ハルヒSSの部屋
World is not mine, but I love.
世界は俺のモノじゃない。分かってる。アイツのモノじゃないし、アイツのモノでもない。
誰か一人のモノじゃない。全は全。
ドリンクバーで少しづつ、異なる飲み物を混ぜた後みたいに。
そこに、コーラは確かに入っていても、ソレは別物。
液体の世界。
俺達は個性を持って産まれてきているのに、世界は混ざる事を強要する。

子供の頃は「世界は自分のモノ」だと思っていた。
反証は自分に他人の視点が無い事。他人の感情が分からない事。他人の痛みが自分の痛みではない事。
もしも、誰かが怪我をして、その痛みの十分の一でも共有出来る世界であったとしたら。
そう、思う。そう、願った。
俺は、子供だった。
俺には俺の視点しか無かったし、今も無い。
誰かの考えている事なんて分からないし、俺の考えている事は伝わらない。
世界は俺達を個として創った。それは、なぜ?
アイツに出会ってから、時々ベッドの上で考える。
お前が優しいと、そう評した奴が居る。でもさ。
ならばどうして、俺達は他人の痛みを共有出来ないんだ?
そう、思った。俺が出した結論は「アイツは決して優しくない」って事。
神様は、世界は、運命は。優しくなんて、無い。
あの頃の俺は、どうしようもなくガキだった言わざるを得ないだろう。

笑い合う。
悩み合う。
誓い合う。
そんな日々は、俺を変えた。
大人になったなんて言うつもりは無い。結局、俺は俺のままで。
でも、ただ一つだけ、学んだ事が有る。

もしも、俺達が本当に液体なら、シンパシーが当然のものとして存在する世界を生きていたとしたら。
俺はソレを特別だと、しあわせだと思えなかったという単純な、とても単純な事。

子供でも知っている。我を手に入れて失った。
それはとてもとても、簡単な事。
思い出せ。
俺達は一人では何をして生きていれば良いのか分からないんだ。
成長の過程で手に入れた、我を放棄する事なんて出来やしない。俺達は時に衝突して、傷付け合う。
俺は俺で、お前はお前。固体と固体がぶつかり合えば、どうなるかは自明。
神様だって、例外じゃない。
俺の慕う神様は、不器用で脆い。

だけどさ、その心根は優しいんだろ?

最近、気付いた。ぶつかるのは決して怖い事じゃないって気付かされた。
野球用のボールを包み込むグローブみたいな、人になる事だって決して夢じゃない。
俺達は、心の持ち様次第で、どんな形にも変われる。
包み込みたい人の形に合わせて、俺達はどんな形にだってなれる。
人間の体が固体だけで出来てんじゃなくて、そん中に液体が流れているのは、結局そんな理由だったって事だ。
ミクロコスモス。膨張して収縮して形を変える、俺を構成する宇宙。
さぁ、そろそろ、理解するに良い頃合じゃないか。
世界は俺のモノじゃない。オーケー、悔しいが認めてやる。
だがな。それでも。

世界は「俺達」のモノだ。

誰かが誰かを抱きしめて、その誰かがまた別の誰かを抱きしめて。
網を形成している。それこそが世界。

体が無きゃ、抱き締めて、お前の体温と形と重さを感じる事も出来なかった。
いや、違うな。
体が無きゃ、お前も俺も誰かに抱き締めて貰う事が出来なかった。
受け止めて貰う事が出来なかった。
子供みたいにスキンシップを望んで。けれど、それで正解なのかも知れねぇな。
俺達が望んでいるのは「ハグ」。「ここに居るあなたが愛しい」という証明書。

お前を抱き締めて、初めて知った。

ああ、その為に俺は身体を持って産まれてきたんだ、って。
ああ、この瞬間を盛り上げる為に俺達は意思の疎通を困難にさせたんだ、って。
なぁ、神様よ。
よくよく、お前も阿呆だね。
愛される為だけにアイツの姿をとったってんなら。
一言、言わせろ。

愛してるぞ、クソッタレ。

World is not mine. World is not yours.
(世界は俺のモンじゃないし、お前のモンでもない)
But love is just thing we have.
(けど、愛だけは俺達だって手に入れた)
And world is made of a root with loves.
(世界を形作る、その根っこには愛が有るんだろ?)
I beleave because world is mine.
(だったら俺は信じるね。世界は俺の為に有る)
You teach for me only this simple rule in my world.
(お前が教えてくれたんだ。たった一つの世界の法則)


世界は俺の腕の中に有る。
世界は俺の目の中に映る。
世界は今だって、俺の身体の中で脈打っている。

良いぜ、認めてやる。
俺は世界の一部だ。個性を持ちながらも群れ、固体でありながら液体って中途半端な生き物さ。
だが、それでも。俺が震えれば世界の端まで振動が届く。
その認識は決して無意味じゃない。
繋がっている。それは神様だって同じ。
お前の力を前にして。巨大な世界を前にして。
ああ、俺はなんてちっぽけなんだと。
思わなかったワケじゃない。
だが、知った。
俺の目に映る世界を、俺以上に変革させられる生き物なんか居るワケねぇ。

そして、譲渡する。その権限を。お前に。

これから俺の世界は、お前を中心に回るだろう。俺がそう望んだから。
だから、この台詞を口に出すのにも、もう抵抗なんざ無い。
「World is not mine」
その言葉は、こう続くのだから。

「but I love」

隣で眠っている神様の耳元に、そっと囁いた。

「寝てる時くらいアヒル口は止めとけよ、阿呆」
ったく、俺の神様はどんな夢を見てるのかね。
「あんたは……いっしょ……ぅ……ざつよ……な……だから……」
……神様がいくら横暴とは言え、そろそろ「雑用係」から「暫定彼氏」くらいにクラスチェンジさせて貰ってもバチは当たらないよなと思う、今日この頃。


「睦言ララバイ」is closed.


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あきゅろす。
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