ハルヒSSの部屋
涼宮ハルヒの戦友 10
結局其の日の夜は鶴屋亭一階酒場を貸し切る形で、牡丹鍋を囲んでの再会を祝う会となった。
朝倉と鶴屋さんも加わって、性懲りも無く古泉の懐から酒が出て来れば、嫌が応でもドンチャン騒ぎとなるのは……まぁ、規定事項と言って差支え有るまい。
……古泉、覚えてろよ。
「そっかぁ、キョン君達は魔王討伐に行くのかぁっ。ソイツはめがっさ大変だねぃっ!となるとコイツはもしかしなくても、今生の別れってヤツだねっ!」
そう言いたくなる気持ちも分からないのでは無いのだが、出来れば縁起でも無い事は言わないで頂きたかった。
「そうとなったら、今夜は鶴にゃん大盤振る舞いだ!今日の宴会は全部アタシの奢りって事で決まりだねっ!さぁ皆、ガツガツ呑んでゴクゴク食べるっさぁ!」
そう言う鶴屋さんは既に顔が赤く、眼が据わっていたりする。ゴクゴク食べるって何だろうな。何処ぞの大食いタレントみたいに、カレーは飲み物派だったりするのだろうか?
いやいや、酔っ払いの発言に深くツッコんではいけない。下手にツッコんで仕舞えば絡まれるのは眼に見えているじゃないか。
しかしだ。そんな俺の推測を斜め上に裏切る形に鶴屋さんは絡み酒だったりした訳で。
「いや、俺、今日は酒結構ですから。うーん、この鍋美味いなぁ」
なんて言おうものなら。
「キョン君はお姐さんの酒が呑めないって、そう言うのかーい?若いのに死に急ぐなんてめがっさ感心しないにょろよー?」
と返って来た。
其れはどんな脅しですか、鶴屋さん?
「おねえさん」に充てられた漢字が違う気がするのは仕様ですか、鶴屋さん?
あちらの隅にいらっしゃる矢鱈と体格の宜しいサングラスの似合う二人組がズボンから取り出した光り輝く物体は手鏡ですよね、鶴屋さん?
用心棒って何時の時代ですか、鶴屋さん?
長ドスって何ですか、鶴屋さん?
あー、あー、きーこーえーなーいー。
「キョン君は唇を杯にしないとお酒は呑めないのよね」
お前も唐突に何言い出してやがる、朝倉!
長門、其の口に含んだお酒はぺっしなさい!ぺっ!
「食べ物を粗末にしてはならないと以前に言ったのは貴方。しかし私はアルコールを摂取した例が過去に無く、摂取した場合に誤動作が起こらない保証も無い。
因って、貴方には速やかに私の口からアルコールを吸引、除去して貰いたい」
何処から如何ツッコんで良いものやら。取り敢えず一言。口に液体含んだ侭で良くそんなに綺麗な発音が出来るもんだな。
「今のは腹話術」
其の発想は無かったわ。
「みくるなら、おっぱいの谷間にお酒を注ぐ事も出来るんじゃないかい?」
何ですと!?鶴屋さん、今何て仰いましたか!?
「キョンくん、助けてぇぇっ!」
鶴屋さんに捕獲されて服を脱がされんとする朝比奈さんが悲鳴を上げる。
すいません、朝比奈さん。俺も健全な青少年なんです。ナースな特盛りがミルクで杯なんて……情熱を持て余す。
「古泉一樹、一気します!ふんもっふふんもっふ!」
いい加減懲りたら如何だ、お前も。
 
そんなこんなで、俺達がこの世界に召喚された一日目の夜は更けていったのだった。
 
なぁ、今更だったりするのだが、食べ物で遊ぶのは正直如何かと俺は思うんだ。
……やっぱり俺の話なんて誰も聞かねぇのな!
 
鶴屋さんに因って無理矢理に酒を呑まされた朝比奈さんがばたんきゅーした所で、漸く……もとい残念ながら宴会は御開きとなった。
実際中々に艶かしい光景が展開されていたりしたのだが、微に入り細に入り描写するのは其れこそ野暮と言うものだろう。
如何か皆様には人間が持つ偉大なる能力である所の想像力の翼とやらを働かせて頂いて、其れで自己完結をして貰いたいと願う次第である。
決して霰も無い朝比奈さんの姿を独り占めしたいとか、そんな意図が働いた訳では無い。断じて違う。
邪なる推測と書いて「邪推」だ。
 
草木も眠る丑三つ時。隣のベッドから声が聞こえた。
「キョン君、起きていますか?」
「寝た」
含み笑いが小さな部屋の中を充満させている闇に流れる。
「そうですか。では之から話す事は独り言と、そうなりますね。なので返答は要りません」
そう前置きして古泉は話し始めた。
「貴方に謝っておかなければならない事が有ります。先程、この部屋で乱暴を働いてしまった件です」
嗚呼、朝倉に対して釘を打った時のか。ものの無様に床に転がされたな。おっと、俺はもう寝てるんだから之は心の中の声な。
「本当に申し訳有りませんでした」
古泉は誰にとも無くそう呟いた。ランプの灯りすら無い、真黒の空間に俺のものではない溜息一つ。
「この世界を生み出す切欠を作った人間として、貴方や朝比奈さん。其れに長門さんを危険に晒す訳にはいかなかった。僕には貴方達を巻き込んでしまった原因としての責任が有る。
だから、朝倉さんを詰問した事については謝る訳にはいきません。アレは僕にとっての義務だった……しかし」
古泉が深呼吸する音が聞こえる。
「しかし、其れで貴方に暴力を振るったのでは理屈に合わない。正直に言いましょう。僕は焦っていました。いえ、過去形ではないですね。今も、です。
今も、如何すれば貴方達を危険から遠ざける事が出来、且つこの世界を平穏無事に終わらせる事が出来るのか。そう考えて、僕は憔悴していると、この心境を言い表すならそんな感じなのでしょう。
自分の事なのに、何処か他人事みたいに言ってしまって申し訳有りません。之は恐らく、逃避……なのでしょうね」
俺が古泉の立場だったらと、ふと考えた。
何の気無しに俺が放った不用意な一言が、もしもコイツ等を巻き込んで、あまつさえ生命の危機に立たせるような事態を引き起こしてしまったら。
「我ながら……なんて情けない」
そんな事態が起こらないと言い切る事など出来はしない。
今、将に古泉の身に起こっている事は、そういう事だ。
之は決して他人事では、無い。
「あの時僕は当たってしまったんですよ、貴方に。言い換えれば甘えてしまったんです。
自分で木に登っておいて降りられなくなり、木の下で心配する親を叱りつける無知で無様な子供の様な真似を、僕はしてしまった」
寝返りを打つ振りをして隣で寝ている古泉の様子を伺う。けれど、幾ら眼が慣れたとは言え、窓からの光源すら無いこの部屋では古泉がどんな顔をしているのかは分からなかった。
「自分の尻は自分で拭けるようになれ、と機関で口酸っぱく言われてきましたし、其の為の研鑽も積んできました。自分では自分の不始末の処理位出来る様になった心算だった」
この部屋の暗闇は、まるで古泉の心中を表している様だと、何故か、そう思った。
「結果がこのザマです」
力無い笑いが響いて消える。
今の俺がコイツに言ってやれる事は何だろう。気の利いた一言が出れば良いのに、考えれば考えるほど思い付かない。
もしも立場が逆で、俺がこの優男であったのなら、落ち込む俺に古泉はどんな言葉を掛けたのだろう。
「僕は、この一件が終わったらSOS団を脱退しようと思います。僕にはこの場所に居る資格が……無い。
あんまりにも居心地が良いから、自分に課せられた義務を忘れてしまっていましたよ。自分の一挙手一投足に何が載っているのかをすっかり失念して、ね。
之は僕なりのケジメです」
たった一度のミステイク。けれど其の双肩に載っている物が世界だった。だからコイツは責任を感じてる。
結論として、古泉を自責の念に駆り立てているものは、コイツの年齢で背負うには重過ぎる義務感。
だけど、俺達は言っちまえば只の高校生なんだ。失敗だってするし、他人に迷惑を掛ける事も有るだろう。
其処の所を、賢いコイツは誰にも教えて貰ってこなかったんだ。きっと分かってるだろう。そんな事を言い出されては困る。なんて勝手な大人の事情で。
なら、たった一度の失敗で落ち込んじまった友人に、俺が掛けてやる言葉ってのは一体何だ?
「許可を……頂きたい」
そんな時はこう言うのさ。昔から決まっている。考えるだけ無駄ってもんだ。
「あー、古泉。之から言うのは単なる寝言だ。だから返事をする必要は無い」
ハルヒや俺や、アンタ達も大好きな様式美ってヤツさ。

「……なぁ、そう気負うなよ」

Take It Easy。楽に行こうぜって、こんな時にはそう言ってやるんだ。
「気負う必要なんて無い。誰もお前を責めたりしていない。原因は古泉とかうんたらこーたらなんてのは全部冗談だ。
そんなのを一々真に受けるなよ。少なくとも何時ものお前なら気にも留めない筈だぜ?」
「ですが、僕が原因である事は紛れも無い事実です」
「阿呆が」
俺は吐き出すように言った。
「お前は俺や、長門や、朝比奈さんや……其れより誰よりハルヒが事件を起こした時に、責めたりしたか?詰ったりしたか?」
古泉が息を呑む音が聞こえた。
「俺の記憶じゃ、そんな時お前は何も言わず、誰よりも団員の尻拭いに躍起になっていた筈だ。違そうだろ?」
古泉は沈黙している。
「其れとも心の中じゃ貶したり蔑んだりしてたのか?」
「真逆!」
ムキになって小さく叫んだ古泉が可笑しくて、俺は笑ってしまう。
全く、ドイツもコイツも扱い辛いかと思ったら、実際そうでもないって奴ばっかりだな。勿論、俺も含めて。
「だろ?俺も同じだ」
「キョン君も……ですか?」
「嗚呼。こんな事で誰か一人に責任を被せたりしねーよ。何時も通り、全員で解決していこうぜ。ワンフォアオール、オールフォアワン、ってな。
俺達はSOS団で、団長はあのハルヒ様だ。此処には居ないから実際には何て言うのかは知らないが、きっと同じ様な事を言う筈だ。目に浮かぶ様だよ。
……だがまぁ『古泉コノヤロウ』とか、ボヤくのぐらいは勘弁してくれ」
俺の言葉に、漸く隣のベッドから笑い声が聞こえた。
「確かに、涼宮さんはそんな人だ」
「だろ。なぁ、お前はそうやって何もかも分かった振りして、変に落ち着いてて、ウザったく微笑んでるぐらいで丁度良いんだ」
部屋の空気が微かに動いた。きっと、今古泉は微笑んだんだろう。見えないけれど、多分きっと。
「今夜の事は聞かなかった事にしておいてやる。明日も早いんだろ?さっさと寝ろよ」
「はい。キョン君、有難う御座います」
俺は返事の代わりに古泉に背中を向けた。俺は最初っから寝てる。一度も起きてない。だから、今までの臭い台詞は全部寝言だ。
そう、しておこう。古泉の独白なんか聞いちゃいないさ。
全部、夢だ。
 
「おやすみなさい」
「おやすみ」
 
俺達の長い長い一日はこうして暮れた。
ってな訳で翌日。
宿の方で朝飯を用意してくれているという話なので、俺は必要最低限の身支度を整えると鶴屋亭一階の酒場部分に向かった。
朝飯付きなんて……至れり尽くせりとは正にこの事です、鶴屋さん。そんな事を考えながら階段を下りると、酒場のカウンターには既に鶴屋さん其の人が居た。
「えっと……一人ですか?朝比奈さん達は?」
彼女は俺に気が付くと、此方を見て微笑む。しかし、俺の気の所為だろうか少し元気が無いように見えた。凡そ昨日の酒が残っているのだろう。アレだけ飲めば無理も無い。
「みくる達は未だ寝てるよっ。って言うか起きるのが早過ぎだねっ、キョン君。未だ、朝ご飯の支度は出来てないっさ」
そう言いながら鶴屋さんはテキパキとした動作で俺にお茶を淹れてくれた。あ、お気遣い無く。
「キョン君こそ如何したんだい、こんな早くに?もしかして、ウチの布団が肌に合わなかったとか?」
「いやっ、そんな事は全くありません。只、理由も無く早起きしてしまう日って有りませんか?アレです」
実際には昨日色々な事が有り過ぎた為に眠りが浅くなってしまったのだろうが、今のこの人に言っても詮無い事だ。俺は出されたお茶を爺むさく啜りながら、そう言ってお茶を濁した。お茶だけにな。
「まったまた、そんな事言って。柄にも無く緊張とかしちゃったんじゃないのかい?お姉さんはめがっさお見通しだよっ!」
「……当たらずとも遠からず、ってそんなトコですかね」
俺は溜息を吐く。鶴屋さんも俺に倣って茶を啜ると、深い溜息を吐いた。
「魔王討伐だもんね……其の気持ちも、少しは分かるっさ」
うーん、実に惜しい。もう少し内情は複雑で、如何しようも無い問題が山積みだったりするんです、鶴屋さん。
正直、魔王なんてもう如何でも良かったりするんですが。
「でも、きっとキョン君達なら大丈夫っさ。何と無く、そんな気がするよ」
そう言うと鶴屋さんは目を少し伏せた。
「キョン君……其の魔王討伐の事で、少しお願いが有るっさ」

鶴屋さんが遠慮がちに話した内容を俺なりに要約してみよう。
昨日の晩、宴会が終わった後で彼女は父親に俺達の事を話したらしい。
曰く、友人が魔王討伐の勇者に抜擢された、とか其の辺りの事をだ。
彼女としては他愛も無い世間話程度の心算だったのだそうだが、話を終えた所彼女の父親は何故か苦虫を噛み潰した様な表情をしていたそうで。
如何したのかと聞いてみた鶴屋さんを待っていたのは「めがっさ急展開」だったそうな。
何でも、実は鶴屋家には「可愛い子には旅をさせろ」的な家訓が存在し、代々妙齢となった嫡子は家を出て全国を巡り見聞を深めて来なければならない、との事で。
具体的に言うと、全大陸に支店を持つ「鶴屋ギルド」の全てを廻って、其処の支店長から「貴方の娘さんは此処に来ましたよー」的な証明を頂かなければならないのだとかいう話で。
「之の裏を全部埋めなきゃいけないのっさ……」
そう言って鶴屋さんが見せてくれたのは、首から掛ける形の鶴のスタンプカード。デフォルメが何とも愛らしい。
えっと……其れ何てレクリエーション?
若しくは、夏休みの朝のラジオ体操か。一杯になったらノートと鉛筆貰えるのな。まぁ、俺は初日から寝坊したクチだが。
「ちなみに鶴屋ギルドは此処を含めて全国に百八ヶ所有るっさ!」
四国の霊場巡礼より二十も多い。ソイツは確かに骨が折れそうな話だね。
わしの鶴屋ギルドは百八ヶ所まで有るぞ!とか、そんな感じ?
鶴屋さんのお父さんは多分、坊主頭でテニスが好きに違いない。
 
「鶴屋さんのお父さんはもしかして波動球を打てますか?」
少女がキョトンとした表情で俺を見ていた。

「其れで……キョン君たちさえ良ければアタシも旅に同行させて欲しいのっさ……」
成る程、古泉の言っていた「パーティの最後の一人」ってのは嘘でも冗談でもなかった訳だ。こいつも規定事項って奴か。
……さて、如何返答すっかね。
正直な所、余り鶴屋さんを巻き込みたくは無い。俺と朝比奈さん、長門、古泉の四人はまぁ仕方が無いとしよう。元々俺達は進んでハルヒに巻き込まれる立場を取った人間だ。
俺自身に関して言えば状況に流された部分が多々有る事は否めないが、しかし去年の十二月にエンターキーを押しちまった手前、もうハルヒタイフーンに振り回される事に対してうだうだ言える身の上ではない事位自覚してる。
俺はこの状況を……流石に此処までの暴走は予想外とは言え……あの時、望んじまったんだからな。
他のSOS団メンバーに関してもハルヒに巻き込まれる事は「今更」であり、諦念と好奇心の入り混じった微笑で(長門は相変わらずの無表情だろうが)済まされる話であろう事は想像に難くなく。
朝倉に関して言えば、之はもう俺に付いてくると言った鋼鉄の意志が見て取れる訳で、之又仕方が無いと言えよう。
「あちら側」での事情を知っているというのも、朝倉が付いて来る事を認める大きな要因だったしな。
しかし……しかし、目の前の少女は如何なんだ?
鶴屋さんは俺の知る限り宇宙人でも未来人でも、ましてや超能力者でもない。
一般人と言うと確かに語弊が有るだろう事は俺も認めるが、だが其れでも辛うじてパンピーの枠内に収まっている人だ。
SOS団名誉顧問。そりゃあ肩書きにはそう有るさ。本人も喜んで其れを受け入れてたしな。だけど、この人は俺達とは根本的に「違う」。
この人には不可思議な体験を自覚した過去も「あちら側」の記憶も無い。
目前の少女はハルヒに巻き込まれるべき人ではない。俺の脳はそう結論を出していた。
って言うのにさ。俺ってば自分でも情けないくらい女性の上目遣いに弱い。
「ダメにょろ……?」
俺の名誉の為に言っておく。割烹着姿は反則だと。
嗚呼、情熱を持て余す。
「取り敢えず、俺一人では何とも返答が出来ません。なので、他の奴等が起き出して来るのを待ってからって事で如何でしょう?」

其の答えが何を意味するのか、なんて分かりきってたさ。
嗚呼、之も又ハルヒの奴が生み出したどーしようもない規定事項なんだろうね。

「良いじゃないですか?」
開口一番そう言ったのは誰有ろう古泉である。俺としては、コイツは否定してくれるもんだとばかり思っていたので些か裏切られた気分なのは否めない。
ハルヒが居ない時くらいイエスマンを辞めたら如何だ?
ま、古泉がオッケーを出せば鶴屋さんを我がパーティーに迎え入れる事に反対しそうな奴なんて誰一人として居ない訳で。
結果として空中に浮かぶウィンドウに「つるやさん が なかまに なった」とか出る破目になるんだな、コレが。
今後とも、よろしく。って違ぇ!

「楽しい旅になりそうですねっ、キョン君!」
朝比奈さん、俺はストレスで胃とかに綺麗な穴が開きそうですよ。
「彼女は非常に優秀。前衛として貴方の盾になると思われる人材。私が拒否する理由は見当たらない」
うん、お前がそう言うであろう事は簡単に予想が付いたよ。出来れば良い方向に裏切って頂きたかったが。
「鶴屋さんとのフラグさえ立たなきゃ、私は彼女が仲間になっても別に良いわよ。キョン君ったら誰彼構わず簡単にフラグ立てるんだもん。少しは自重してね?」
お前は俺を何だと思っているんだ、朝倉?
「では、満場一致という事で。我々は貴女を迎え入れます、鶴屋さん」
回答拒否一を含んでも満場一致って言うんだな。
「有難う、皆。あたし……めがっさ嬉しいっさ!」
そう言って若干目を潤ませる鶴屋さんに対して、俺が今更反論する事なんて出来る訳が無いんだが。
空気を読まない人に憧れる、俺、十六歳。

朝食を終えて鶴屋さんが旅支度とやらを整えている間、俺達は酒場でぼんやりとしていた。
「ところで、私達のパーティーの名前は決まってるの?」
質問してきたのは朝倉である。其の朝倉を除く俺達四名は目を見合わせた。
「さて、そう言えば決めていませんでしたね」
古泉が愉しそうに首を傾げる。演技がオーバー過ぎるな。もしかして地だったりするのだろうか?
「如何しますか、キョン君?」
そう訊いてくる朝比奈さんも矢張り何処か愉しそうで。分かり切った質問だろうに、如何しても俺に言わせたいらしい。
「……」
長門は相変わらず無言。しかし此方をじっと見詰める視線には期待の色が見え隠れしている気がするぞ。
はいはい、分かったよ。言えば良いんだろ、言えば。得てしてこういう恥ずかしい役は俺に廻ってくるんだよなぁ。
「良いか、朝倉。実はこのパーティーの名前は一年以上前から決まってるんだ。一度しか言わないが、覚えやすいから問題は無いだろう」
朝倉が、他の三人が俺の方を向く。溜息が一つ俺の口から零れ出る。こういうのは副団長の役目だと思うんだが……如何なんだ、ハルヒ?

皆の衆、お報せしよう。新しく発足するパーティの名は今此処に決定した!
「世界を大いに救う団、略してSOS団だ。朝倉、笑って良いぞ」
之も様式美って奴だろうか。

「斧っ娘ですか……」
うん、何の事か分からないと思うので説明しておくと、上のは旅支度とやらを済ませた鶴屋さんを見た俺の第一声な。
「之は又……作者は随分と際どい所を付いてきましたね」
「如何だい、この鎧、めがっさ似合ってると思わないか、っなーん?」
決して大柄とは言えない、寧ろ小柄に分類されるであろう少女が翡翠色の重鎧を着て、くるくると廻ってみせる。其の様は知人補正を差し引いた所で、確かに素晴らしい。
素晴らしい……んだけどさ。
「なぁ、古泉。俺は如何してもあの獲物の方に目が行っちまうんだが。こんな魅力的な女性が目の前に居るってのに、オカしいのかな、俺?」
「奇遇ですね、僕も同じ事を考えていました」
まぁ、説明すると、だ。鶴屋さんは自分の背丈の1,5倍は有りそうな大斧を背中に携えていた訳で。
一寸今回ばかりは作者のセンスを疑わざるを得ないだろう。
「鶴屋さん、一つ質問を宜しいでしょうか?」
「はいっ、キョン君!」
手を挙げた俺をびしぃっと、注意する気も起こらない程気持ち良く鶴屋さんは指差してくれる。
「其の大斧は何で御座いますでしょうか?」
言葉遣いが変になってるぞ。落ち着け、俺。
「……ユニーク」
長門、其れは鶴屋さんのご立派な獲物に対しての感想だよな?俺の台詞に対してじゃ無いよな?
「コイツはあたし用の特注品っさ!普通の武器だとあたしの腕力に耐えられないんだよー。ははっ、めがっさめがっさ」
困った困ったって言いたいのか?
「後、コイツは斧じゃなくて正確には槍斧(ハルバード)だよっ!」
閣下に「地獄の皇太子」とか言われそうな奴が持っている絵が即座に浮かぶ、そんな如何隠しても隠し切れない禍々しさを全身から噴出させている獲物を、鶴屋さんは片手で軽々と扱ってみせる。
嗚呼、うん。……勝手にしてくれ。
もう、心底如何でも良くなってきたよ。

さて、パーティーも無事揃った所で漸く出発である。
あー、此処まで長かったー。

「では、行きましょうか」
古泉が俺の肩を叩いた。
「が……頑張りますっ!」
朝比奈さんが俺を見詰めてくる。
「じゃ、行こ。キョン君?」
朝倉が俺の手を引いて歩き出して。
「大丈夫。何も心配要らない」
前を行く長門が背中越しに声を掛けてくる。
「そしたら出発っさ!いざ、魔王ジョン=スミスめがっさ討伐!」
最後に鶴屋さんが……、

……?
「鶴屋さん、今、何て仰いましたか?」
「出発っさ?」
いえ、其の後です。
「めがっさ討伐?」
惜しい。其の前ですね。
「魔王ジョン=スミス?」
ああ、其れです。其れ。俺が引っ掛かったのは其処なんですよ。いやー、こんな所で其の名を聞くとは思わなかった。

俺は思いっきり息を吸い込んだ。

「 俺 か ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ っ っ っ っ ! !」

俺の叫びがハルヒの笑顔みたいに晴れ晴れな大空に、天高く響いた。


Opening Theme "Dive For You"by BOOM BOOM SATELITES

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