ハルヒSSの部屋
涼宮ハルヒの戦友 9
キョン<ゴットゥーザ様のご帰還だっ!
みくる<ソロモ○よ、あたしは帰ってきましたっ!
 
「キョン君、長門さん……やっと合流出来ましたぁ……ひぐっ、無事で良かったぁ……」
大八車の上で泣き出す看護婦さん、もとい朝比奈さん。嗚呼、今すぐ其の震える肩を抱きしめてあげたい。古泉に羽交い絞めにされてさえいなければ今すぐにでも飛び出していただろう。
ええい、放せガチホモ!
「キョン君、健全な青少年としてナースコスプレに情熱を持て余すのは分かりますが、どうかこの場は自重して下さい。
このSSは間違ってもキョン×みくるにはなり得ません」
耳の後ろで囁くな、気持ち悪い!
「古泉君とキョン君って仲が良いんだね……一寸、妬けちゃうな、って何言ってるんだろ、私」
顔を赤くする前に、俺の後ろの似非スマイルエスパーを何とかしてくれないか、朝倉。今ならば刺しても構わんぞ。一発ずばっと解決してくれ。頼む。
……恥ずかしそうに顔を背けるな。一体何の真似だ、我が娘よ。腐なのか?ハルヒによって腐属性を付加されているのか、お前は?
「貴方達二人は言わば谷○流公認。……ユニーク」
ちょ、マジか?
「信じて」
お前もそんな眼で俺を見て……如何しろって言うんだよ、この状況?
 
取り敢えず、安心感からか泣き崩れる朝比奈さんは長門と朝倉に任そう。俺は先ず、状況を確認しておく事にした。まぁ、語り部としての、この辺は義務であろう。
嗚呼、古泉の奴は一向に俺を放す素振りが無かったので、肘鉄を喰らわせておいた。其処で腹を抱えて蹲っているのが、二枚目の成れの果てだ。
「古泉、何で鶴屋さんを呼んだんだ?其れに鶴屋さん、何で大八車なんて引いてきたんですか?」
「キョン君、調子に乗っていた事は謝りますので、もう少し手加減をしてくれませんかね」
俺の質問に答えろ、超能力者。後、お前には遠慮も何も必要無い。大体、今回の事件の原因の曲に態度がでかいぞ。
「お姉さんは古泉君に要請されたんっさ。何でも、めがっさでっかい猪を狩ったとかで、ウチに売ってくれる心算らしいのっさ。
いやー、持つべきものはお得意さんだね、ホント」
にっこりと笑う鶴屋さん、いやぁ、八重歯が眩しいです。
「そういう事です。之で宿代の問題は一先ず解決しました」
おお、成る程。古泉の奴はこの世界の事を隅々まで理解している。ならば先の手を打つ事も出来る訳だ。少しだけ、見直してやらんでもない。
「いやぁ、褒め過ぎですよ。そんなに褒められると僕でも些か照れてしまいます」
お前の脳内で俺の発言が如何変換されたのか、一寸見てみたい。この年中お花畑野郎が。
「で、其の猪とやらはどっこかなぁーん?」
「ああ、そうでした。ご案内します。着いて来て下さい」
そう言って歩き出す古泉の後を俺と鶴屋さんは追っていった。
長門達はと見ると、如何やら朝比奈さんが傷の手当てを行っているようだ。少しくらい俺達が居なくても、此方は安心だろう。
「あ、長門さん、未だ動いちゃダメですぅ」
「私は踊らなければならない。もう、大丈夫。いける」
何処へ行く心算だ、長門よ。
 
「うっはー、コイツはめがっさ大物だ!おやっさんも大満足っさ!古泉君、よくウチに売ってくれる気になってくれたねぃっ!」
そう言って古泉の背中をばんばんと叩く鶴屋さん。嬉しそうな彼女の笑顔を見ていると、何だかこっちまで嬉しくなってくる。全く、偉大な先輩である。
「いやぁ、鶴屋さんには何時もお世話になっていますから。僕も、キョン君も。之くらいで恩返しとなるかは分かりませんが、如何かよろしくお願いします」
そう言って丁寧なお辞儀をする古泉。
いや、今の俺には全く鶴屋さんに迷惑を掛けた覚えは無いんだけどな。
「もっちろん、何処よりも高く買い取らせて貰うっさ!」
そう言って胸をばんっと叩く少女。うん、この人は気持ちの良いくらい素晴らしい商売人だ。
「ところで、鶴屋さん。貴女一人ですか?」
「ん、如何いう意味だい?」
「いえ、この馬鹿デカい猪を俺と古泉の二人だけで其れに載せるのは、中々骨だと思うんですが」
実際、タンクローリー並の大きさの之を引き摺るのも持ち上げるのも無理だと俺は思う訳だが。真逆鶴屋さんに手伝って貰う訳にもいかないし、大体少女一人の力が合わさった所で焼け石に水であろう。
しかし、そんな俺の疑問を鶴屋さんは笑い飛ばした。
「何言ってるんだい、キョン君。大事なお客様にそんな事させられないよ。ほらほら、其の辺に座って待ってるっさ!」
へ?
俺の脳内の「?」を他所に鶴屋さんは猪の物言わぬ骸に近付いて行くと、無造作に其の体を持ち上げた。ってマジか!?
何だコレ?何が起こっているんだ?俺は目の前で起こっているアインシュタイン先生を鼻で笑うような光景に唖然としていた。
 
俺よりも幾分小柄な少女が大の大人が数人束になっても持ち上がらないような代物を両手で鼻歌交じりに持ち上げているのである。まともな頭で理解しろ、って言う方が如何かしている。
この世界の鶴屋さんは鉄腕○トムか何かか?小さな体に百万馬力は長門じゃなくて、この人だったのか?
隣を見れば古泉も笑顔こそ崩さないものの、眼を大きく見開いている。
「驚きですね」
「おい、古泉。こりゃ何の冗談だ?」
「恐らく、彼女が僕達のパーティの最後の一人です」
「何?」
「鶴屋さん、少し宜しいですか?」
古泉が有り得ない重量のバーベル上げを笑顔でやっている少女に声を掛ける。
「ん、何かな?」
「貴女は、もしかしてドラゴニュートではありませんか?」
問われた鶴屋さんは猪を器用に大八車の上に載せると、此方を見て笑いながら額の汗を拭った。
「あっれ、二人には言ってなかったっけ?」
聞いてません。この世界に来て未だ日が浅いものですから。
「古泉、ドラゴニュートって何だ?」
「竜と人の特性を併せ持つ、亜人種です。この世界でも大分レアな部類の種族ですね」
○ンガ族みたいなモンか?
「其の認識で間違い無いと思います」
「そうそう、古泉君のご推察どーり!鶴にゃんはドラゴニュートっさ!ほら、見てみ、このめがっさ立派な牙。鶴屋一族、自慢の一品っさ」
鶴屋さんはそう言って口の端を指でいーっと上げて、歯を見せてくれる。
 
 
……鶴屋さん、其れは八重歯ですよ?
 
ま、そんなこんなで初期配置の街に無事ご帰還である。今夜は牡丹鍋だ。
森の中で積載超過も甚だしい大八車をまるで自分の手足の様に操って言語を絶するドラテクを見せてくれた鶴屋さんの(何人たりともアタシの前は走らせないっさ、とか言ってた)、
有難ーい申し出も有って、俺達は現在、鶴屋亭二階の宿屋の一室に集合している。
「泊まる所を探してる?水臭いなぁっ!言ってくれれば部屋ぐらい用意してあげるよっ!何て言ってもウチのお得意さんだからねぃっ!」
と言って、男子部屋と女子部屋の、都合二部屋も手配して頂き、今夜の宿問題は無事解決である。何と言う気持ちの良い人だろう。
いやいや、之はもう北枕であろうと何であろうと鶴屋さんに足向けては寝れないね。
で、男子部屋である。一部屋に流石に五人も入れば結構狭かったりするのだが、其れよりも女子特有の甘い匂いの方が俺にとって問題だったりする事は秘密だ。
 
「さて、では第四十三回、SOS団(くどい様だが『世界の行く末に大いに気を使う、涼宮ハルヒに振り回される団』の事な)臨時会議を開きます。司会は僕、古泉一樹でお送りしますので皆様方につきましては如何かお手柔らかにお願いします」
疎らな拍手が部屋に響く。第四十三回といった数字が出鱈目である事は聞くまでも無いだろう。
「現在、僕達は涼宮さんが創った閉鎖空間……いや、之はもう平行世界と言った方が正しいかも知れませんが……兎に角其れに巻き込まれています。
其処で、皆さんの得た情報を一度共有し、全員が共通の状況認識を得るのがこの世界から脱出する為に必要な最優先事項かと考えます。
此処までで何か質問は有りますか?」
一同沈黙。
「では、先ずは……そうですね、僕にとっての一番の疑問から議題に上げさせて頂きましょう。つまり『朝倉涼子』」
そう言って朝倉に向けて掌を返す古泉。
「貴女の存在についてです」
……まぁ、そう来るよな。
矛先を向けられた朝倉が若干の憂いを含んだ表情の侭で立ち上がろうとする、其れを俺は片手で制した。
朝倉が驚きの表情で俺を見る。良いんだ、朝倉。之はお前の罪じゃない。
俺の罪で、俺の仕事だ。そうだろ?
「朝倉に関しては俺から説明させて欲しい」
 
娘を守るのは、親の義務だ。
俺は自分でも馬鹿と思うが、其れでも本気でそう思ったんだ。
 
古泉<前回、朝比奈さんが再会を喜ぶ時に、僕の名前を呼ばなかったというミスが有りましたが……直す心算は有るのでしょうか?
みくる<仕様です。
 
俺は「向こう」での朝倉涼子の事と「此方」で朝倉から聞いた話をなるべく要点のみを掻い摘んで伝えた。其の間、朝倉は顔を伏せ続けていたが、お前が気に病む事じゃ断じて無いからな。
「……以上だ。長門、何か補足する事は有るか?」
「無い。此処に居る朝倉涼子は私達の世界の彼女とは似て非なる存在だと推測される。ならば最早敵性とは言えない」
「って事だ。分かってくれたか、古泉、朝比奈さん」
「あっ、はい」
朝比奈さんは少し困惑した表情を見せつつも頷いてくれる。しかし、古泉は違った。
「成る程、キョン君の言いたい事は理解しました。僕達に朝倉さんが仲間であるという意識を持たせたいという意図を含めて、正しく……ね」
そう言って古泉はちらりと朝倉に視線を向ける。
「一つ聞きます。長門さん、貴方は今インターフェイスとしての能力を保持していますか?」
「演算機能のみ。其れ以外この世界に召喚された時点で失っている。貴方達と変わらないと思ってくれて良い」
「予想通りの回答ですね。となると、長門さんにも朝倉涼子の本質を見抜く事は今現在出来ない訳だ」
「そう」
おい、古泉。何が言いたい?
「凡そ、貴方が考えている事で間違い無いかと」
そう笑顔を崩さずに言う少年エスパー。俺の奥歯が、人知れずぎりと鳴った。
「失礼は承知で言わせて頂きます。僕は疑っているのですよ。其処に居る朝倉涼子が故意に情報を、及び貴方の心象を操作した可能性を」

次の瞬間、繰り出した俺の拳は古泉の左手によって奴の頬に届く前に止められていた。
「シリアス展開の時の僕に噛み付くのは止めた方が良いですよ、キョン君。之でも近接戦闘に関してはプロフェッショナルだと自負しています」
右手を捻られたと、気付いた時には既に俺は床に転がされている。後頭部を強かに打ちつけて、一瞬視界が霞んだ。
『キョン君!』
慌てて駆け寄ってきた朝倉と朝比奈さんに抱き起こされる。くそっ、格好悪い。
「キョン君に酷い事しないで!」
俺の耳元で朝倉が叫ぶ。だが、古泉は涼しい顔で其れを受け流した。
「酷い事をされそうになったのは僕の方なんですが……まぁ、良いでしょう。貴方が僕を殴ろうとする気持ちも分からないではありません。
しかし、この質問は貴方の為でも有るんですよ、キョン君」
ふざけんな。
「其の言葉、そっくり其の侭貴方にお返しします。貴方は少し感情的で有り過ぎる。其れは美徳ですが、誰かが守ってあげなければならない、酷く脆弱なものだ。
僕はそんな貴方だからこそ気に入っているのですが……しかし、今この場では残念ながら必要の無いものです」
古泉が籠の中の鳥を見る様な眼で俺を見る。クソッタレ、真実俺の事なんか眼中に無いってか。
「話を戻します。僕は疑っているんです、貴女の話を。ねぇ、朝倉涼子さん?」
古泉は、こんな状況でも何時もと同じ様に笑った。

「本当は僕だってこんな事を言いたくはありません。ですが、客観的に見てこの状況は、誰かが気付いて憎まれ役を買って出なければならないのです」
古泉が嘆息する。笑顔の仮面の奥に、機関の人間として培われたぎらぎらとした獅子の雰囲気を俺は見た。
そして、其れに其の場に居た全員も気付いたのだろう。朝比奈さんの喉の鳴る音が聞こえる。
沈黙。其れを打ち破ったのはすっくと立った朝倉だった。
「古泉君、言いたい事を全部話して」
「おい、朝倉!」
お前が詰られる謂れも、責任を感じる必要も何処にも無い!古泉の責めを受けるのは俺だけで良いんだ!
そんな俺を、朝倉は眼だけで制すると古泉をしっかと見つめた。
「続きを話して」
短い其の言葉に含まれた確固たる決意。古泉、俺よりもずっと賢いお前が真逆気付かない訳が無いだろう?
なぁ、頼むよ。俺の罪は俺のものとして裁いてくれ。
なぁ?
 
「朝倉さん、貴女の話に矛盾は有りません。ええ、其れが正解……の様に聞こえる。ですが、推理小説でもない限り、矛盾が無いイコール正解では無いのですよ」
 
古泉は手元に有る水を少し口に含む。視線は朝倉から決して離さずに。
「矛盾を孕まない説が一つ有ったから、其れを真実だと思い込む。僕達人間の悪い癖です。其処で他の可能性を考える事を止めてしまうんですね
長門さんの様に幾つもの可能性を思考して検証するという事は、実は中々難しい」
今のは俺に向けた言葉か。くそっ、俺のポンコツな脳味噌じゃ言い返す言葉が見つからねぇ。
「僕には朝倉さんの説を否定する根拠が見当たりませんし、他の説を返す事も今は出来ません。この辺りが如何やら僕の頭の限界の様です。が……」
朝倉が息を吸う音が聞こえる。
「だからと言って一度キョン君を殺そうとした貴女の話を鵜呑みにする程素直な人間でも無いんです」
嗚呼、古泉は古泉なりに俺の事を心配してくれているのか。だから、俺も朝倉も長門も朝比奈さんも、何も言い返す事が出来ない。
之が友情から出ている言葉だと、分かっているから。
「結論から言いましょう。僕は貴女を信頼出来ない」
そう言って、今まで見せた事も無い強い視線で古泉は朝倉をねめつけた。
「貴女が少しでも不審な動きを見せたら、僕は躊躇い無く貴女を射る。僕にはキョン君と違って貴女への同情も友愛も無い。
幸運にも貴方は騎士で僕は射手。貴女は戦闘中、常に僕に背中を向けている事になります」
 
「其の事を、努々忘れる事の無きよう」
古泉はそう言って、右手で作った拳銃の銃口を朝倉に向けた。
 
「話は其れで終わり?」
朝倉は聞く。
「ええ、以上です。気分を害されたと思われますが、如何か僕の事情も鑑みて頂ければ助かります」
「分かったわ」
朝倉はすたすたと部屋の扉に向かって歩いていく。
「飲み物を、取ってくるね」
そう言って、部屋から出て行った。追いかけようとする俺の袖を掴んで止めたのは長門。
「行く必要は無い」
我慢の限界だった。其の一言に俺はキレた。
「何でだよ!何でお前も、古泉もそんなに朝倉の事が信用出来ないんだよ!今のアイツは何処にでも居る普通の女の子だ!其れをまるで犯罪者みたいに……古泉、幾ら何でも言いすぎだろうが!!」
俺の言葉に長門は首を振った。
「違う。古泉一樹は一度も朝倉涼子を責めていない。彼は予想され得る最悪の事態に備えただけ。彼が本当に朝倉涼子を敵性と判断しているのなら、既に彼女を殺している筈」
彼は悪くない。そう、長門は付け加えた。
「そう……なのか、古泉?」
古泉は笑顔のままだ。
「殺すという表現は頂けません。ですが、長門さんの認識で概ね間違い有りませんね。嫌なものですよ、憎まれ役というのは。今度こんな事が有ったら替わって下さい」
「お前は朝倉を疑っているんだろ?」
「見損なわないで欲しいですね。僕は貴方ほど鈍くない心算です。先程の尋問もどきは彼女の心根を探る為の小芝居とでも言いましょうか……まぁ、止めておきましょう。
これ以上、真相を話すのは少し恥ずかしいですから」
腰が抜ける。床に座り込んだ俺を見て、古泉が微笑んだ。
「貴方が信頼しているのなら、僕も信頼します。貴方の友人なら、僕にとっても友人です。之でも僕は、貴方の人を見る眼を高く評価しているんです。
良い子ですね、彼女。僕としては結構本気の殺気を視線に乗せたのですが、其れを正面から受け止められてしまいました。余程貴方の事が大事なのでしょう。羨ましい」
俺は酷く崩れた顔で、其れでも笑って見せた。
「俺の自慢の娘だ」
 
ドアの向こうから啜り泣きが聞こえたのは、まぁ、聞かなかった事にしておこう。
古泉じゃないけど、照れ臭いからな。


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