ハルヒSSの部屋
ネコトてノヒラ
「今日は冷えるね。夕方から雪だってさ! なんかテンション上がらないかい?」

「いえ、明朝登校時の苦労を考えてしまってまるで上がりません。体温も。鶴屋さんの手は温かいですね」

「キョン君の手は冷たいねえ」

「心が温かいんですよ、俺の場合は」

「おやおや? それはアタシが空前絶後の冷凍人間だと言いたいのかなん?」

「体温は氷点下ですか。冷凍じゃなくて冷徹でしょう、それを言うなら」

「折角の振りに捻りの無い回答は減点一だよ、キョン君」

「貴女が俺に何を期待しているのか、偶に分からなくなる時が有ります」

「そうさね……やっぱり歌って踊れる関西一かな?」

「ボケてツッコめるのが必須条件ですよね」

「それは扨置き。こう見えても鶴屋さんはとっても冷血な人間なのっさ!」

「どう贔屓目に見てもドライとは程遠い性格に思えるんですけど、俺には」

「ふっふっふ。それはキョン君がアタシの真実の姿を知らないから言える台詞だねっ!」

「マジですか、ソレ」

「マジでマジで」

「具体的には?」

「実はアタシは後二回変身を残しているんだよっ!」

「驚きの真実ですよ! 戦闘力53万!?」

「第一形態が浴衣装着っ!」

「うわっ、戦闘力が跳ね上がった!」

「更に第二形態が振り袖っ!」

「えっと……素で見たい自分が居ます」

「更に更にっ! 本邦初公開! 『はいてない』!!」

「……マジですか?」

「確かめてみれば良いじゃないか、若人!」

「……返答に困ります」

「あっはっは。今のキョン君は茹で猫みたいだねえ」

「茹でるのは蛸にしときましょう! 茹で猫みたい、ってその比喩怖い!」

「ほんの冗談だよ?」

「今、この場でそのジョークは黒過ぎますから!」

「真実の姿は分かって貰えたかな?」

「いえ、ちっとも」

「実はアタシは有り得ないレベルの冷却人間なのだよ」

「そこまで戻りますか。そして貴女は人間寒波ですか。冷却じゃなくて冷徹です」

「具体的にはだね」

「はぁ」

「段ボールの箱の中に入った捨て猫を見て涙ぐむくらいさっ」

「情が深いエピソードにしか聞こえません」

「だって『ひろってください』って書いてあるんだよ?」

「ええ。小学校低学年辺りの下手な字で、ね」

「……そんなの……ベタ過ぎて失笑を禁じ得ないじゃないか……よよよ……」

「ええっ? 泣く理由がそこっ!? そこですか!?」

「あれっ? そこ以外に有るの?」

「むしろ、そんな点に哀れみを感じちゃってる事が驚きですよ、俺は」

「アタシならあんなベタな事は書かないねっ」

「そんな気合を入れられても。車のキャッチコピーじゃないんですから」

「いやいや、キョン君。それは違う。違うねっ。捨てる側は、捨てるにしても、なんとかして拾って貰えるような文句を書く義務が有るとアタシは思う」

「……はぁ。正直、先刻から何を伝えたいかが俺にはまるで見えてきません」

「例えば。下校中にキョン君が道端で捨て猫の入った段ボールを見つけたとする」

「拾って帰る訳にはいかないので、罪悪感で一杯になります」

「そして、なるべく見たくないと思いながらも、目が行ってしまう。ちらちら」

「……ごめんな、猫。きっと素敵な飼い主が現われるさ」



「『ここは俺に任せて先に行け』」



「なにそれぇぇっっ!?」

「いや、段ボールに書いてあるのっさ。妙に達筆で」

「かっけぇ!! 格好良過ぎる!!」

「二度見しないかなっ?」

「しますよ! すげぇ見ますよ!!」

「と。こんな感じでさ。目を引くキャッチコピーを捨て猫にも書いてあげると良いんじゃないかにゃあ」

「にゃあ!?」

「にょろに続く新語尾にょろ」

「せめてその一言くらい新しい語尾を使ってあげましょうよ」

「見る機会が生まれれば、それだけ拾って貰えるチャンスも増えるよねぇ」

「世の中では鶴屋さんみたいにエキセントリックな考え方が出来る奴なんて少数ですから」

「やむを得なく捨てるなら、拾われる努力をするっさ!」

「俺に言われても」

「『100g98円』」

「量り売りしないで!」

「『雨が止まなければ良いのに』」

「子猫のくせに悟り過ぎてる!」

「『俺に触れると火傷するぜ』」

「拾わせる趣旨に真っ向から反発してない!?」

「『ぼくはしあわせでした』」

「諦めないで! まだ幸せは待ってるから!」

「『横浜』」

「ヒッチハイク始めちゃった!?」

「『地球破壊爆弾』」

「どう見ても猫なのに!!」

「『段ボールが好き』」

「強がるなよ! そこで強がるなよ!」

「『犬派』」

「飼い主、カミングアウト遅過ぎる!」

「『俺、この戦争が終わったら』」

「死亡フラグだ!?」

「『なまえでよんで』」




「つ……鶴屋さん?」

「『あなたのいちばんになりたい』」

「あ、あの……なんで俺を見て……」

「『ぼくがきっとしあわせにするから』」

「えっと……その……」

「『お前も蝋人形にしてやろうか』」

「そこで落とすんかい!!」


「……で、鶴屋さん」

「なんだい、キョン君?」

「ソイツ、なんて名前にするんですか?」

「キョン」

「へ?」

「猫なのにキョンって面白くないかい?」

「ここにヒトなのにキョンって呼ばれてる男子高校生が居るんですけどね。面白いですか。そうですか」

「拗ねない拗ねない。ほら、手を繋いであげるから」

「両手が猫で塞がっている俺にどうやって手を出せって言うんですか?」

「キョン君の手は暖かいからキョンも嬉しそうだ! 良かったねー、キョンー」

「腕を組む前に一言下さい! お願いします! そしてその名前は紛らわしい!」

「キョン〜、おうちに連れて帰ってあげるからね〜」

「鶴屋さん、その名前を猫撫で声で言うのは反則です!」

「一緒にお風呂入ろっか、キョン?」

「ぐふっ」

「全身、ぴっかぴかにしてあげるからね〜、キョン♪」

「がはぁっ」

「夜は一緒におねんねだ、キョン」

「げほぉっ」


「このおねーさんの家に来たからには、たっぷり愛してあげるからね、キョ〜ン♪」

にゃーん
「……にゃーん」


←back next→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!