妄想圏外区域
記憶
ことり、と目の前に置かれたマグカップからキャラメルの甘い匂いが漂ってくる。キャラメルミルクだよ、と彼…基山ヒロト君が説明してくれた。
高校は違うけど同い年ということも聞いて、お互いタメで話そうということになった。
「……ありがとう」
僕は今、彼の家のリビングにいる。家、といっても僕が住んでいるマンションの1階で、基山君は一人暮しをしているらしい。
「…あ、基山君、もしかしてどこかに行くところだった?」
家に帰るなら僕と同じ方向のはずだから、ぶつかることはなかったはず。
「ううん、気にしないで。大した用事じゃないから」
にこり、と微笑んでくれる基山君に申し訳なさを覚えながらもう一度有難うと告げて、マグカップに手を伸ばす。
キャラメルの甘い味が口の中に広がる。気分が少しずつ落ち着いていく。
「…そろそろ、話せる?」
優しげな声音に、小さくこくりと頷く。
そうして、時々言葉に迷いながらも話し始めた。
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