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恋って、凄いものなんだよ!

スライムさん

「ねぇ……」

スライムは、ぽよんぽよん、と跳ねた。
みんな見向きもしないで通り過ぎていく。
「スライム、悪いスライムじゃないよ?」

教室のなかで、スライムは跳ね、跳ねた。跳ねて必死に自分のことをアピールする。 スライムは昔から他人との距離が掴めなくて、でもとにかく、仲良くなりたくて……

 結果的にクラスでは常に浮き、嫌われていた。
「お前もうついてくんな!」

 同級生からの、モンスターを追い払うみたいな言葉。
「昨日はスライムのこと、好きだって言ったくせに!」

 学校でも最初はクラスの一員って、扱いをされてる。でも、友達が出来てもすぐに嫌われてしまう。
原因はいつもひとつ。
重すぎることだ。
けど、何が、どう重すぎるのかはスライムには理解出来なかった。人間社会は難しい。

「友達と、恋人の区別も付かないのか?」

友達はいつもそんなことを言う。
スライムは、空気を読むのが苦手だ。
友達とも常にべったりしていたし、友達がやることなら何だって影響されて真似していた。そうしていれば友達との一体感が生まれるって、思ったから。
だけど、スライムはわかっていなかった。
「彼女とお揃いで買ったのに、なんでお前も同じの付けてくるんだ? 話聞いてたか」
 ちょっとがらの悪い友人のシダが、ゴツい指輪をつけまくった指でスライムのぽよぽよを、つんつんしながら睨み付けて来ても、スライムは不思議そうに鞄につけたキーホルダーを見て笑顔を浮かべている。

「いいなと思ったから! スライム、友達でしょ! スライムも入れて」

「なんでだよ、この前もシャツ揃えて来たし、その前も昼にいちいち何食ってるか詮索するし」
「怖いよあんた」
「俺もされた。同じにして何かあるの?」

「それに、スキダが出たことないだろ?」

キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい、キモい─────────────

「う、う、うぅ……!」


こいつ、もういいよ、帰ろう。
やがてはそんな風に、誰かの合図でスライムは取り残される。
え、なんで、どうして。
そんな、だって、昨日は。
言葉が、ぐるぐる回る。
意味がわからない。
自分のせいなのか?
だけど、仲良しが仲良しになれば、もっと仲良くなるんじゃないの?
 スライムは、友達とうまくいかないことが多かった。
みるみる、涙が溢れてくる。
悔しさと恥ずかしさと、怒りで胸がいっぱいだった。

「だって! 仲良くなりたいじゃん! お揃い、してれば仲良しって、感じする!
なんで、みんな、仲良くしてくれないの。
 うわあああああん!!」 

 夕焼け空に向かってスライムは叫んだ。
スライムは寂しかった。
けれど、友達の作り方がわからない。
孤独だった。
もしも、目の前に誰かが来てくれるなら、誰であろうと好きになってしまうだろう。

「スライム、スライムのこと好きになってくれた人のことずっと好きでいるんだから!」

────あいつらの冷たい友情と違って!

スライムは涙を堪えて町の裏通りを走った。足が土で汚れても、気にならない。
悲しくて、悔しくて。



「どうして泣いてるの?」

 いつも来ない路地裏まで足を運んでいた。
不思議そうに、きょとんとした女の子が、髪につけたリボンをなおしながらこちらを見ていた。この辺りにこんな子が居たなんて。なんだか、見たことない子だ。
ちょっと不思議な雰囲気。
町に馴染んでいないような、まるで一人だけ遠くの町から着たような。
彼女の人形じみた顔立ちのせいだろうか。
うまく言葉に出来ないけれど、そう、なんだか、異様に真っ直ぐな、孤独に慣れきったような眼をしている。

背後には、ビルに囲まれてまるで世界から隠れるように立つ小さな家。
手入れされた畑には花が咲き、野菜が育っている。
 じょうろを手に、女の子はスライムを珍しげに観察していた。
はじめて生きものを見たと言わんばかりに、驚きと不安の混ざった顔。

「うぅ…………」

──俺は一人だ、友達すら出来ない、そう泣きつきたいけど、スライムは思い付いた。
「俺、シダって言うんだ! 彼女にフラれちゃって、これはそのときのキーホルダーさ!」 
 鞄を揺らして、スライムはキーホルダーを見せた。ラメが入ったプラスチックのもので、可愛い猫の形をしている。

「へぇー、そうなんだ、えっと、シダは失恋で、泣いてるの?」

「そうだよ、全く、スライムだからって馬鹿にしてさ!」

「スライムだと、馬鹿にされるの? 私もお友達、居ないんだ。居てもみんな
『居なくなっちゃうから』」


スライムは思った。
自分を好きになってくれるのはこの子しかいない。

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