ハルヒSSの部屋
Air/藤原くんの消失
prrr prrr

キョン『あいよ』
ハルヒ『あ、キョン?』
キョン『俺のケータイなんだからほぼ十割俺が出るだろ』
ハルヒ『あんた、今日暇?』
キョン『バイトに勤しんでいる訳でもない夏休み真っ盛りの高校生の暇さを舐めるな』
ハルヒ『あたしも暇なのよ』
キョン『あー、悪いがハルヒさんや。本日の最高気温予想はご存知かね?』
ハルヒ『33℃』
キョン『オーケィ。外出は断固拒否する』
ハルヒ『あたしだって、こんな日はエアコンの利いた自室でダラダラ過ごして居たいわよ』
キョン『お前も人の子だったんだな』
ハルヒ『……売ってんの?』
キョン『いや、てっきり海とかプールとかに誘われるのかと思ったんだ』
ハルヒ『考えなかった訳じゃないわ』
キョン『だろうな』
ハルヒ『でもね……今日の直射日光は尋常じゃないのよ』
キョン『家から一歩も出てないからコメント出来ん』
ハルヒ『みくるちゃんだったら五分歩いただけで倒れる方に賭けても良いくらい』
キョン『……いや、団員を賭けに使うなよ』
ハルヒ『団長として流石に人死にが出るような事はさせられないわよね』
キョン『……流石に朝比奈さんでも死にはしないと……言い切れない所が……なんだろうな……このモヤモヤとした感覚は』
ハルヒ『結論として、少なくとも日中は外に出る気がしないのよ』
キョン『ハルヒにしちゃ賢明な判断だ……日中は、って言ったか?』
ハルヒ『日が落ちて涼しくなってからなら平気でしょ?』
キョン『なんだ? 花火でもやろうってのか?』
ハルヒ『はぁ……アンタは本当に甘いわね、キョン。カレーに林檎と蜂蜜ぶち込んだよりも甘いわ』
キョン『ハウス食品の悪口はそこまでだ』
ハルヒ『花火よりもやりたくなる事が有るでしょうが! こう、日中がカーッと暑いと!!』
キョン『……昼間が暑いと夜にやりたくなる事……行水?』

ハルヒ『ビアガーデンに決まってるでしょうが!!』
キョン『……は?』
ハルヒ『ビ ア ガ ー デ ン !』
キョン『……』
ハルヒ『……酒呑もうゼ☆』

キョン『待て待て待て待て待て待て待てぇーい!!』
ハルヒ『古泉君の知り合いがね、ホテルの屋上でビアガーデンやってるらしいのよ!』
キョン『完全にサラリーマンの思考回路じゃねぇか、この阿呆!!』
ハルヒ『なんと一人千円で食べ放題の呑み放題!』
キョン『絶対採算取れてねぇよ、その値段設定!?』
ハルヒ『勿論、古泉君が割引券持ってたからよ?』
キョン『あの馬鹿は本当に顔が広いなぁ、ドチクショウが!!』
ハルヒ『しかも更に古泉君補正で店員も黙認!』
キョン『呑んだら乗るな! 乗るなら呑むな!!』
ハルヒ『と言う訳だから、今夜七時半、いつもの駅前で集合よ!』
キョン『健全な高校生でありたいと常々望んでいる俺はそんな不健全な集まりには参加しません!』


ってな電話が有ったのが正午過ぎ。現在、午後七時をちょい回った所の俺は……一言で状況をより分かりやすく説明するならば「拉致」されていた。
なぜだ。どこの犯罪組織が一介の高校生を誘拐して利を得るというのか。
俺は両隣をターミネータみたいな黒服グラサンに挟まれながら人生という言葉について深く考えていた。
ええい、誰でも良いが、俺に説明をよこせ。
橘「すいません、出来れば任意同行が良かったのですが……事態は一刻を争うのです」
コンビニ帰りに有無を言わさず黒塗りのベンツに引きずり込むのを「任意同行」と言うのなら、警察は戦前と何の変わりも無いな……と、お前か、橘。
橘「手荒な真似はしないようにとシュワルツさんにはお願いしたのです。お怪我は有りませんか?」
いや、確かに痛いとかは無かったよ。プロらしい鮮やかなお手並みで抵抗はおろか状況判断すら出来なかったさ、ああ。
橘「良かったのです」
良くねぇよ。……で? 何か有ったのか、橘?
橘「そうなのです! 簡潔に言います。佐々木さんが攫われました!!」
……は?
橘「あちらの機関が実力行使に出たようなのです!」
な……なんだってー!?(棒読み)
橘「なんなのですか、そのリアクション?」
いや、驚いちゃいるが……あちらって言うと古泉の機関か?
橘「そうですっ!」
おいおい、マジですか。
橘「彼らの要求は二つ……キョンさんを今日の八時までに○×ホテルの屋上に連れて来る事と……」
アレ? そのホテルの名前、俺つい最近聞いた気がするんだが。
橘「組織の人間一人当たり三千円を用意しろ、との事なのです!」
……ああ……ああ。
「金銭を要求してくる所を見ると……彼らも本気なのです!」
スマン。拳を握り締めて使命感に燃えている所悪いが、既に展開が読めた。
橘「わたし以外の組織の人間はなるべく会社帰りのサラリーマンっぽい服装をしろ、との要求も有りました!」
……だろうなぁ。
橘「周囲の人間に怪しまれないように、という事なのです。彼らは大衆の面前で取引をする事によって、わたし達の行動を封じる気なのです……姑息です……」
……なぁ、橘?
橘「なんですか?」
多分、佐々木は拉致とか誘拐とかじゃないぞ。どっちかと言うと招待だな。
橘「な……なんでそんな事がキョンさんに分かるのですか!?」
いや、確証は無いんだけどさ。
橘「だったら……なぜっ!?」
ただ、想像くらいは出来る訳で。恐らくはエキストラが足りなかったんだろうなぁ、とかさ。
橘「は? エキストラ?」

古泉の指定したホテルは、地上12階地下駐車場完備の、俺とは縁も所縁も感じられない高級そうなホテルだった。
橘「……ここが指定されたホテルです」
そうかい。
地下駐車場から屋上までの移動はエレベーターで、とりあえず俺と橘の二人で来いとの事らしい。
橘「佐々木さん、無事でしょうか」
さあ、どうだろうな。
橘「……万一の時は、このホテルを灰燼に帰してでも」ブツブツ
そんなに緊張してるとすぐに酔うぞ。
橘「そ、そうですよね。……酔う?」
チーン
音も無くエレベーターが開き、屋上に設置されたビアガーデンに俺達が足を踏み入れると
ハルヒ「遅い!」
――テーブルの上に仁王立ち、右手には大型のピッチャー(ビールが大量に入ってるジョッキみたいなもんだ)
左手は腰に当てて立つその姿が、やけに様になっていたのを覚えている。
えらいアル中がそこに居た。
古泉、会計は先なのか?
古泉「あの、まずは涼宮さんに反応してあげてもらえると……」
ハルヒ「あんたが来るまでビール飲まずに待っててあげたんだから……ゴクゴクゴク……っぷはー!」
文字通り、来るまでだけだな。待ってたのは。
橘「え? え? これって?」
古泉「2名様ご案内です」
橘「古泉一樹! 佐々木さんはどこに!」
古泉「あちらにお見えですよ」
佐々木「やあ! 遅かったね」
橘「普通に居るー!」
まあ、こうなってるのはだいたい想像できてたんだが……。事情を説明してもらおうか。
古泉「ああ、値段設定が涼宮さんに伝えた金額と橘さんに伝えた金額で違うのは、ただの嫌がらせです」
そんな事はどうでもいい。っていうかやっぱりそうなのかよ!
つまりだ、お前はハルヒがビアガーデンに行きたいって欲求を叶える為に、こんな馬鹿げた事をやってるって事なのか?
古泉「全然違います」
……へ?
古泉「ただ単に、僕が飲みたくなっただけなんですよ。実は」
なあ、機関ってこんな馬鹿しか居ないのか? それで守れるのか? 世界。
古泉「まあまあ、みなさんお待ちですのでそんな堅い話は後でまた」
いや、これって結構重要な事だと思うんだが……まあいいか。

常識が通じない展開に早々と頭痛が始まった俺だったのだが、
みくる「キョンくん! こっちですよ〜」
ほんのり顔を赤く染めた天使を見た瞬間、この宇宙は始まった。
みくる「はい。まずは駆け付け三杯です」
おっとっと……あ、そういえば朝比奈さんって今日はフリードリンクじゃないんですか?
みくる「え? 何でですか?」
だってほら、孤島の時も映画の撮影の時も、アルコールには凄く弱かった様な。
みくる「ああ。今日は中の人が本気なので大丈夫です」
え? な、中の人? っていうか貴女の前に並ぶ空のピッチャーの壁は何ですか?
みくる「はい! かんぱーい!」
なんで貴女はピッチャーで乾杯なんですか!? ねえ?

長門「……待ってた」
お、長門はまだ飲んでないみたいだな。
長門「飲んでない。貴方が来るのを待っていた」
そいつは悪かったよ。って、お前も普通にビールか。
長門「そう」
長門「この最初の一杯の為に、わたしは三年間一滴の水分も喉を通していない」
なんていうか、頑張りすぎだ。
コン ゴクゴクゴク……
長門「…………あの夏を乗り越えて、本当に良かった」
な、泣いてる? あの長門がガチで泣いてる?!

あちゃくら「すげーwww ピッチャー一気とかすげーwww」
キミドリ「……ですが朝倉さんの体格ではそもそもピッチャーが持ち上がりませんよね」
あちゃくら「……ですよねー」

キョン「朝比奈さん!あなた確か酒弱かったはずで……」
みくる「あ、それただの設定ですから」
キョン「朝比奈さんの背後にウワバミが見える……なんという小宇宙……」
みくる「第八感覚です」

佐々木「久しぶりにあった旧友に、何か言う事はないのかな?」
一言で言うと安堵だな。
佐々木「せっかくの再開に言葉を略す事もない。存分に君の言葉で語ってくれ」
なんていうか、ようやく常識が通じる相手にあえてほっとしてるよ。
佐々木「よく解らないが、一応褒め言葉として受け取っておくよ」
っていうか佐々木、俺は橘にお前が誘拐されたって聞いてきたんだが。
佐々木「僕が? 誰に?」
いや、何でもない。
その様子だと、何も知らないみたいだな。
佐々木「どこで話が拗れたのかまでは解らないが、僕がここに居るのはあそこに居るボーイさん」
佐々木「古泉君といったかな? 彼にナンパされたからだよ」
おい、ちょっとそこのボーイここへ来い。走って来い。
走ってきた勢いそのままで殴り飛ばしてやる。
佐々木「まあまあ。僕としては乗り気ではなかったんだけど、参加者に君の名前が出ては来ない訳にはいかないだろ?」
ったく……完全に利用されてるな。
佐々木「それでは、僕達の再会を祝して」
……そうだな。
古泉に制裁を加えるのは、別に後でもいいことだ。
コン

長門 「ウワバミ・巨大なヘビの俗称。特に熱帯産のニシキヘビ類をさす。大蛇。おろちなど」

古泉「呼びましたか、キョンくがふァっ!?」
キョン「秘技……ピッチャー返し」
あちゃくら「すげーww ピッチャー武器にもなるすげーwww」
キミドリ「だから、貴女では持ち上がりませんって」

ハルヒ「ちょっとキョン、何こっそり佐々木さんといい雰囲気になってんのよ」
普通に話してるだけだと思うが。
ハルヒ「何よ、昔の女とよりを戻そうってわけ?」
昔も何も、俺に彼女が居たという公式設定は無い。
ハルヒ「うっうっ……あたしの何が気に入らないのよ!」
いきなり泣き出すなよ? なあ?

みくる「わ〜修羅場ですね」ヒソヒソ
長門「二股をかけていたらしい」ヒソヒソ
みくる「えー! それって本当ですか?」ヒソヒソ
長門「信頼できる筋からの情報。ソースは機関」ヒソヒソ
九曜「――女――の――敵」ヒソヒソ

そこ、適当な事を言って盛り上がらない。それと最後の一人は誰だ。
ハルヒ「あんたが態度をはっきりさせないからいけないんでしょ!」
突然切れんな! 驚くだろうが!
佐々木「くっくっくっ……君と涼宮さんは本当に仲がいいんだね」
ハルヒ「え?! そんな、お似合いの二人だなんて……//」
今の展開のどこをみればそんな発想になるんだ……? あとハルヒ、佐々木は別にお似合いだとか言ってない。

国木田「鈍感だねぇ〜キョン」
谷口 「うらやましくなんかNEEEEEEEEEEEEEE!」

すみません、ちょっとここで休ませてもらっていいですか?
みくる「あの、わたしはいいんですけど……」

ハルヒ「だからキョンはへたれ受けなのよ!」
佐々木「涼宮さんのその感想には、大いに同意するね」
佐々木「だが、彼の場合はそれがいい」
ハルヒ「でしょ! でしょ! いや〜話が合うわね〜」

みくる「あの二人、止めなくていいんですか?」
あれはもう処置なしです。
俺に攻めは無いとか受け専だとか、何の専門用語なんだ?
長門「……」ガタッ
あれ、どうかしたのか長門?
長門「ちょっとあの二人の所に行ってくる」
いやいや、別に止めてくれないくていいぞ?
どうせ止まらないし、下手に近づくとお前まで危険
長門「あなたの本性はへたれ受けではない」
長門「へたれ受け隠れサドが正しい、それを証明してくる」
お前もか、長門有希。

あちゃくら「わたしですよね、彼とお似合いって」
キミドリ「いえ、身長の関係でテーブルの上にすら顔が出せていませんから、わたし達」
あちゃくら「この傘があれば大抵の事は……」
キミドリ「人生、諦めが肝心ですよ」
あちゃくら「こうしてカメラをこっちに向けるのくらいなら出来るんですよ。傘スゲーww」
キミドリ「ああ、なるほど。しかしそれ……3カメですよ?」

みくる「でもみんな楽しそうですね。あ! おかわりおねがいします〜」
古泉「畏まりました」
まあ、それだけが唯一の救いですよ。
みくる「たまにはキョンくんも弾けてもいいと思いますよ?あ! おかわりおねがいします〜」
古泉「畏まりました」
でも誰かが冷静でいないと。
みくる「いつもキョンくんはそうやってみんなを見守ってくれてるけど、お休みがあってもいいと思うんです」
みくる「あ! おかわりおねがいします〜」
古泉「畏まりました」
…っていうか、朝比奈さんペース早すぎじゃありません?
みくる「え? そうですか?」
このテーブルと厨房を古泉が延々と往復してる様な気がするんですが。
みくる「じゃあ、スピリタスをロックで」
古泉「か、畏まりました……」
スピリタス? ……ってこれ、ウォッカって書いてありますよ!?
みくる「うふふ……美味しいんですよ〜」
あ、朝比奈さん! せめて水で割らないと。
後藤「染みるぅ……水で割るのもめんどくせぇ」ぼそっ
どうみても中の人だー!

あちゃくら「あちゃくらりょうこ、ふっかつ!」シャキーン☆
キミドリ「Σちっさ!?」
あちゃくら「お酒は魔物ですね……わたしが手を出して良い相手ではありませんでした」
キミドリ「負けっ放しの人生ですね、朝倉さん。ちなみに一度でも勝った事有るんですか?」

その頃
田丸兄「新川さん!このエビはどうしますか!?」
新川「背開きにしてくれ!後は私がやる!」
田丸弟「大皿パスタが切れそうです!」
森「ビール樽持ってきます。うるぁぁぁぁ!」
『バトルキッチン』

あちゃくら「お酒がダメならジュースを飲めば良いんですよ」
キミドリ「最初からジュースにしておけば良かったんじゃないですか?」
あちゃくら「……やったらマズい、って思う事ほど憧れますよねー」
キミドリ「あなたが長門さんに勝てない理由が分かった気がします」

森「ビール樽持ってきます。うるぁぁぁぁ!」
ガラガラガラガラッッッ!!
あちゃくら「前方から滑車が!? ぶ……ぶつかるッ!? ……あれ? ……なぁんだ。そうですよねー。わたし、今物凄くちいさいですもんねー」
あちゃくら「滑車を潜るのなんかお茶の子……あれ? キミドリさん? キミドリさん!?」

キミドリ「……あの速度で激突するとこれだけ飛ぶんですねぇ、わたしって」大空に笑顔でキメ☆
あちゃくら「キミドリさぁぁぁんっっっ!!」

森「古泉ぃ!こいつをあのウワバミに!」
古泉「感謝します森さん」

朝比奈「キョンくん。つまみが切れたから持ってきてください。ゴクゴク……プハァー!たまんね〜!」

あちゃくら「キミドリさん! キミドリさん! しっかりして下さいっ!」
キミドリ「わたしは……もう、ダメみたいです」
あちゃくら「何、弱気な事言ってるんですか、キミドリさぁんっ!」

長門「邪魔」キック☆
あちゃくら「キミドリさぁぁぁんっっっ!!」
キミドリ「自分でも今日は飛び過ぎたと思います」

古泉「平和ですね」
キョン「どこがだよ。俺には酔っ払いの成れの果てしか見えないぞ。死して屍拾うものなし、だ」
古泉「たまには、良いじゃないですか? こんなのも」
キョン「……まぁな。だが、『たまに』で良いぞ」
古泉「それを決めるのは僕では有りませんね」
キョン「……あそこで爆睡してやがる傍迷惑な神様か」
古泉「いいえ」
キョン「なら、誰だよ」

古泉「『僕たち』でしょう」
キョン「念の為に聞くが、俺はその中に含まれてないよな?」
古泉「ご冗談でしょう?」
キョン「冗談だけどさ」
古泉「……こういうのは、お嫌いですか?」
キョン「……嫌いじゃないから、困るんだよ」
古泉「ふふっ。そう言うと、思ってました」
キョン「仕方が無いだろ。あのハルヒにどれだけ付き合ってきたと思ってる。免疫だって出来るさ」
古泉「そして、それを楽しむだけの余裕すら持っていらっしゃる」
キョン「踊る阿呆に見る阿呆、ってな。阿呆なのは自覚してるから、後はスタンスの問題だ」
古泉「……貴方が、たまに羨ましくなりますよ」
キョン「やめとけ。俺なんかになっても良い事は一つも無いぞ」
古泉「それはどうでしょう? しかしながら、僕には荷が勝ち過ぎるのも、また事実かと」
キョン「何でも要領良くこなしてるお前に、俺の代わりが務まらないとは思えんな」
古泉「買い被りですよ。過大評価も良い所です」
キョン「それを言ったら俺だって同じだ」
古泉「かも、知れませんね」
キョン「きっと、誰にも誰かの代わりなんて出来ねぇんだよ。そうじゃないと、俺たちが一人一人生きてる意味が無い」
古泉「……今日は詩人ですね」
キョン「アルコールのせいだろ、多分」
古泉「……たまには、こんな日も、有っても良いと思いませんか?」
キョン「このタイミングでその質問は卑怯だぜ、古泉?」
古泉「……貴方は以前、自分は月だと仰った」
キョン「あ? そんな事言ったか?」
古泉「ええ。涼宮さんは太陽だと」
キョン「……記憶に無いな」
古泉「貴方にしてみれば戯言だったのでしょう。でも、僕は覚えています」
キョン「お前の言う事は当てにならんからな」
古泉「これは手厳しい。ですが、キョン君。僕はしっかりと記憶していますよ」
キョン「そんな下らない事を一々覚えてるなよ」
古泉「下らなくなんてありません。僕はそう呟く貴方を、まるで太陽の様に眩しく感じました」
キョン「俺が……太陽?」
古泉「貴方の様に、なりたかった。漠然とそう、思ったんです」
キョン「だから、お前は……」
古泉「ええ。僕は僕にしかなり得ない。分かっていますよ。言いたいのは、ですね」
キョン「毎度の事だが、回りくどいぞ、お前」
古泉「貴方も、きっと誰かから見れば輝いている、って事なんです」
キョン「……俺が……ねぇ? にわかには信じられん話だな」
古泉「そうですか? 少なくとも僕は、このSOS団と佐々木さんと愉快な仲間達とを結ぶ唯一の糸は貴方だと、そう思っているのですが」
キョン「……だから、そう一概に否定しづらい発言をするな、っつの」
古泉「……もしかして、照れてますか? 頬が、赤いですよ」
キョン「だから、アルコールだっつってんだろ。一々、言わすな」
古泉「そうですね。全てお酒が悪いのだと、そうしておきましょうか」
キョン「……お前は、今でも俺になりたいのか?」
古泉「まさか」
キョン「そうズバリ否定されると腹が立つんだが」
古泉「僕は、今の立ち位置がこれでも相当に気に入っているんですよ。……貴方も、そうではありませんか?」
キョン「……知らん」
古泉「素直は、美徳ですよ」
キョン「捻くれ者で結構だ。ああ、なんかムシャクシャしてきた。呑むぞ、古泉!」
古泉「はい。僕で良ければ付き合わせて頂きます」

古泉「(今の貴方のむくれた横顔が涼宮さんにソックリな事、気付いていますか、キョン君?)」

キョン「今夜は呑むぞ、馬鹿野郎! さっさとお前も飲み物貰って来い!」
古泉「(……僕は、貴方の……貴方達の友達というこの立ち位置が、非常に心地良いんですよ)」
古泉「今、行きます! 先に始めてるのはご勘弁下さい!」

古泉「(僕は、一度だけ、機関を裏切って、貴方達の、貴方の味方をします。そう、約束します)」

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