ハルヒSSの部屋
めがっさいただきますっ!
鶴屋さんの隷属おまけ

二人っきりの部屋。背中越しに聞こえる衣擦れの音が脳を焦がす。かさり、と布の塊が床に落ちる音が聞こえ、耳元で少女が囁く。
「二人っきりだね、ご主人様」
吐息の温かさも艶かしく。俺の理性は何時の間にか割り当てられた仕事を放棄してしまっていた。
「貴女が……貴女が悪いんですよっ!」
振り返って半裸の女を抱き締める。少女の肩は想像以上に華奢で。
「貴女が……そのっ! い、色っぽ過ぎるのがいけないんですっ!」
何をのたまっているのだろうか、俺の口は。悪いのは我慢の利かない愚息……いや、理性である事は疑いようがないのだが。
「俺は悪くない! 健全な男子高校生相手にこんな誘惑する貴女が……っ!」
全く、我ながら責任転嫁もいい所であると思う。
「貴女がわるっ!?」
しかし、そんなテンパっている俺の、頭を彼女の腕が優しく抱き締めていた。
「そうだねっ。この場合、悪いのはアタシだよ。ご主人様はむしろ今までよく我慢したよ。……エラいエラい」
俺は遠慮も何も無く力を込めて少女を抱き締めている。きっとかなり苦しい筈だ。
なのに、彼女はそんな素振りを決して見せなかった。

「……入りません」
俺は少女にのしかかった体勢のまま、そう呟いた。
「うーん……もう少し強くしてもご主人様相手なら我慢出来るっさ」
少女が目尻に涙を溜めながらも気丈に振舞う。言われた通りに腰を送り込む力を強くしてみるが、しかし『それ』は堅固に俺の侵入を拒み続けた。
「……やっぱ、入りません」
「あ……あーあ、萎んじゃった……」
少女の言葉通り、俺の分身はへなへなとやる気無く倒れてしまっていた。

何故だろう。こんなにも抱きたい少女が目の前に居るのに。こんなにも情欲を煽る肢体が俺に向かって開かれているのに。
如何して俺の分身は硬度をうしなっていくのだろうか。
怖い? ……そうさ、俺は今凄ぇ怖い。
俺は……俺自身は特に失うモンも無いさ。此処でコトを済ませてしまっても、無くすのは魔法使いになる資格ぐらいで。正直、そんなもんも童貞というレッテルも、失って喜ぶ事こそあれ嘆く必要などミジンコの体積程も有りはしない。
ならば、何を恐れているのか。……決まっている。
この麗しい先輩に、一生消えない傷を付ける。その事に俺は戸惑っていたんだ。

女の子にとって「初めて」は特別なものである……らしい。何でも、どれほど「その類」の経験を重ねたとしても決して忘れる事は無いんだそうな。
俺の目の前でベッドに寝転んでいる少女にとって、俺の大切な女にとって、その「特別」の相手が俺で本当に良いのか。
俺は……正直に言おう。戸惑っていた。
ましてや彼女はご令嬢で。
月の光差すバルコニーで気高く揺れる一輪の百合の華を、この手で手折ってしまう度胸も無ければ、その資格が有るとも俺には思えなかったんだ。

少女がどれだけ俺の事を想ってくれていたとしても。俺との行為を望んでくれていたとしても。
心の何処かで「俺なんかが」と思ってしまうんだ。どうしようもない卑屈っぷりだと自分でも思う。
けれど、俺は……自己嫌悪に陥っちまうくらい鶴屋さんを好きになっちまってたんだ。出来る限り大切にしていきたいと、そう考えていたんだ。
こんなのは全部出来なかった言い訳でしかない。そんな事は幾ら馬鹿な俺だって理解してる。
だけど……それでも。

産まれたままの姿の鶴屋さんと、そこに全体重を預けて崩れ落ちている俺。口から知らずに溜息が漏れて。
「そう、落ち込まないのっさ、ご主人様っ!」
頬に柔らかな感触が降った。
「初めて同士なんだから、最初から何もかも上手くいく方がオカしいってモンだよっ!」
そう言って首から回されていた白い腕が、俺の頭を撫でてくれる。
「……鶴屋さん」
「何度だって付き合うからさ……元気出すにょろ?」
少女の腕に抱かれて、なんだろう。俺は安心しちまってたんだ。まるで赤子が母の胎内で心音に身を預けている時みたいに。
俺は安心して、脱力して。愛しい先輩の体に全てを預けていた。

「それにモノは考えようだよっ。『初めて』をまた一緒にどきどき出来る、って思ったら鶴にゃんはとっても幸せさんっさ!」
「ごめんなさい……俺、情け無いっすよね」
頭の横で、首を振られる。
「そんな事ナイナイ! こんな事ぐらい一人で抱え込まないで欲しいにょろよ? だって、えっちは二人でするもの……なんだからさ?」
「でも、俺、一方的に萎えちまって……」
「んもうっ! ほらほらっ、元気出してよ! ご主人様が元気無いとアタシも悲しくなるんだよっ?」
「うぷっ!?」

むにょん♪

さて、此処で問題である。上のケシカラン擬音は一体何をされているものであろうか?
ヒントその一。なんか二つの柔らかいものに俺は顔を埋めさせられている。
ヒントその二。頭がくらくらする類の良い匂いがする。多分、石鹸と少女の汗によるもの。
ヒントその三。……先っぽ当たってる……。

「つつつ、鶴屋さんっ!?」
「なんだい、ご主人様? ……お? 脚に当たってるモノがおっきくなったねっ!」
なでなで。
「はぅっ……だ、ダメっす! 今、さ……触るのは……っ!?」
「でも、めがっさかたぁくしないと再チャレンジ出来ないっさ!」
さすさす。
「ちょ……き、気持ち良過ぎっ! ……って、え? 再チャレンジさせて……くぅっ……くれるんですかっ!?」
「勿論だよ、ご主人様っ!」
かぷっ。
「耳たぶは弱いんですっ……マジでキちゃいますんで勘弁して下さいっ!」
「おおっ。ガッチガチだねっ! そろそろ……どうにょろ?」

少女が顔を真っ赤にして俯いて口にした、その一言は、俺の理性を滅多打ちにして崖の上から放り落として海へと流すのに十分な破壊力を持っていた。

「い、入れさせて下さいっ!」
恥も外聞も無く口走る、俺は何処までも捕らわれているんだと思う。
少女に。蜘蛛の糸に絡み取られた羽虫の如く、捕らわれている。
繋がれたのは少女で。身を捧げたのも少女で。
だけど、溺れているのは一体どちらなのか?

「うーん……。良い返事なんだけど、なぁんか違うんだよねぇ〜?」
「は?」
「だって、ご主人様から奴隷におねだりってなんか変じゃないかい?」
「なら、どうしろって言うんですかっ!?」
「……キョン君」
こすこす。
「くぁっ……な、なんですか?」
「コレを、アタシに……そのっ……入れて……下さい」

堪えろ、なんて最初から無理な話だったんだと気付いた時には後の祭り。

「アハハッ! 中々、恥ずかしいモンだね、おねだりって!」
ぷちん。
「ぷちん? ご、ご主人様っ!? どうしたんだい、いきなり抱き付いてきてっ!? アタシなら逃げないから、そんなに……」
さわさわ。
「……こんなに硬くしちゃってたら仕方ないの、っかな?」
「イエス、アイドゥ」
「何故に英語っ!?」

「めがっさいただきます」
「めがっさいただかれますっ! ……優しくしてね、ご主人様ぁ……」


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