妄想圏外区域
C
足音は吹雪達のすぐ近くで止まった。
「見つけたっ…」
嬉しそうでどこか泣きそうな表情を浮かべたずぶ濡れの女性は、駆け足で此方へと近寄ってきた。
そして吹雪とアツヤに優しく微笑みかけた後、少年の身体を抱き上げた。
「有難う、あなた達がこの子を守ってくれてたのね?」
「そんな、守るだなんて…。僕はただ傘を……」
そこまで言ってはっと気付く。女性も、少年も傘がない。このままでは風邪をひいてしまう。
「これっ、使って下さい!」
「…え?」
傘を差し出した吹雪に、女性はぱちくりと瞬きをした。
「そのままだと、たくさんたくさん濡れちゃうから!僕はアツヤと一緒に帰るから大丈夫です!」
アツヤも吹雪の言葉にこくんと頷く。
ざあざあ、雨脚が強まってくる。
女性は少年を抱き直すと、吹雪が差し出した傘をゆっくり受け取った。
「…有難う」
小さな優しさに礼を述べ、名前を聞こうとした女性だったが、
「あっ!兄ちゃん!早く帰んねぇと父さんに叱られる!」
「わわ、そうだった!それじゃあさようならおねーさん!」
言葉を発する前に、双子は目の前から走り去ってしまった。
女性の手に渡った青色の傘に、拙い字で「ふぶきしろう」と書かれてあるのに気付くのは、もう少し後の話。
──ざあざあ、ざあ
雨はまだ、止みそうにない。
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