ハルヒSSの部屋
涼宮ハルヒの戦友どっかーん 2
長門<前回、致命的な誤植が有った。其の為、作者は立ち直れずこれまでだらだらと短編ばかりに逃げていた。
キョン<其れで連載ペースが落ちたのか。一瞬此の侭未完お蔵入りになるんじゃないのかと、焦っちまった。
長門<続きを書かずに三週間。気が付くと肛門括約筋に力が入っている自分に気付いた作者は恥を忍んで続きを書く事にした。古泉一樹が何時背後に現れるのかと気が気で無いらしい。
キョン<そりゃこわ……まぁ、いい。で、其の致命的な誤植、ってのは何だ?「異時間同位体との同期」を「動機」って書いた奴か?
長門<そんな陳腐なレベルでは無い。作者は本気で連載断念を考えた。
キョン<たかが誤植でそんな大袈裟な。
長門<「たかが誤植」ではない。之は大いなる過ち。
キョン<よく分からんが、で、実際どんな誤植が有ったんだ?
長門<誤植が有ったのは貴方の台詞。「あれ、未だ出番有るんですかベアーの朝比奈さん?」の一文。
キョン<……いや、提示して貰った所悪いんだが、しかし其れでも何処に間違いが有るのか俺には分からんぞ?
長門<では説明する。貴方のこの台詞に対する返しとして朝比奈みくるは「やったぁ、初台詞☆って違います、キョン君!!」と言っていた。この事から、この一連の流れが聖闘士○矢のパロディで有る事は想像に難くない。
キョン<そうだな。作者「聖闘士○矢」大好きだしな。
長門<聖闘士○矢において「やったぜ、初台詞!」と叫んだのはベアーの檄ではない。ライオネットの蛮。つまり、貴方の台詞は「あれ、未だ出番有るんですかライオネットの朝比奈さん?」であるべき。
キョン<……誰が気付いたんだ、そんなもん。黙ってれば誰も気付かないだろ?
長門<まとめを確認した作者。貴方の言う通り、何処からも誰からも指摘は無かった。
キョン<だろうな。作者の阿呆さ加減に頭が痛い。で?其れが理由で落ち込んでたのか?
長門<アイデンティティクライシス。作者は真剣に悩んでいる。車田先生には割腹して詫びる所存……許可を。
キョン<……喜緑さん経由で情報統合思念体に長門の作り直しを要請しようと思う。

如何でも良い事に1レス使うのが戦友クオリティ。如何か心優しい皆々様に中っては笑って、叩かないで頂きたい。


さて、いきなりだが結論から言わせて頂く。俺達は強かった。
之は冒険が始まって直ぐに分かった事だが、しかし、よくよく考えてみれば当然とも言える。俺達のパーティのチートっぷりは本当に酷いものが有った。
古泉は何時ぞやの台詞通りに、このゲームに関して本当に隅の隅まで知っていたしな。当然、出会った敵の弱点なんかを逐一教えてくれる訳で。
攻略本を片手にRPGを解いているのと実際なんら変わりは無い為、シナリオがさくさく進む進む。
この世界に迷い込んで七日目。気付けば俺達のLVは軒並み三十を超えていた。
本当に忌々しい話だが、今回ばっかりは古泉の病気(ゲーム依存症)に対しても素直に助かったと言わざるを得ないだろう。
しかし、俺達が強かったのは無論、古泉一人の功ではないぞ。
長門、朝倉はTFEIとしての基本スペックの高さを存分に発揮して活躍したしな。スピードで撹乱する長門、柔と剛のバランスの取れた朝倉はこのパーティのキーマンと言っても何ら差し支え有るまい。
鶴屋さんも二人には及ばないものの、パーティ一番の火力(腕力)として此処ぞと言う時の危機を力技で何度も捻じ伏せてくれた。
そして、忘れてはいけないのが朝比奈さんだ。彼女は我がパーティ唯一の回復役として健気に、そしてせせこましく働いてくれた。
ホント、突撃しか能の無い俺達が此処までやって来れたのは朝比奈さんの働きの賜物です。空気扱いしか出来ないけれど、感謝しています。
以上に俺を踏まえた面子がRPGっぽい世界を冒険するコメディ、其れが「涼宮ハルヒの戦友」である。……少なくとも当初のコンセプトはそうだった筈だ。
何を何処で如何間違ったのか、俺も作者も頭を捻る次第。

と、まぁ粗筋的なものは之ぐらいにしておいて。では早速今回の話をしようじゃないか。

「やけに楽しそうじゃない、キョン君?」
隣を歩く朝倉が声を掛けてくる。おお、お前にもそう見えるか、朝倉。隠し切れないな。いや、念願叶うかと思うと、こんな状況だってのに素直に嬉しいんだ。
「念願?」
朝比奈さんが首を傾げる。ええ、こんな機会を長年夢見てきましたよ。真っ当に生きていたら絶対に有り得ないシチュエーションですから。
ほら、古泉を見て下さい。アイツも男なんですね。巧妙に隠してはいますが、よく見ると実はアイツ、スキップしてるんですよ。
ちなみに俺達は今、プチ登山を満喫中だ。正直、現代っ子甚だしい俺には登下校の坂を軽く凌駕するこの登り一辺倒は堪える……筈なのだが、今日ばっかりはそんなものは微塵も感じなかった。
いやぁ、人間とはほとほと感情に左右される生き物だと思う。
「貴方と古泉一樹は見るからに高揚している。私には其の理由が理解出来ない。何故?」
ふっ、愚問だな、長門よ。

「ドラゴンに憧れない男なんて居る訳が無いだろうが!」
山の中腹で俺の叫びが木霊した。

はい、と言う訳で今回の話はドラゴン退治である。ベタ此処に極まれり、だな。
唐突にドラゴンかよとか、前回までLV1だったのに急展開だなオイ、とかはこの際言いっこ無しで頼む。
実は前回と今回の間に色々苦労していたりした訳で。そういう事にして、如何かそっとしておいて欲しい。
ま、少しばかり其の辺にも触れておくと、だ。俺達は描写されていないだけで、実は此処五日程の間に結構な大冒険を繰り広げていた。
新川さんの愛剣「ダンボール」を取り返しにダンジョンに潜ったり、長門と古泉によって地下牢にぶち込まれたり、ミヨキチと敵対した挙句命を狙われたり……まぁ、実際色々イベントにも遭遇したんだ。
嗚呼、思い出したらなんか急に欝になってきたな。つーか、碌な思い出が無いのは仕様ですかそうですか。
しかし、どんな面白可笑しい事が有ったとしても、この辺りの話はメインシナリオには全く関わらないらしいから、ずばっとすっ飛ばさせて頂く。何時まで経っても終わりの見えない展開に、皆だけでなく若干作者もうんざりしているからな。
そんな奴の事だから、其の内「外伝」とか何とかタイトルを付けて其の辺りの事情を書くかも知れん。が、予定は未定である事を覚えておいて欲しい。
可能性は何時だって、限りなく零に近いブルーだ。

さて、回想。
俺達がとある寂れまくった農村に足を運んだ時の事だ。村に一つしかない宿で休んでいた俺達の元へ、村の長老とやらがやって来て此処ぞとばかりに一方的に俺達に依頼をしやがった。
何でもこの村に冒険者がやって来たのは十数年振りだそうで。この機を逃したら、何時次の冒険者がこの村に立ち寄るか分からないらしい。そりゃぁ必死になろうと言う物だ。入れ歯も飛ばして村の惨状を力説するのも頷ける。
俺達にしてみれば迷惑極まりない話だけどな。
「この村の宿に宿泊する、其れが今回のイベントのトリガーです」
とは、古泉談。如何やら今回のコレもメインシナリオとやららしい。避けては通れない、ってか。
嗚呼、踊らされていると分かっていて踊っているのは苦痛でしかないね。
元々、人から何かを強制されるって言うのが好きではないしな。しかし、やらなければ現実世界に戻れない以上、聞かない振りも出来ん。そんな訳で嫌々ながら長老の話を聞いていた俺だったりする。
依頼の内容はベタにベタを之でもかと塗り重ねた、31アイスの四段重ねを思わせるシロモノだった。曰く、この村はモンスターに目を付けられており、半年に一度女性をソイツに捧げなければならないとか、なんとか。分かり易い話だ。
で、出来ればソイツを討伐して欲しいと。しかも報酬無し。完全なボランティアでは、やる気も失せる。
残念ながら、俺は勇者じゃないしなぁ。
と、渋っていた俺であったが、長老の何気無い一言が完全に俺を其の気にさせてしまったのである。我ながら何と言うか。幾つになっても悪ガキだ。

「其のモンスターと言うのがあの山の頂上に住むドラゴンなのでs「やります。お任せ下さい」
……幾つになっても以下略。

回想終了。そんな訳でドラゴンが住むとか言われる山の頂上に無事到着だ。さてさて、噂のドラゴンちゃんとやらは何処に居るのかね。
そんな目で俺を見るな。アンタ達も男の子なら、間近にドラゴンなんて幻想生物の最たる物を見る事が出来るチャンスに心が踊らない訳は無いだろ?
少なくとも俺と古泉は凄ぇワクワク顔だ。鏡見なくても分かるくらいに。
「此処で十分程待っていれば竜が現れる筈です。システム的なものなので、この設定は不動でしょう。と言う訳で皆さん、リラックスして待ちましょう」
古泉が出来る限り平静を装って話す。後十分か……長いな。そんな事を考えている俺の横で岩に腰掛けて本を読み出す長門。お前は何時でもマイペースだなぁ。つか、其の本何処から持ってきたんだ?
「宿の本棚」
「窃盗じゃねぇか!」
「問題無い。民家の箪笥から薬草を採るのは最早常識」
「小さなメダルもにょろ〜」

俺達のパーティの最後はとある壺のザラキであろう、多分。そんな気がする。しかもかなり確信に近い観測で、だ。頼むから、俺の見てない所でトラブルを起こすのは止めてくれ。
目を離すと何かやらかすって幼稚園児か、お前らは。
溜息。嗚呼、何時ドラゴンがやって来るのか気が気でない朝比奈さんのきょろきょろ振りは心癒されるなぁ。うん、現実逃避して何が悪い。

ハルヒ<今回こそアタシの出番よ!
キョン<らしいな。まぁ、精々派手に登場してくれ。俺は寝る。
ハルヒ<え、マジで? アタシ出番有るの? キョン、虚言は罰金どころじゃ済まないわよ!?
古泉<エラく、マジです。
キョン<古泉、お前はいい。黙ってろ。



長門がパタンと本を閉じて立ち上がる。そして西の空を見つめた。
「……来た」
其れまで思い思いに時間を潰していた俺達は、其の一言で一斉に戦闘準備に取り掛かる。まるでオンとオフのスイッチが付いているような変貌振りだ。嗚呼、何かのプロになってしまった気がして一寸切ない。
一応、只の高校生なんですけどね。他は兎も角として、俺は。
ま、竜に生で会える機会を手にした普通の高校生なんて何処を探しても俺一人だろうが。
頼むから「お前も特殊だ」とか陰口を叩かないで欲しい。最後まで俺は一般人で居たいんだ。いや、マジで。
古泉と一緒の枠に収めないでくれ。

西の空から地を這う者達を嘲笑うが如き大きな生き物が飛んでくる。
鋼鉄を簡単に砕く顎。鋭く並んだ名刀の様な牙。
生態系の頂点。神に次ぐもの。若しくは神其のものかも分からない。
雄雄しくそびえる身体。何もかもを紙切れ同然に蹴破る脚に、見る者の血の気を強制的に奪い去る禍々しい爪。
子供から老人まで、全ての人達の心を掴んで放さない大きなもの。大いなるもの。
自分の為だけに竜巻を引き起こす傲慢なる翼。
俺達の夢が生んだ至高の生き物。
其の名は「竜」。
其れは俺達の前に其の巨躯を惜し気も無く晒しながら、悠々と山頂へ降り立った。

まさに神に愛された造形美。其の集大成と呼ばれるのが正しいであろう筈の生き物が俺達の目の前に在った。

なのに、何でだろうね。このがっかり感は何処から来るものだ?
古泉、理由分かるか?
「恐らく、脚が六本有る事が理由では無いかと推測しますが」
言う優男も先刻までの笑顔とは打って変わって表情が引きつっている。まぁ、無理も無い。うん、発言内容も大分、的外れだ。
「この生き物、何処かで見た事有りませんかぁ?私の記憶違いかな?」
言わないで下さい、朝比奈さん。俺も気付いているんです。でも、頭の何処かが必死に其の認識を否定しているんです。
「……コンピュータ研の部長が生み出した生物に極めて似ている」
言うなと言っているのに……長門。お前には慈悲って言葉は無いのか?感情を少しづつ見出しているって設定は一体何処に消えた?
「……遥か……彼方」
そうか。もう、何も言うまい。所詮、戦友だしな。この程度の展開は慣れっこだ。俺の純情を踏み躙られた怒りは目の前の虫けらにぶつけさせて貰おう。
クソッタレ、俺の夢を返せ!!
「……ユニーク」

さて、此処まで書いたら何と無く俺達の前に現れた生き物の見た目は推察出来たと思う。蛇足だと思うが、捕捉説明を加えると、だ。
えーと、カマドウマって虫をご存知だろうか?頭の中でアレと西洋画の竜を足して二で割ったら、其処に悪意を掛けてみてくれ。出て来た画を等号で結んだものが俺達の目の前に居る生き物だ。
竜と呼ぶのも気が引ける。しかし、竜と呼ぶ以外に適当な呼び方が無いのが又腹立たしい。
目の前に戦闘開始を告げる青いウィンドウが並ぶ。
「たたかう?」
聞かれるまでも無い。決まってんだろ。この恨み、晴らさでおくべきか、って奴だな。
ターゲットは「カマドウドラゴン」!もう、いちいちネーミングにツッコんでなんかやらねー!
さぁ、とくと味わえ。村の娘達の無念が二割。残りは俺の個人的ながっかりを。其の身体に刻んでやるっ!
「はぅ……皆さん、頑張って下さぁい!!」
「めがっさ!」
朝比奈さんの声援に背を押された様に走り出した鶴屋さんが、戦端を強引にぶち破った。さぁ、この竜と名の付いた罰当たり生物に……、

『……お仕置きの時間だ』
苦々しく呟いた、俺と古泉の眼から露が伝った。涙は心の汗だ。

とは言ってみたものの、俺達は苦戦を強いられていた。昆虫みたいな姿しやがって、と言うか、まぁ昆虫みたいな姿だからと言うべきか。かなり外皮(鱗?)が硬かったのが理由だ。
どんだけ殴っても斬っても全く利いている素振りが無い。此処まで反応が無いと一寸気が滅入ってくる。
ふぅ。こいつは厄介だな。腐っても竜、虫とくっ付いても竜って事か?嗚呼、もう。其の存在自体が竜という概念に対する冒涜だと言うくせに、全く腹立たしい。
しかし、効率的にダメージを与えられていると思われるのが鶴屋さんくらいで、正直この状況は二人(一人と一匹)のタイマンに水差してる俺達、って程度じゃないか。
「竜の相手はおんなじ竜の親戚のあたしに任せるっさ!」
頼もしいお言葉です、鶴屋さん。そう言えばドラゴニュート……竜人でしたか?
うん。貴女の言っている事は理解出来るんですけどね。ですが、サイズが違い過ぎますよ。
蟻と象の戦いをリアルに見ている気がするのは俺の気の所為ですか?
……いやいや、其れよりも、だ。
「竜の親戚なら、竜を説得する事は出来ないんですか?」
この戦闘は実際、かなり分が悪い。そう思った俺が竜への怒りも水に流して(我ながらこの辺りは大人の対応だと思う)そう提案した。

なぁ……何故、皆して俺の台詞にはっとなるんだ?
そんなに血の気が多いのか、お前ら。朝比奈さんまで、大口開けなくても……いや、そんな御姿も可愛いらしいんですけどね。
「其の手が有りましたか!」
黙れ、古泉。其の膝を叩く仕草とか一々ムカつく。
「そうだね。キョン君の言う通りっさ。よし、やってみるよ!一寸手を出さないで待ってて欲しいっさ!」
鶴屋さんは握りしめた斧槍を其の背に仕舞うと、交渉を始めた。

俺には良く分からない言語で喋る鶴屋さんと咆哮する竜。一体、どんな会話をしているのか、よく分からない。俺が祈りながら緑髪の少女を見守っていると、隣に長門がやって来た。
「……同時通訳をする」
アレか。宇宙人ってのは幻想生物の言語にも対応していたりするのか。ハイスペックだなぁ。
え?うん。もうかなり如何でも良いよ?

という訳で、以降は長門による通訳版をお送りする。

「一寸戦うのを止めて欲しいっさ!あたしは君とお話がしたいのっさ!」
『ほう。我々の言語を解するものが居るとはな。しかし、今更だな、小娘よ。真っ先に仕掛けてきたのはそなたではないのか?』
「誰が小娘っさ!あたしは由緒正しいドラゴニュートだっ!」
え、其処食い付いちゃうの、鶴屋さん?
『ふん、人と結びついた忌むべき同胞の末裔か』
「あたしのひいじいちゃんを馬鹿にするなっ!」
えっと……これ、停戦交渉だよな。何で喧嘩腰なの、鶴屋さん?
『ふん、我々にとってみれば人と結びつくなど愚の骨頂。異端も異端よ。あのような下等種族に入れ込むなど、信じられん話だ』
「君、今三途の川渡ったよ?気付いてる?」
……はい、俺達が渡っている真っ最中ですよ。
『ふん、貴様等の様な虫けらに後れを取ると思っているのか?』
「ぶっ殺すっさ、この虫けら!其の首をウチの玄関に飾ってやるにょろっ!」
……何やってるんですか、鶴屋さん!?

「あはは、交渉決裂っさ〜。アイツ若くってさぁ。話が通じないにょろよ〜」
はい、貴女が言うな。
俺達の間にこの時流れた空気を形容する言葉は、一寸俺には見当たらないのが残念だ。

戦闘は相も変わらず俺達の不利に進んでいた。
「現状を維持するだけではジリ貧になる事が分かっている場合、貴方なら如何する?兎に角何でも良いから変えてみようと思うんじゃないかしら?」
俺の隣で所々に裂傷を負った朝倉がぽつりと呟く。其の言葉の意味する所を俺は瞬時に理解すると、全員に号を出した。
「朝倉が仕掛けるッ!鶴屋さんは左、長門は右に展開して時間稼ぎをしてくれッ!古泉、分かってるなッ!」
「前衛お二人の支援でしょう。愚問ですね」
古泉が背後から俺に声を掛ける。悔しいが戦闘中は頼りになるじゃないか、超能力者。
「頼んだッ!前の二人に怪我をさせたりしたら後でシバくからな!?」
「手厳しいですね。しかし出来る限り、努力はさせて頂きます」
長門は無言の侭、鶴屋さんは雄叫びを上げて竜に突進する。其の合間を擦り抜ける様に古泉の放った無数の矢が低空を疾る。俺は三人の呼吸が合っている事を確認すると、朝倉に目をやった。
「キョン君、詠唱を始めるわ」
「嗚呼、構わん」
朝倉の口が何時ぞやの教室での襲撃を思い起こさせる速度で動き出す。俺も黙っている場合ではない。朝倉の詠唱に乗せる様に自分の呪文詠唱を始める。
長門と鶴屋さんが心配ではあるが、あっちは古泉に任せておけば大事には至るまい。俺は、俺に出来る仕事をするだけだ。詠唱に集中する。

「カリ=ガ=ネっ!(効果・単体回復)」
何時の間にか傍に来ていた朝比奈さんが朝倉に手をかざす。少女の身体に刻まれた傷がピンクの光に包まれ、見る見るうちに塞がっていく。
「私にはこんな事しか出来ないけど……頑張って下さいね、って本当にこんな事しか言えませんけど……」
俯く朝比奈さん。いいえ、貴女は自分で思っている以上に俺達にとってなくてはならない存在なんですよ。今の侭で十分助かっていますから、そんな顔をしないで下さい。嗚呼、伝えたくとも口が詠唱で塞がっているのが、歯痒い。
ふと脇に佇む朝倉を見る。騎士鎧に身を固めた少女はこれまでに一度も見た事の無い優しい笑顔で、愛くるしい先輩を見詰めていた。
そんな顔出来たんだな、朝倉。俺は一寸だけ……一寸だけ朝倉にもう一度会えた事を嬉しく思った。自分の我が侭で呼んでおいてなんだが、そう、思ったんだ。
俺は、傲慢だろうか?

「……術式構成終了、っと。ねぇ、朝比奈さん。やらないで後悔するよりも、やって後悔する方が良い、って言葉が有るよね?貴女は如何思う?」
朝倉の問い掛けに、時を駆ける少女がはっと俯けていた顔を上げる。
「私にはやれる事が限られているけれど、其れでも出来る事は全部やっておきたい。皆と一緒に居られる期間ってそう長くなくて……。
えっと……上手く言えないんですけど。だけどやっぱり、やって後悔する方が私は良いと思いますっ。私はそう信じまぁすっ。だから……だから、朝倉さん、存分にやっちゃって下さいぃっ!!」
「おっけ。なら、行くわ」
朝倉は微笑んだ。艶やかな黒髪を靡かせて竜に向き直る。
「ナラ=シ=ンデっ!!(効果=三ターン使用者身体能力強化。後、戦闘中永続弱体化)」
少女の叫びが高らかに響き渡る。其れは覚悟を決めた者のみが成し得る魂の歌。
応えるは世界。少女の愛する、少女を愛する世界。其れは少女の身体に眠る勇気を極限まで引き起こす。
勇気とは世界でもっとも鋭い剣。今の朝倉に斬れないモノなんて、きっと何も無いんだろう。そんな気がする。

「準備出来たわ。キョン君、行ける?」
問い掛けられて我に返る。しかし、今の一瞬朝倉と朝比奈さんに見蕩れてた、とは口が裂けても言えはしないしな……。とは言え俺の方の詠唱は既に済んでしまっていた訳で。誤魔化す様に咳を一つ。
「こっちも術式構成終了だ」
「なら、キョン君。……私に許可を」
「嗚呼。ヨシ=ヤ=チマエっ!(効果・三ターン単体攻撃力増加)」
俺の杖から産まれた赤い光が朝倉の腕に纏わりつく。朝倉は剣を握る腕に二、三度力を込めて感触を確かめると、猛き暴君を其の双眸に捉えた。

「朝倉涼子、征くわっ!!」
竜をも恐れぬ勇気を右手に。仲間を想う慈悲を左手に其々抱え。
美しい少女は其の存在を待ち望む仲間の下へ駆け出した。

「長門、鶴屋さんッ!朝倉が向かったッ!」
俺が叫ぶ。二人は決して竜から目を離す事は無く、しかし朝倉の為に中央をすっと譲った。其処に躍り出るは勇気を身に纏った騎士。
「行くわ。長門さん、鶴屋さん、援護をお願いっ!」
朝倉の呼び掛けに、二人が応じた。
「……朝倉涼子の能力強化時間は残り82秒(一ターン30秒と考えて下さい)。其れ以上は危険。気を付けて」
「なら、後一分でケリを付けるだけさっ!」
竜の尾撃を掻い潜って、朝倉が突進する。其の顔には、背に信頼を負っている事から来ているものだろう、清々しい微笑みが浮かんでいた。

「如何やら此処が正念場ですね……僕も本気で行かなければ」
古泉が俺の前までやって来て、そう言った。
「お前、今まで本気じゃなかったのか……」
「此処ぞと言う時の為に何時でも体力は温存しておけと、其の時が来たならば容赦するなと。機関でそう教わったんですよ」
古泉は弓を引き絞った。片目を瞑って、狙いを定める。
「全く、新川さんの教えは正しかったようです」
其処で言葉を区切った古泉は大きく息を吸い込んで、真剣な顔付きになる。きりきりと音を立てる限界まで張り詰めた弦は、コイツの心境を其の侭表している様にも思えた。
「危ないですから、一寸離れて下さい」
言われる侭に俺が距離を取るのと、古泉が弓に番えた矢の先端に赤い電撃の様なものが産まれたのは、ほぼ同時だった。コイツは……そうだ、古泉が変化したあの姿にそっくりじゃないか?
「言葉通りに隠し玉ですよ」
古泉は器用にウインクして見せると、裂帛の気合と共に其れを放った。赤い稲妻と、そう喩えて何の問題も無い閃光が、中空に残滓を残して音速で飛ぶ。
「鉄の様な外皮を弓で貫通させる事は、ほぼ不可能でしょう。……ですが、電撃は如何です?其の自慢の皮膚で、防ぎきれますか?」
古泉が見るものを怖気付かせるような怜悧な微笑を見せた。其の向こうから電撃に身を焼かれる竜の、これまたこの世の終わりでも告げるかの恐ろしい絶叫が轟いた。

「地を這うものを舐めると、手痛いしっぺ返しを喰らうんです。分かりましたか?」
古泉は、矢張り笑顔を張り付かせた侭、言う。
朝倉が身動きの取れない竜の腹部に深々と剣を穿ち、竜が続けてもう一度咆哮した。
鮮血を身体中に浴びた朝倉を、俺は其れでも美しいと思った。

「電撃は防げない。ふむ、ゲーム通りですか。ならば話は早いですね。此の侭ゴリ押ししてしまいましょう」
古泉が先程と同じ様に矢を番えて集中を始める。
俺も黙っている場合ではないな。威力不足でも何でも、これは雪崩的に勝利へと持ち込むチャンスだ。枯れ木も山の賑わい。援護は多い程良い。
長門が竜の目の前を跳び回って撹乱する。竜は其の巨大な左前足で長門を薙ぎ払おうとするが、其処で捉えられるへまをする様な宇宙人では、ソイツはない。其の事は俺が良く知っている。
SOS団の万能選手を舐めるな、っつーの。
そして、前足を上げた所為で生まれた死角に鶴屋さんの渾身の一撃!返す刀で朝倉も斬り付ける!
見ていて惚れ惚れするような連係プレイによって、徐々に竜の身体は血に塗れていった。
「行ける……此の侭勝てるぞ、古泉ッ!」
杖の先から幾筋もの閃光を飛ばしながら俺は叫ぶ。
「分かっています。チャンスは決して逃すな……之も新川さんの台詞ですね。さぁ、之で如何ですッ!!」
古泉が朱に染まった矢を放つ。其の光の力強さは、俺の「此の侭押し勝てる」という期待を確信近くまで押し上げてくれる程の明るさだったが、しかしそうは問屋が卸さなかった。
腐っても竜。馬や鹿ではなかったらしい。奴は翼を広げると一気に地上から離脱した。
赤い閃光が何も居ない宙を空しく通り過ぎる。クソッタレ!空に逃げるなんて有りかよ、反則だ!
唖然として空を見上げる事しか出来ない俺達を嘲笑う様に、いや、食材を如何調理しようかと考えている料理人と喩えるべきだろう。竜は、空に浮かんだ侭、大きく口を開いた。

「いけません、皆さん、逃げて下さいッ!!」
古泉が絶叫する。其の理由は俺にも瞬時に理解出来た。だが、遅かった。逃げる余裕も、隠れられる岩陰も、今の俺達には与えられていなかった。

ブレス。竜の持つ、最も恐るべき攻撃方法。広範囲にして高威力。この攻撃によってリセットを何度も強要されたのは俺だけじゃない筈だ。
其れが現実のものとなる。

つまりは死。

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。

頭の中が真っ白になる。足が竦んで動けない。竜の大きく広げた顎が俺と古泉の方を向く。鋭く並んだ歯の向こう、内蔵の燃えるような赤が炎に取って代わったのは直ぐだった。絶望と言う名の炎が俺に其の舌を伸ばして……。

今更だけど、この世界がどんだけ危険かって気付いた俺は馬鹿だろうか。
ごめん、皆。巻き込んじまって。本当に、ごめん。
罪が炎に焼かれた位で消える筈は無いとは思う。でも、俺には謝る事しか、もう、出来そうにない。だから……ごめんなさい。


ぼうっと死を迎え入れるばかりの俺の前に人影が現れた。少女は震える膝を、其れでもしっかと地に根差しながら、叫んだ。
「複層式防御結界展開しますぅっ!き……キン=ソ=クジコウでぇぇっすっ!!」
……俺のピンチを救ったのは、SOS団で一番泣き虫の少女だった。

ハルヒ<一寸、最初に言った事は嘘だったの!?あたし出るって言ったじゃない!?
キョン<この流れで出るから「今回」である事に変わりは無いな。嘘は言ってない。

ハルヒ<詐欺だわ。欺瞞だわッ!作者に死刑を宣告してやるッ!!

キョン<続き出なくなるぞ、其れ。

ハルヒ<其れは勘弁して……。


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あきゅろす。
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