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短編
終わりは、君にあげる

酷い、独占欲。

こんなもの、消えてなくなればいい。












どうして、僕等はこんなにも歳が離れているのだろう。

どうして、見てきた景色がこんなにも違うのだろう。



僕が、もっと早く生まれていれば、同じ景色を見れていたのか。






歩けば、ギシリギシリと鈍い音が暗闇に響き渡る。
たまに、というよりここ最近。
夜寝れなくて。
何もかもを忘れたくて。

木刀片手に道場まで足を向ける。

姉上も居ない。

暗い、静かな道場は広すぎて寂しい。




ブン、ブンと一心不乱に振り続ける。
汗を流して、木刀を振るその先に見えるもの。

目を顰めて、歯を食いしばりながら木刀を振る。


振り続ける。





ギシリと音がひとつ。

小さな音。
押し殺したようなその音は確かに耳に入ったけれど

振り向きたくなくて  無視をした。




木刀を握り締める手に力が入る。

小さな声で、呼ばないで。


ずるい、ずるい。

アンタはずるい。



何で、アンタが寂しそうにするんだよ。


息を上げ、木刀を両手で握り締めて僕はその場で立ち尽くした。

一歩、また一歩と近づく音がする。


真後ろで、ギシリと小さな音が聞こえて止まった。



「こっち向けよ」


方をガシリと掴まれて引っ張られるように体を向けてしまった。




「…なんで、いるんすか」

右手に持ち直した木刀に更に力が入る。
ギリッと小さく音がする。


はぁと聞こえるため息。
面倒くさいなら、放っておけばいいだろうに。


「なんで、万事屋に来ないんだよ」

ムスリとした声色。



「いらないでしょ。僕は」
下を向いて、震える声を精一杯の虚勢と共に吐き出した。







きっかけはなんだったか。
いつものように万事屋で働いていたんだ。
そこに、現れた女の人。

親しげに話すその光景をなんだか見て居たくなくて。


銀さんに、僕の知らない過去がある。
そんなの当たり前だ。
全部知っているわけじゃない。
知りたいわけでもない。


それでも、きっと、悔しかったのだと思う。


僕じゃ与えられないものをその人は簡単に与えてしまえるから。



肩を掴んでいた銀さんの手が僕の胸倉を掴んで上を向かせる。

咄嗟に上げた顔は、銀さんと眼が合ってしまった。


怒りのような寂しさのような。

そんな、色を含んでた。





「本気で、言ってんのかっ」

ビクリと震える体。


きっとこれは 恐怖。

怒りと殺気。




ああ、僕って本当にどうしようもない奴。
あんなにもの愛情を沢山貰っていた筈なのに。
それなのに。


唇をかみ締め地面が見えるぐらい下を向いたら掴まれていた胸倉を更に引っ張られて、爪先立ちの状態になる。

はっと息を呑んだら乱暴な、乱暴すぎるキスが落ちてきた。


「っぐ…」

一度、口を離されたかと思うと、片方の手で顔の下ラインを掴まれて先ほどよりも
酷く乱暴なキスだった。


「ふっ…うぅ…っ」


両手で銀さんの肩を力いっぱい押し返した。

ぺろりと自分の唇を舐める銀さんはとても獣じみた目をしてた。






「ぎん…」

「オメェに」


言葉を遮られる。
銀さんは、何もかもを知っている。
きっと気付いている。

僕が万事屋に行かなくなったのも。

仮にもだ。

男同士とは言え、恋人。
聴けばあの女の人は、銀さんの元恋人。



それを聞いたとき、どれだけ、どれだけ心が悲鳴を上げたか。
どれだけ、悔しかったか。


銀さんだって満更でもなかったんじゃないの?
あんなにも親しげに、笑って話していたじゃないか。


考えれば考えるだけ、嫌なことしか思わない。
だから、だから、この心が落ち着くまで、万事屋には行かないようにしようと決めたのだ。

銀さんに会わないようにしようと誓ったのだ。


「オメェに嫉妬されんのは嬉しいけど、会えねぇのは辛れぇし、寂しい」

着物を直して、銀さんを見る。



「アイツは、結婚するからって報告に来ただけだ。
オメェは話聞かねーし。万事屋来ねーし」

頭をガリガリ掻く。
銀さんの目が僕を見ていた。



「す、すみま…せん…」

僕は情けなくて、恥ずかしくて顔を下に向けた。



動く気配がしたと思えば頭乗る重さ。
銀さんが軽く抱きしめて顎を僕の頭に乗せていた。





「あんさー新八」

「はい」


「俺、すんげー我侭な訳よ。んで、すげー独占欲強いわけよ」


チラリと目だけ動かして、見えたのは着流しと黒い服。


「俺のはじめてはもうやれねーけど。最後はお前にやるから」



「お前の初めてと終わり、俺に頂戴」





じわりじわりと熱くなるからだ。
そよそよと風の音。
木々が風に揺れる。

心地よいほどの静寂。


恥ずかしさ。



声を出せそうになくて、ただ、緩く頷くことしか出来やしない。



目をギュッと閉じていれば、今度は触れるだけの口付け。

右手に持っていた木刀が手からすり抜けそうになるのを慌てて握りなおした。







最後の最後、どちらかが死ぬ時も、隣に居れればと。








(確かに恋だった)

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