ハルヒSSの部屋
ツヅカナイヒビカナイカナワナイ
「あなたが涼宮さんをレイプすれば全てが丸く収まるんですよ」
全てはこの問題発言から始まった。と言うか古泉の人となりを多少なりとも知っている俺的には、自分の耳を疑うのが何よりも先だった訳だが。
「……すまん、何だって?」
「あなたが涼宮さんをレイプすれば全てが丸く収まる、とそう言ったのですが。聞こえませんでしたか?」
いつもと変わらぬ微笑を浮かべて、いつもならばたとえ生爪を剥がされるなんて拷問を受けた所で決して口にはしないだろう台詞を吐く古泉。
……おいおい、何の冗談だよ。
「寝言は寝て言え」
「残念ながら、僕は本気です。本気と書いてマジと読ませる程度には、ね」
矢張り変わらない表情で馬鹿がそう口にする。が、確かに古泉は冗談を言っている様には見えず。どちらかと言うと閉鎖空間の発生を笑いながら危惧する時の様な……古泉の表情分析の権威になんざなりたくもないが。

俺がうんざりしながら黙っていると、古泉は「レイプ」という言葉を始めとする様々な隠語卑語を並べ立てた。何の冗談だよ、コレは。
そんなに付き合いが深い訳でもないが流石にコレは有り得ないだろ。と、そこまで考えてようやく俺は理解する。
……ああ、この古泉、性格を改変されてるな、って事に。無論、誰によってか、なんてのは考えるまでも無い。つか、こんな馬鹿な事を考える様な底抜けの馬鹿は俺の周りには一人しかいないし。
「愛の無いセックスは……お嫌いですか?」
いつもどーりの顔をして、そんな台詞を何の躊躇も無く口にする古泉は……正直に言おう。俺はここに録音機が無い事を今日ほど悔やんだ日は無かったね。
ヤバい、この古泉は面白いかも知れん。

まぁ、改変ならば後で長門に相談すれば良いだろう。と言うか、俺が何かしてどうにかなるような問題では無いし。
と、なれば。俺としてはこの馬鹿のいつもとは違う発言を楽しませて頂く事に何の不都合が有ろうか。惜しむらくは元に戻った古泉が発言を覚えていない可能性が有るという事だが……そこまで多くは望むまい。
「望む所だ」
ああ、コレで俺も馬鹿の仲間入りである。コイツの口から有り得ない阿呆発言を促す為とは言え、全く……芸人気質な自分が憎い。
「そう言うと思っていました」
オイ、待て。お前は俺の事をそんな目で見てたのかよと胸倉を掴んで揺すってやりたくなるがぐっと我慢。今の古泉はいつもの古泉じゃないんだからな。
……面白い事の為に恥を忍ぶ……なんか俺、ハルヒ的思考回路に染まっちまってないか? ……と、まぁいい。今は古泉で遊ぶのを優先させて頂こう。

さて、俺は古泉を性格改変されたと考えていた訳だが。どうやら、世界ってのはそんなに単純では無かったらしい。
ま、そんな事を言えるのも後になってからであって、なるほど、後悔は先に立たないのだと知る次第だ。ただ、こんなイベントでその言葉を知りたくは無かった。いや、マジで。
とは言え、この時の俺がそんな事を知る由も無く。
「先ず、機関のフルメンバーで涼宮さんを拉致監禁します」
トントンと机を人差し指で叩きながら告げる超能力者。……今回の改変は強烈だな。真面目腐った顔して言う台詞ではない上に僕らの地球を守る奴が、その責務とは真逆の事を言ってやがる。
「……出来るのかよ」
まぁ、言いながらも俺自身にはコイツの提案を受け入れる気はこれっぽっちも無い訳だが。
今の俺の任務はコイツの口からどれだけ阿呆な台詞を引き出せるか。それだけしか考えていなかったからな。我ながら浅はかだったと思うよ、全く。

「長門さんの承諾は取り付けました」
予想外の方向に話が飛んだ。一瞬目が点になったが、だがしかし、鵜呑みにする必要も無いかなと思い直す。第一、長門がそんな話を許諾する訳が無い。
となると、だ。コイツの中でのみ作られた……刷り込まれた記憶だと考えるのが一番妥当だろう。
ふむ。どうやら性格が変わっているだけでは無く、それに伴って古泉の頭の中には色々な「既成事実」が存在しているらしいな。
根掘り葉掘り、ハルヒがどんな改変をこの優男に施したのかを聞き出そうと考えた俺を誰が責められよう。いや、誰も責められまい。反語。
「……買収でもしたのかよ?」
俺の中で一番「それはねーよ」って可能性を示唆してみる。しかし古泉は満足気に頷いた。
「鋭いですね。ええ、その通りです。地球滞在中の食費全額負担で世界の恒久的な平和が買えるのなら安いものでは、有りませんか?」
なるほど、お前の中での長門は胃袋キャラだったんだな。あ、この場合はハルヒの中の、になるのか? ま、どっちでも良いが。

「だが、待て。ハルヒが望まない事は出来ないんじゃなかったのか?」
「ええ。ですので拉致メンバーに貴方も加わって頂きます」
は? なんでそこに俺が加わる必要が有るんだよ?
「本気で言っているのでしたら……いえ、良いでしょう」
なぜだか知らんが馬鹿にされている気がするぞ。今のお前に馬鹿にされるのはかなり癪に障るモノが有る。
「それでなんとかなるっつー因果関係が分からんが……まぁいいさ」
恐らくだが、コイツの頭の中ではそれなりに理由が有るのだろう。変態の考える事なんざ多分、俺には一生理解出来まい。
少しばっかり聞いてみたくもあったが、そこはそれ、可哀想な古泉とは違ってマトモな人間である俺はその矜持を守る為に追及を堪える事にした。
「乙女心は複雑なんですよ」
そう言って首を左右に振る少年。ああ、こういった素振りはそのままなんだがなぁ……哀れを通り越して笑い話でしかない。合掌。

「下準備としてあくまでさり気なくですが、涼宮さんにはこの一週間『レイプから始まる純愛』がテーマのコミックを読んで頂きました」
そう言って古泉が机の下から取り出したのはどこの本屋にも並んでいる少女漫画。刑部とか新條とかちょいと俺はその方面に詳しくないのでよく分からんのだが。
「ご心配なく。小学生でも本屋で買えるコミックです。が、内容はそこらのエロ本よりもディープなんですよ。少し読んでみたのですが、一巻の途中で僕は読破を諦めました」
俺は手元に置かれたそれをパラパラと捲って……これ、本当に年齢制限とかされてないのかよ……。
「……女ってワケ分からんな」
正直な感想を言ってみる。いや、俺だってエロ本の一つや二つ所有してるが……ちゃんと年齢制限掛かってるぞ?
「刷り込みは完了しています。ネットの履歴も調べましたが、彼女がそういった内容に傾倒しているのは明らかです」
鈍い鈍いと日頃から散々罵倒されてる俺でもここに来て流石に疑念を抱き始めた。……オイ。これ、本当に改変の結果か?
にしては、ちょいと話が生々し過ぎないか、なぁ?
「つまり、今の彼女はソレを望んでいらっしゃるのですよ」
超能力者はニヤリと、アリスに出て来る猫の様に意地悪く微笑んだ。

「ラブホテルを一棟丸ごと買い取りました。その一室に束縛用の部屋を突貫工事では有りますが造ってあります」
束縛用の部屋……?
「……悪いが想像出来ん」
「そうですね。こればかりは実際に見て頂いた方が早いかも知れません。百聞は一見にしかず。きっと、驚かれると思います」
楽しそうに、ソイツは笑う。だが、その目の奥には……何て言えば良いのか……義務感とでも表現出来そうな真剣さが有った。
「……そうかい」
生返事をしてケータイを取り出す。……俺は危機感を覚え始めていた。
「その部屋で涼宮さんの四肢の自由を奪った後、僕達は貴方を残して退散致します」
長門の名前をアドレス帳から呼び出して電話をする。ワンコール。ツーコール……十数度のコールにも関わらず長門は一向に電話口に出る気配が無い。
オカしい。いつものアイツならワンコール目がなったと思ったら既に通話が繋がっている筈だ。
……なにが……起こってるって言うんだよ……長門っ!
「ああ、長門さんなら出ませんよ? それが、僕と交わした約束ですから」
古泉はまるで新聞紙をポストから取り出すような普通さで、そう、言った。

「貴方の考えそうな事はお見通しですよ。大方、僕の気が狂ったか……でもなければ涼宮さんによって性格を改変されたとでも考えたのでしょう?」
心の内を見透かされて絶句する。言葉が、出せない。出て来ない。
「ですが、残念ながら、僕はマトモなんですよ、これが。お笑い種ですよね?」
肩を揺らして笑うチェシャ猫染みた少年。その目が狂気に濁っていれば、どれほど俺は胸を撫で下ろした事だろう。
しかし、目前の少年はいつも通りの二枚目でしかなかった。
「僕も、同じ事を考えたんですよ。ああ、この『涼宮さんをキョン君がレイプする』という案は機関で決定されたものなのですが」
首を竦める仕草までが、見覚えが有るいつもの古泉。
「流石に森さんから聞かされた時には焦りましてね。長門さんに何らかの情報操作が有ったのではないかと相談したんですよ。しかし、答えは……ああ、もう皆まで言う必要は無いでしょう?」
何の改変も無い現実!? コレが!? こんな内容が、か!?
信じられる訳が無いだろ、古泉!
「ですが、事実です。ああ、もう一つ良い事を教えましょうか?」
さっき見た目の奥に揺れている何か、が何なのか。俺はようやく理解した。
アレは義務感なんかじゃ、無い。アレは……諦念だ。
「機関の命令は、絶対なんですよ」
まるで王様ゲームみたいだな、なんて軽口を言う余裕は、俺には無かった訳だが。
「ああ、そんな目で僕を睨まないでくれませんか? 僕だって出来ればやりたくは無いんですよ」
言葉とは裏腹に、微笑は絶やさない。それすら仮面なのだろうか。だとしたら、お前は役者になれるぜ。俺が保証しても何の意味も無いだろうが。
少なくとも超能力者よりは俳優の方がお似合いだ。
「ふふっ、考えておきましょう。ですが、話は逸らしませんよ? 僕の方も、この話をキョン君にするのは仕事ですから」
思わず舌打ちが出る。ダメだ。コイツの方が役者としちゃ一枚も二枚も上手だ。
「憔悴する、そのお気持ちは分かります。しかし残念ながら、その程度の会話誘導技術で僕を煙に巻こうとお思いなら……見くびられたものですね」
「悪かったな」
「いいえ。先ほども言いましたが、気持ちは分かりますので」
「なら、その計画とやらも水に流す事は出来ないのかよ」
我ながらドスを利かせるというのがとんと下手で嫌になる。俺の問い掛けに、古泉は無言のまま、微笑むだけだった。察しろ、ってか。
「……とりあえず、話だけは最後まで聞いてやる」
「ああ、それは助かります」
古泉は席を立った。
「お茶でも飲みながら話しましょうか。僕が淹れるので、味の方は期待しないで下さいね」
どこまでも、いつも通り。そんな古泉が、俺は怖くなかったと言ってしまえば嘘になる。

「勿論、貴方がヘタレにも手を出さずに終わる可能性も機関は考慮しました」
「本人目の前にしてヘタレとか大概にしろ」
茶を受け取りながら睨み付ける。が、古泉相手にそんなんが効果を持つ筈も無い。
目前の超能力者は、見た目こそ単なる二枚目だが機関とやらで特殊な訓練を積んだらしいその道のプロである事を俺は知っている。
言わばライオンに兎がガン付けている様なもので。救いはそのライオンが満腹なのかよく訓練されているのかで兎を餌と見なさないだけ……ってか。
緑色の水面に映る自分の顔を見ながら思索に耽る俺を、古泉がどう捕らえたのかは知らん。ソイツは話し始めた。
「涼宮さんには強力な媚薬を盛り、そしてキョン君と二人きりにして一週間お二人を監禁させて頂きます」
朝比奈さんが居れば「それがこの時間軸の既定事項です」とでも付け加えそうな程に当然と、俺と同い年の少年は言い切ってのけた。

何の冗談だよ。そろそろハルヒでも長門でもこの際谷口でも構わない。
ほら、そのロッカーの中にでも「ドッキリ大成功」って立て札を持って待機してんだろ?
そろそろ潮時だ。今なら凄ぇ良いリアクションをしてやれる。この機を逃すなんざ有り得ないぜ? なぁ、出て来いよ? なぁ?

だが、そんな救いは幾ら待っても……結局古泉の話が終わっても来る事は無かった。
こんなのが、俺にとっての既定事項だったなんて全てが終わった後でも信じたくは無かったけれども。
それが現実。

急須の中が湿った茶がらだけになるのに、そう時間は要らなかった。俺は呟く。
「……色んな意味で本気なんだな、お前ら」
長門に掛けた数度の電話には返答は無い。朝比奈さんに至っては繋がりすらしない。無論、ハルヒには掛ける訳にはいかない。
っつか、こんな話をどうやって切り出せば良いのか、さっぱり分からない。
「まだ疑っていたんですか?」
やれやれと、オーバー気味に両手を挙げるソイツは……少なくとも俺には昨日までの超能力少年と同一人物とは思えなかった。
身振りも、容姿も、表情も、口調すらも変化は無いのに。人ってのは口に出す言葉だけでこうも印象が変わっちまうモンなのかよ。
「ああ、食事などはお気になさらず。三食、精の付くモノをこちらで用意致しますよ?」
ふざけんなと。そう言いたかった。だが、ふざけてなどいない事は脳味噌にこれでもかと叩き込まされた訳で。
「一週間限定とは言え、アダムとイブですよ。ふふっ、羨ましい」
まるで本当に、羨ましがっている様に、砂場で遊ぶわが子を見守る母親の微笑ましさを思わせる……その表情は昨日までの古泉と瓜二つ。
どこで世界は狂ったのかと、俺が脳内でここ一週間を急速再生したのは仕方が無い事だよな? な?

「……着替えは?」
何を聞いているのか。自分でもよく分からんが、多分、雰囲気に当てられちまったんだろう。そうじゃないと説明が付かない。
「必要無いかと。裸でも風邪を引く事の無いエアコンディションにはしておきますので」
「一週間真っ裸で居ろってか」
「はい」
目の前の男は頷く。どこからどう考えても異常としか考えられない事を提案しておきながら、夜の後には朝が来るみたいな当然さで、そう言う。
「ああ、もしかしてキョン君の言う衣服とは煽情を目的とした方ですか?なれば当然ながらありとあらゆるコスチュームをご用意しますよ?」
イメクラかよ。いつもの俺なら……谷口や国木田と馬鹿な話をしている時のテンションならば即座に出て来る筈のツッコミが、喉の奥で止まる。
魚の小骨が刺さったみたいな不愉快さ。俺は理解していた。
これが冗談でも何でも無い、本気度100%の台詞である事を。
……なんだよ。なんなんだよ、この状況は。ハルヒ……お前の悪ふざけにしちゃ今回は度が越えてるだろうが!
自重しろよ、馬鹿野郎! 大体、傷付けられるのは他でもないお前自身だってのに!
何、考えていやがるんだ!
そう、心の内で叫んではみても、俺は超能力なんざ持っちゃいないから、テレパシーなんで変態的な事も出来る訳は無く。
どこからも返答は無かった。俺の心の内から、すらも。

「……ちなみに、俺はその計画を拒否出来るのか?」
一抹の望みを賭けてそれだけを言葉にする。だが、待っていたのは予想の斜め上を行く……機関とやらの本気だった。

流石にそんな事実を口に出す事は躊躇われたのか少々俯きながら、古泉は言う。だが、俺の方はと言うと、二枚目が本日初めて見せた陰の有る表情に構ってはいられるだけの余裕は持っていなかった訳で。
反芻する。「まさか。キョン君だって妹さんは可愛いですよね?」。古泉は……機関の末端使いっ走りはそう言った。聞き間違いだと思いたい。
だが、何をどう組み替えた所で「妹の命を交渉の道具に使っている」以外の意味にその文章はならなかった。
「テメェ……」
頭に血が昇っていた。俺は気付けば古泉の襟首を掴み上げて、その右頬を殴り抜いていた。
「……流石に、反応すら絶って無抵抗だと……痛いですね」
床に尻をついたままで古泉が呟く。頬から血が流れていた事から、俺はかなり思いっきり殴ったのだろう。
しかし、脳内麻薬でも出ているのか、握った右拳は赤くなってはいても痛いとは感じなかった。
荒い息を吐く俺の前の床に、古泉が何かを投げた。視線を落とす。ソイツは折り畳み式のナイフにしか見えない。
「ちなみにここで僕を殺せばどうなるかは想像が付くと思います。この国の一年辺りの行方不明者の数をご存知ですか? 人一人消えるのは、意外とよく有る出来事なんですよ」

それだけの決意を持って、この目の前の二枚目は俺の前に立っている、そういう事かよ……くそっ。
そして、俺にはハルヒをレイプするなんて犯罪行為をさせられる事に抵抗すら出来ない……コイツが本気な以上、コイツの後ろに居る奴等も本気だって事は簡単に察しが付いた。
「……もしも俺が一週間理性的に耐え切ったら?」
一抹の矜持を口に出す。
「知っていますか? ラブホテルは延長が利くんですよ。貴方が行為に及ぶまで、どれだけでも延長させて頂きますよ。これは僕等なりのサービスです」
八方塞がり、なんて言葉が今ほど似合う状況も無いだろう。俺は肩を落とした。心の中でハルヒに何度も謝罪をする。すまない。俺は……妹の為にお前をレイプする。
許して貰おうとは思わん。だが……それでも……すまん、ハルヒ。
「……分かった」
俺はゆっくりと首を縦に振った。まるでメフィストフェレスとでも契約をしたような、そんな暗澹とした気持ちだった。
だが、俺が契約した相手はどんなに言葉を取り違えた所で、善行なんざ小指の先ほどもさせてくれそうにはなかった。

「すいません。僕とて余り脅迫は趣味では無いのですが……機関の決定には逆らえない末端なんですよ」
唇をシャツの袖で拭いながら、古泉は自重気味に呟く。
もう、後戻りは出来なかった。いや、最初から退路を断つようにしてこの話は仕掛けられていたのだろう。
機関とやらが腑抜けでもない限り、俺みたいなどこにでも居る一介の高校生を脅して言う事を聞かせるなんざ、きっと簡単な事。
「ハルヒを……俺が……犯せば良いんだな?」
少年は、俺の言葉に肩の荷がようやく下りたと安堵の溜息を吐いた。
「助かります。存分に日々の思いの丈を吐き出してあげて下さい」
悪夢でしかなかった。

ってな事が有った、その翌々日。俺の目の前では一人の制服姿の少女が目隠しをされていた。その頭には特徴的な黄色のカチューシャ。

……ところで皆様は泌尿器科の医者が使うとてつもなく卑猥な椅子(全国の泌尿器科の方、本当に申し訳無い)と言ったらどんなモノを想像するだろうか?
そこに座った女性の両足を拘束して秘所をスムーズに診察する為の……まぁ、皆まで言うまい。ハルヒはそこに束縛されていた。
ご丁寧に両手まで後ろ手で固められている気の入れよう。まな板の鯉って言葉は今日この日の為に有った、とか勘違いする俺を誰が責められよう。
「良い格好だな、ハルヒ」
俺は呟いた。少女は懸命に何かを叫んでいるのだろうが、口枷をしっかりと噛まされているせいで言葉らしい言葉にはちっとも聞こえなかった。
「下着の色は水色か。ガキ臭いな」
足を強制的に開かされているので、本来スカートの奥に隠されているべきものは丸見えだった。俺がそれを嘲るとハルヒはむーむーと、言葉にならない呻きを漏らす。
だが、そんなものは俺が今からする行為にとって何の妨げにもならない。
「……さて、と」
椅子から立ち上がると、その音に驚いたのかハルヒの身体がびくりと跳ねた。
無理も無い。視覚を奪われたとあっては、聴覚に頼らざるを得ないのが人間ってモンだからな。
「……へぇ……馬子にも衣装ってのは場違いだと分かっちゃいるが……これはヤバいな」
弱々しい狩られるだけの少女の姿は、確実に的確に俺の欲情を誘った。
普段とのギャップっつーのか、元気溌剌なハルヒを日々目の当たりにしている俺にとって、この状況下で興奮するなと言うのが無理な相談だろう。


「先ずは媚薬……だったな」
俺はラブホに有るには非常識なデカい冷蔵庫の中から「一日目用」とラベルの張られたビンを手に取った。
ああ、ラブホに入ったのは今日が初めてだったが、流石にファミレスの厨房に有るような業務用の冷蔵庫は置いちゃいないよな?
「飲んでから十数分で発情開始、ねぇ」
古泉にされた説明を思い返して呟く。とは言え、ハルヒがおとなしくこんなモノを飲むワケは無い。それくらいは俺にだって分かるさ。
「ハルヒ、お前自分で飲むのと強制して飲まされるのと……って聞くまでも無いな」
俺の溜息にハルヒの肩が小刻みに震える。何かを叫び散らしてはいる様だが、残念ながら今のコイツは電池を抜かれたラジコンカーだ。
「抵抗は無意味だと、早めに気付くと体力的に楽だぜ?」
出来る限り優しく言ったつもりでは有ったが……まぁ、当然と言えば当然、ハルヒは揉みくちゃに暴れ出した。


「んぐぅぅっ! むんんぅ! ぐむんぅぅ、むぐっ!!」
だから、無駄だっつってんのに。こんな状況下ですらお前は人の忠告を聞かねぇのかよ……。
「しょうがない。手も使えないようだし、優しい俺が手ずから飲ませてやるとしますかね」
俺はハンドルに手を添えた。ソレが続く先は今日開けたばかりのピアス穴。
ハンドルを動かす。すると少女の耳は後方斜め下に引っ張られる。
勿論、そのままの姿勢では耳が千切れてしまうので、自由になる首だけを動かすしかない。
結論から言うと、ハルヒは天井を強制的に見上げさせられていた。
「こんなモンか」
ハンドルをロックする。ギャグボールだったか? そんな名前の穴の開いたピンポン玉みたいな口枷の奥から、荒い吐息が漏れる。
痛みか……それとも恐怖か。そんな事はハルヒ自身にしか分からない。
「何をやろうとしてるか、分かるか?」
俺はハルヒの隣に立った。垂直にそそり立つ白い喉に思わず指を這わせると悲鳴がそこから漏れ出して……背筋をゾクゾクとした物が走り抜けていく。
「口を閉じる事も出来なきゃ、注がれた液体は飲み下すしかねぇよな」
今にも引き千切れそうに伸び切った耳朶は、身動き一つ許さない。俺は、ゆっくりとビンを傾けた。


ゴボゴボと、液体が泡立つ音。唇の端から薄紅色に着色された粘り気の有る液体が筋を作って床に垂れ落ちて行く。
「別に吐き出しても構わないんだけどな」
口角が上がっているのが……自分でも不思議だった。俺は、狂ってしまったのだろうか。
「その場合は後肛摂取になるだけだし。ああ、器具なら用意してあるから、心配は要らんぞ?」
機関の書いた筋書きはどこにも退路を残さない、俺を相手にした時と同様にそれは見事な代物だった。
そして少女に抗う術は無い。結局ハルヒは不可抗力で零れた以外は全て飲み干すしか無かった。
拘束されているという現実、そして俺の声音から浣腸が冗談でもなんでもない事を察したのだろう。そりゃそうだ。冗談なんかじゃ無いんだからな。
やらなきゃ、妹が殺される。そして、奴等はそれを簡単にやっちまえるだけの組織力を持っている事はハルヒを誘拐する際の手際の良さから俺みたいな素人にも容易に知れた。
「結構飲んだな。ちなみに、お前が飲んだ半分の量でも性的に狂わせるには十分なんだとよ」
俺は笑った。目こそ見えないがハルヒの表情は絶望一色に塗り潰されていて、それがなぜだか妙におかしかった。
ハンドルのロックを外す。途端にカラカラとそれは音を立てて回り、ハルヒの首から上を解放した。
「げほっ! おえっ! ぅぅえぇっ!!」
必死に胃に向かった液体を吐き出そうとしているのだろう。少女は何度も咳込んだ。だが、唇からだらしなく糸を引くのは涎ばかり。
「……吐き出しても良いんだがな。そんなに浣腸が好きだったのか、ハルヒ?」
嘲り笑う。制服に身を包む身体が小さく震えたのは屈辱か……あるいは怯えか。ああ、もうどちらでも構わない。
「さて、説明では十数分で発情って話だったしな。俺はとりあえずシャワー浴びてくるわ」
俺はそう軽く言ってから部屋を出た。

「……なんだよ、コレ」
シャワーの音にかき消されて俺の声はハルヒには届かない。
「……なんで俺、こんな事を楽しんじまってんだよ?」
下半身は正直だった。愚息は高々と反り返っている。
「ハルヒを犯らなきゃ、妹がヤバい」
仕方なく。そう、最初は演技のつもりだったのに。
「このままだとマジで完璧なレイプになっちまう……」
それが、怖かった。気持ちが悪かった。吐き気がした。一思いに吐いちまえば、どんだけか楽だっただろう。けど、喉の奥からは唾液しか出て来ない。
狂犬病に罹ったみたいに、涎を垂らす鏡に映ったその様は。
「……まるで、ホンモノのレイプ魔みたいじゃねぇか」
狂人のそれでしかなかった。

古泉の話を思い出す。
「この話が実行に移されるという事は」
ヤツは微笑んでいた。
「神が望まない事象は起こり得ない以上」
人一人の尊厳を還付無きまでに踏みつぶす算段をしながら、笑っていた。
「これは神の望みでも有るのですよ」
……だから、俺も笑って少女を汚せちまうのだろうか。
シャワーから上がった俺は、赤く上気した頬ながらも何かを堪えようと大きく深呼吸をする少女を見つけた。
その、汚されるだけの運命しか待っていない哀れな姿に……剛直は素直に反応して俺の下っ腹をつんつんと突付く。
前に回って、少し目線を下げると水色の布がその色を暗くしているのがありありと分かった。
「濡れてるな」
何の気無しにポツリと呟くとハルヒは狂った様に首を振って喚き出した。目隠しの奥から涙が滴る。幾筋も、流れ落ちる。滂沱の涙。
俺は少女の頬にベロリと舌を這わせた。ハルヒの身体がビクリと跳ねる。
塩辛い筈のその液体を、なぜだかじんわり甘く感じちまったのは、とうとう俺の頭までもが改変されちまったせいだろうか。
出来る事ならキスの一つもしてやりたかった。合意では勿論無いし、やる事は真っ当な恋愛の延長上とはほど遠い。
だが、少なくとも俺には優しくしてやりたい意思が有る事を教えたかった。が、媚薬を口の中に残している相手ではそれも叶わない。
女性だから堪えられる類の薬。男では立ち所に壊れてしまう薬。
……キスを許さなかったのは、それすらお前の願望なのか、ハルヒ?
お前は、心のどこかでこんな風に蹂躙されるのを望んでたって事か?
そんな疑問をグルグル回す俺の目の前で、少女は急速に、そして確実に息を荒げていった。

「んぅ……んう……う、むぅうぅぅっっ!!??」
ハルヒが一際大きく鳴いて、次いで水音が静かな部屋の中に響いた。炭酸飲料の栓を抜いた時の音を少しばかり間延びさせた様な。
それは少女の下半身が出所だった。
「んぁっ? なんだ?」
ちょろちょろと、閉め忘れた水道の蛇口の様に……俺の視線の先でハルヒは失禁していた。
「ハル……ヒ?」
あの天真爛漫にして唯我独尊を地で行くクラスメイトが。
「ンゥウウゥッ! ウ、む……ンむゥウッ!!」
道を歩けば十人中九人が振り返る美少女が。
「え……えと……も、もら?」
俺の見ている前で堪え切れずに小便を漏らしているという紛れも無い現実。
涙は止まらずに赤く染まり切った顔に透明な川を作る。
何かに抵抗しようと首を激しく振る度にそれが辺りに染みを作る。
制服のシャツに、床に。そしてそれ以上に床は少女の排泄物で濡れていた。
椅子から、一滴また一滴。薄い金の雫がしたたる。

……俺は射精していた。

ハルヒの着ているスカートに、濡れそぼって陰部に張り付いた下着に。俺の放った白濁が掛かる。
その様はとてつもなく陰隈で、たまらなく耽美で、これ以上無く背徳的で。
「ハ……ハル、ヒ……?」
俺の手は自然と少女の身体に伸びていく。止める事も、堪える事も、出来る筈など無かった。
「あ……服……汚れ、ちまった……から」
肩口に手を掛ける。熱い息を吐いたハルヒは、また少し尿を漏らした。
「脱がないと……いけない……よな」
震える手。震える身体は二人分。俺も、ハルヒも恐らくは興奮から震えが止まらなくなっていた。
「先ずは上から。そうだよな?」
ハルヒは何も、喋らない。
布が裂ける音。座り込んだ体勢では勿論脱がす事は出来ないから、次善策として俺は服を切り刻んでいた。
「動くと……肌が切れるからじっとしてろよ?」
少女が少女である証拠とも言えるセーラーが、無惨に布切れと化していく。誰あろう、この俺の手で。背筋をまた、何か黒い物が走り抜けていった。
白い、月の様に照り返す肌が一ヵ所。また一ヵ所とその姿を晒していく。
「……ぅ……ぅうっ……」
ハルヒは声を押し殺して、泣いていた。だが、それだけじゃないのは、広がっていく床の水溜まりが何より雄弁に語っている。

「綺麗な肌してるな」
上半身を隠す物はブラジャーだけになっていた。
パンツとは似つかないオレンジのブラ。
そりゃあそうだろう。こんな目に遭うとは夢くらいにしか見ていなかっただろうから見せる準備なんかしている訳も無い。
……ハルヒにとってこの拉致レイプは唐突に、突然に襲いかかった悪夢なのだから。
いや、言葉を間違えたな。これは決して、夢なんかじゃない。
手にしっとりと吸い付く少女の汗ばんだ肌。部屋に籠る淫らな臭い。
耳に掛かる荒い吐息。足先を濡らす生温い液体。そのどれもが、リアルだった。
そして、スカート生地の焦らす様な刻み難さも、空いた穴から覗く腰が形作るなまめかしいラインも全て。

神が望んだ淫夢では決して無く。
それは……そう。俺だけの為に用意された現実に思えた。

刻んだ布切れが、ある物は身体に纏わりつきながらも視線を遮る役目を放棄し、ある物は金の水溜まりに沈む。
ハルヒを覆っている物は、頼りないブラとパンツだけ。
そのパンツも既にグショグショで中身を半ば透かしていた。
守るというよりも、彩るといった方が今ばかりは正しいんだろう。
ブラの肩紐を切り落とす。ワイヤータイプでないそれのカップは慣性に従って少しばかり捲れた。
胸の上部に空いた隙間から……大きいと言って差し支えないだろう、乳房の肌を覗く事が出来た。日に晒される事の無い、肌色よりも白に近しいそれ。
山の頂きは見えない。冷静なんて言葉は脳内辞書からページごと破り捨てられちまっていた。俺は半ば焦る様にカップを毟り取る。
「……悪くないな」
賛美の溜息と呟きに一瞬身を跳ねさせるハルヒ。
「胸自体はデカい部類に入るのに、乳首は案外可愛らしい大きさって、まるでハルヒ自身を表してるみたいだな」
俺はピンクの小粒を指で摘んだ。そのまま、人差し指と親指で弄り回してやる。
「ん、ぅぅうぅっ!!」
ぷしゃり。股間からたらたらと液体が零れる。ったく、堪え性の無い女だな。
それとも、そんだけの効果の媚薬なんだろうか。……とは言え、知ったこっちゃねーな。

「つまんだだけだってのに、なんだよ、その反応? あー……もうお漏らしなんて恥ずかしくないとか達観してたりするのか? ははっ、流石は団長様だな」
ああ、俺は狂っちまったんだろう。すらすらと、嘲りの言葉が出て来る。出て来る。出て来る――。
「人前で失禁しようがそれでも唯我独尊ってか。スゲェよ、お前。俺なら少しでも我慢しようとするんだけどな?」
ぷしゃり。ぷしゃり。
「あーあぁ。なんだ、コレ。下着? その割には水吸ってぐっちょりじゃねぇか? どんだけ漏らしてんだよ、ってかそれ以前にどんだけ小便溜めてたんだよ、っつー話だ」
せせら笑った。小さな部屋に、哄笑と、泣き声と、水音が反響する。
ああ、人はこんなに簡単に狂えちまえるモンなのかと、知った所でそれがなんだって言うのか。
「だが、流石にお漏らし大好き団長様でももうそろそろタンクは空だよな、ハルヒ?」
ハルヒは泣きながら、何度も腰を振って……何度も失禁していた。


追記:続きません♪


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あきゅろす。
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