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小説
The candy which was given
今日はお菓子をあげる日らしいよ。

そういって掌に一粒のキャンディをくれた。




「なんじゃそりゃ」

思ったままのことを口にしたら「あれ?違うの?」と首を傾げられた。

「いつからそんな子どもに嬉しい日が出来たんだ?」

「だって、さっき魔女の格好したお姉さんに貰ったよ」

…知らない人から物を貰うなと教わったんじゃないのか?とチラリと思ったがそんな野暮なことは言わない。なるほど。合点がいった。

「ハロウィンかー」

もぅそんな時期なのか。カレンダーを眺めれば秋の中盤の最終日を指していた。

「ハロウィン?」

本来は外来の行事なのだが今ではすっかり日本に染み込んでしまったイベント。全く祭り好きな国だ。

「うーん…日本で言う所の盆に近いもんかな?いや、違うか」

ブツブツと呟いていると眉間に皺を寄せて此方の服の裾を握り締めている。こいつが不服を訴える癖だ。つまり早く教えろと。

「あぁ悪い悪い。確か子どもたちが魔女やら吸血鬼やら仮装してカボチャのランプ持って「Trick or Treat!!」って言って回るんだよ」

「とりっく おあ とりーと?」

「「お菓子をくれないと悪戯するぞ」って事だ」

差し出されたキャンディーを摘んで眺める。可愛く包装されており、大の大人が持つには少々躊躇われるような…

「それで悪戯をされたくないからお菓子をあげるんだと」

自分もあまり詳しい方ではないが大体こんな感じだろう。
すると目の前の幼子はあれ?と首を傾げた。

「私「とりっく おあ とりーと」って言ってないよ」

「いいんじゃねぇの。子どもなんて宣言しなくても悪戯するもんなんだし」

悪戯しないよー!!と憤怒した少女の容赦のない攻撃を浴びせられた。それを笑いながら甘受する。

「じゃぁ来年はちゃんと仮装しようかな」

少女は突然攻撃を止めてそう言った。

「それは暗に俺に用意しろという要求か?」

「…そういう言い方はズルイと思うんだけど」

明ら様なすねているといった態度に思わず声を出して笑ってしまった。

「もぅ!!」

「悪かったって」

謝罪して長い髪に手を入れて撫でてやれば顔を赤くして大人しくなった。こういう時は素直で可愛いのにな。まぁ普段も小憎たらしくて可愛いけど。

「でも反対はしないぜ。むしろやりたいと思えばやればいいと思う。こういうことは出来る内に沢山、な」

「出来る内って?」

「大人になるとこういう事をやるのに色々不都合があるってこと。中には出来る大人もいるけど大半は『参加者』じゃなくて『傍観者』に回るから、『参加者』のうちに色々しとけって話」

気が付いたらキャンディーを弄んでいた。
思えばキャンディーなんてどれぐらい振りだろうか、なんて思うのはもう『参加者』ではない証拠だ。それは寂しいことなのだろうか?
手を出せば無条件にキャンディーが貰える特権を、いつの間にか失っていたことに今気付いた。

「trick or treat…ね」

「はい」

独り言のつもりだったが再度掌にキャンディーが出現した。

「えっ?」

「えっ?だってtrick or treatって…」

見れば最初の、綺麗に包装されたものではなく少女がいつも携帯している缶に入っている包装されていないキャンディーだった。

「変なの。欲しいから言ったんじゃないの?欲しかったらいくらでもあげるのに」

まだいっぱいあるよ?そう言って缶を振る様を呆然と見ていた。缶が揺れる度ガラガラと沢山の音が鳴る。この歳になってまだ自分のキャンディーが用意されていることに可笑しさと照れ臭さと…少しの安堵が心中に広がった。



「…しかし与えるべき相手に貰ってばっかりってのも情けねぇなぁ」

その情けない小さな呟きはどうやら目の前の子の耳には届かなかったようで安心した。

「さて、隣の奥さんにアップルパイとモンブランパイとスイートポテト貰ったんだが食うか?」

「とりっく おあ とりーと!!」

「あーはいはい。好きなだけ食え。今日は許す!!」

「わぁい!!やったぁー!!」


大切に握り締めたふたつのキャンディーは掌の中で静かにぶつかり合った。

‡END‡


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