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なぜ北国かというと、恋愛至上主義者の根城がそう言われているからだ。

ウドドーン!!

外で巨大な花火、のような雷鳴が鳴り響いた。一瞬部屋が暗くなり雷が辺りを照らしたが、女の子も、彼女も平然としている。
……キャッ!
とか言わないのだなと少し驚く。『あの場所』のやつらは皆かなり悲鳴をあげ雷怖いと主張していたから。
すぐに灯りが再びつく。

「よーし、天気が良くなったら恋人届けを出すぞ!」

彼女はむしろ元気そうだった。
女の子はちょこんと近くに佇んでいる。

「言っておくが……結ばれたとしても役場では、対物性愛を恋人として処理してくれないぞ」

「ええええっ!!!」

「ええええっ!!!」

彼女は頭を抱えて叫んだ。
隣の女の子も涙目になる。

「せっかく恋人が出来るかもしれないのに!」

彼女のショックを表すかのようにまた外で雷鳴がとどろいた。
なんだか本当に、悲しそう。

 
( 物、か……)
家に溢れた雑貨類は少し古い時代の物がいくつかあった。
アンティークな趣味でないのならこれは、親か誰かの時代のままなのだろう。

「どうしてもってなら、名義的に俺と付き合うか? そのあとで、対物性愛なりなんなりすればいい」 

「人間と付き合うなんて習ってない! 
親だって私に話しかけなかったの! 話しかけたってすぐに止めに入られるだけよ」

「止めに入られる?」


彼女はハッと口を襲った。

「何でもない、です」

「はあ……」

「とにかく、あの、ありがとう……あの、どうして、そこまで考えてくれるの?」

どうして、だろう。
聞かれて、考えてみた。
どうしてだろう。
けれどあんなに嬉しそうにする
子を俺はこれまででも見たことがなかった。

「いや……」

放置して強くなる、そうやって育てられた子ども。

まっすぐな目をしている。
雷を怖がらない。
強くなる、の結果なんだろう。
付き合うことを、何かの壁で遮断されている。
けれどコミュニケーションが物や人外とならとれるのなら、それもひとつの生き方。

「……はぁ、と言っても、椅子との交際を認めて貰うのを待っていたら、何年も経ってしまうぞ」

なんで、俺はこんなに、気にかけているんだろうかと思いながらもそう口にする。
罪滅ぼしに近いのかもしれない。よくわからないが、観察さんが家の真上を飛び回るようになってから彼女のプライバシーは、あって無いようなものなんだろう。それに、誰からも避けられている。とても、これが苛めで済む話には見えなかった。
それに多少なり荷担していることは、やはり実感は無いがそれでも、とんでもないことなのだろう。
戦争から抜け出した国に、爆弾が落ちてしまえば良いと言う政治家のような。軽い気持ち以上の意味がそこにはあった。

「わかって、る……わかってるけど……ちょっと、その、人間同士しか、認めて貰えないのが、思ってたより、キツくて…………ほら、放置されてたのに、放置してる側だけが、認知されるみたいで」

今にも泣き出しそうな彼女。
強く逞しく、なったというにはあまりに小さな肩。
頼りなく震えている。

放置して強くなった結果。

「なあ、もしかしてサ──」

サイコに狙われてるんじゃないか?
そう聞いてしまいそうだった。
サイコは盗賊団体の頭で、自らをガラスと名乗る。
 その活動は、「ティラル」とか「飲み会」「ゴロゴロ」などと呼ばれていた。

「え?」

「いや……知らないなら、いいんだ」








告白。
それは誰もが一度は受けたことのある虐めのことでもあった。

「告ー白!」

「告ー白!」

 男女を二人きりにさせて、周りからクスクス笑うのが流行っていた。
私もそれを受けたことがある。
全然、何も思っていない子だった。相手もそうだったと思う。

 正確には最初に彼、が虐めの対象だったのだが、空き教室に呼び出されて、二人鉢合わせするように仕組まれていた。
 そして何も聞いていないまま二人にさせられると、まわりが一斉に鍵をかけた。
クラスは話題に飢えていて、そんな青春を彩るにふさわしいのがこの恋愛ごっこだった。彼らは、虐めではなくて、善意と呼んでいた。

「ちょっと、出しなさいよ!」

私はドアを叩いた。
彼も、反対側のドアを叩いた。
この虐めの陰湿なところというのは、相手が自分をどう感じているかも同時に悟るところだ。
相手もまた「ふざけんな!なんでこんなやつと閉じ込められるんだ!」と苛立っていた。
胸がじわりと痛む感覚と、同時にそれは自分のことでもあって、他人という距離が、他人によって強引に破壊されることの圧倒的さは半端ではなかった。


しばらく、ガンガンとドアを叩いていたが、ギャラリーの告白コールが誰も居なくなると窓からベランダを伝ってそとに出た。
学校はずっと戦場だ。
恋愛という価値観すら現代には既に戦いの道具以外の役割はないし、甘美な響きなどおはなしのなかに過ぎないのである。


何日も、何日も、何日も。
冗談で作られたラブレターによる戦争、別の子と閉じ込められる戦争。誰かしらを二人きりにしては、周りの生徒が手を叩き、嬉しそうにニヤニヤ笑っている。
一番驚いたのは、先生だ。



「青春、だねぇ〜」


と嬉しそうに、窓の外から、こちらを眺めていた。

 そんななかに、いつの間にかうまれたのが『スキダ』を受け取ったら決闘していいという物だった。
スキダは、思春期の結晶とも言われていて特定の相手に対して生まれる魚型のクリスタル。
そして成長すると対象を常に追尾するようになる。
追尾がときどき攻撃に変わり、相手を殺すことも珍しくはない。
真正面から叩ききれる唯一の方法はスキダを送りつけた相手と向かい合って命懸けで戦い、突き合うことだった。

 そのときはまだ小学生で、生まれるのを見る機会はなかったスキダは、やがて進学につれて大戦争の定番へと変わっていく…………

「許してください! ごめんなさい!
あああああああああああああーー!あああああああああああああー!許して!ください! スキダは要らない!飲み込まれる! 飲み込まれる! わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ閉まってる、ドア閉まってる! ドア閉まってる! スキダが来る! うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ───────────────────────────────────────────────────────────────」


「お姉ちゃん?」

そっと腕を掴まれ、意識を取り戻す。
私はまだスキダが発動したことがない。
「ごめん……なんでもないの」

彼女の水色の髪を撫でる。ふわふわしていた。
開かないドア。
笑い声。
大口を開けてくらいにきた魚。
迫る恐怖。
逃げ場はなくて、「青春だなぁ〜」と先生は笑う。

「……うん、恋人、とどけ……私、頑張る!」

女の子も、私も、まだ処刑されるわけにはいかない。



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あきゅろす。
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