不意打ちなんてひきょーだよっ」
いつの間にか空き地に着いていたみたいで、僕は冷たい雪玉を顔面にくらってしまった。
ちょっと痛い。
お返しにと投げた雪玉は逃げていたアツヤの頭にヒット。
それから投げてぶつかって避けて逃げてまた投げて…雪合戦をひたすら楽しんだ。
「ていっ」
勢いよく投げられた雪玉をかわした…まではよかったんだけど。
「っぷ!?」
べしっ、という音とともに小さな悲鳴が聞こえた。
びっくりして後ろを見ると、顔を拭っている銀髪の男の子がいた。
「わ、わりぃ!」
アツヤが慌ててその子に謝りながら走り寄っていく。
避けた僕の所為でもあるから僕も謝らないと、と思った僕の目に。
「歩くの速すぎだよ、ガゼル」
「そんだけ楽しみだったんだ…ろ?」
きょとんとした顔の2人の男の子の姿が入ってきた。
その内の1人に、僕は見覚えがあった。
あの、雨の時の。
「あれ、お前、雨の時の…」
僕の心をそのまま言葉にしてくれたのはアツヤ。
一瞬目を丸くした彼は、アツヤと僕をじっと見つめて。
「……ふぶき、しろう?」
僕の名前を、口にした。
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