ハルヒSSの部屋
世界で一番おひめさま
「さて、ではこれより明日の不思議探索に関するSOS団臨時会議を始めます!」
あたしは団長席から皆をぐるりと見回してそう言……あれ?キョンだけ?
「さも、今気付きました、みたいに言うな」
悪かったわね。実際、今気付いたんだから仕方ないじゃない。
「さっき俺が説明しただろうが。人の話はちゃんと聞きなさい」
「……どーせ、いつもみたいに蚊の鳴くような声で話してたんでしょ?上官に上奏する場合はそれなりの場所と態度を持って臨みなさい!」
「ハルヒ……お前は…いや、なんでもない」
神聖にして不可侵の象徴たるSOS団団長に対する当然の礼儀って奴よ。キョン、学びなさい!
「何よ、男のくせにはっきりしないわね。まぁ、良いわ。で、みくるちゃん達はどこへ行ってるの?」
「朝比奈さんは鶴屋さんの家に今日明日と泊まりだそうだ。お前によろしく言っておいてくれと、朝比奈さんから言われたよ」
「何、それ?って事は明日の不思議探索も来れない訳?」
「まぁ、そうなるな。俺から謝っておいてくれ、とよ」
そう言ってキョンが大きく溜息を吐く。むぅ。みくるちゃんもSOS団としての自覚が足りないんじゃないかしら。
「有希と古泉君は?あの二人は何してるの?」
「長門は私用。珍しくな。里帰り的なものをするんだそうだ。やっぱり明日は団活に参加出来んらしい。古泉はいつも通り、バイトだな」
え?それって……もしかして……、
「ちょっと、この流れ……古泉君も明日来れないとか言い出すんじゃないでしょうね」
「お、ハルヒのくせに話が早いな。その通りだ」
ハルヒのくせにって……って違うわ。それよりも考えなきゃいけない事が有るわよ、あたし!
みくるちゃんも有希も古泉君も休み。それってつまりキョンと今日一日この部屋に二人っきりってことじゃないの?
今日一日じゃないわ。明日の不思議探索だって、二人だけでやるならデートみたいな……デートそのものじゃない!?
心臓の動悸が、途端に激しくなる。
「ちょ……ちょっと待って!」
「……何を待てば良いんだよ」
キョンが笑う。キョンの笑顔があたしは好きだ。
だけど、あたしはその顔をまともに見れない。なんで?さっきまで何ともなかったのに?二人っきりって意識しただけで?

こんなのはあたしじゃないわ!ああ、もう、誰か助けて。
そう思っていたら絶好のタイミングで鞄の中のケータイが鳴った。あたしのだ。

「メールを確認しがてら、ちょっと出て来るわ。飲み物買ってきてあげる。キョン、アンタ何が良い?」
あたしがそう言うとキョンは目を丸くした。絶滅した筈の動物を再び見る事になった、みたいな奇妙な目であたしを見る。
「何よ?」
「いや、お前の口から『飲み物を買ってきてやる』なんて言葉が出るなんて思わなくてな。ちょっと驚いてるだけだ。気にすんな」
……やってしまった。いつも通り……いつも通りに振舞おうとして逆に粗が出てる。えっと、いつものあたしならどう対応するんだっけ、こんな時。
落ち着け、涼宮ハルヒ。アンタはやれば出来る子よ、うん。
「はぁ?アンタの分は当然出しなさいよ?」
「……だろうな。期待した俺が馬鹿だった」
ダメー!!このやり取り……いつも通り過ぎるわよ!こう、もう少し、いつも通りの中にも優しさとか、女らしさとかを織り交ぜて……有希もみくるちゃんも古泉君もいないって事はチャンスなのよ?分かってるの、あたし?
「なら俺はコーヒーな。寒いからあったかいのが飲みたい」
そう言ってキョンは手の平を差し出す。その上には小銭が乗っていて。
「ふんがっ!」
あたしはそれを引っ掴むと部室から飛び出した。
違うわ。これは逃走じゃないの。作戦を練ってから再度戦闘を再開するための戦略的撤退なのよ!無策に飛び込んでいくなんて阿呆の谷口のする事よ、うん。
あたしは廊下でそう結論付け、よくやった感動したと自分を褒めてやると、未だにピコピコと点灯するケータイを手に取った。

frm 古泉くん
sbt お膳立てはしておきました。
本文 煮るなり焼くなり食べるなり、お後はよろしいように。

あたしは鼻血が出るのを懸命に抑え込まなければいけなくなった。
……自分でも思春期の女の子の妄想力を舐めてたと反省してる所よ。

二人っきり緊急対策会議を開きますin女子トイレ個室!
では、各々思っている事を発言しなさい!
ハルヒA「これはチャンスよ!この機に乗じて一気にキョンをあたしのものにしてしまうべきだわ!」
ハルヒB「ちょっと待って。これは古泉くんによって仕掛けられた陰謀なのよ?何も考えずに乗って大丈夫なの?」
ハルヒC「そんな事よりも、キョンにどうやって告白するか、を論議するべきじゃないの?」
ハルヒD「え、そこまで行っちゃう訳!?あたしとしては手を繋ぐ……くらいで精一杯頑張ったラインなんだけど……」
ハルヒE「まぁ、ぶっちゃけ襲われちゃっても別に良いんだけどね。あたし、キョンの事好きだし」
ハルヒEを除く全員赤面。
ハルヒF「ちょ……ぶっちゃけ過ぎ!落ち着いて!皆も!何でキョンに押し倒されるの想像して赤くなってんのよ!」
ハルヒG「キョン……結構あったかいんだね」
ハルヒF「自重ーーーーー!!!!!!」
ハルヒB「でも、実際どうなのかしら?キョンが古泉くんから指令を受けてる……って事もキョンの性格からして無いだろうし」
ハルヒD「じゃぁ、今回の件は古泉くんの独断専行って事?」
ハルヒE「古泉くんは今回の功を讃えて二階級特進ね」
ハルヒA「で、結局どうするのよ、この状況。利用するの?しないの?」
ハルヒAを除く全員「利用しましょう!」

脳内会議を終えて一息つく。
……あたしってどーしようもない俗物だわ。

トイレの鏡で身だしなみを整える。よし、いつも通り。自分で言うのもなんだけど、結構可愛い顔してるわよね。うん。
そうよ。こんな可愛い女の子と二人っきりで同じ部屋にいるんだから、キョンだって色々と煩悶する筈よ。しない方がオカしいってもんだわ。
割とおっさん臭い事よく言ってる気がするけど、ああ見えて実際中身は普通の高校生だし。
……ちょっとスカート短めにしておこうかしら。
ちょ……何を期待してんのよ、あたしってば!あたしは……あたしは、ただ……、

キョンに「可愛いな」って言って貰いたいだけなのに。

顔が火照ってるのが自分でもよく分かる。でも、これはあたしの正直な気持ち。あたしは、キョンが好きなんだ。
だから、キョン。あたしが髪の毛直して来たのに気付きなさい。
スカート少し短くしたのに視線を向けなさい。
あたしが勇気を出してアンタを二人っきりの不思議探索に誘い出してあげるから「へいへい」とか生返事返さないで。
これから持って行くコーヒーを受け取るくらいの気軽さで良いから、だけどちゃんと受取って。
デートコースの中に美味しいケーキを出す洒落た喫茶店も入れて置きなさいよ。
それとそれと……、

「お、ハルヒ。また甘ったるそうなの飲んでるな」
キョンが飲んでいるのはブラック。あたしはカフェオレ。
「甘いのが欲しい気分だったの!」
「何をイラついてるんだよ?」
キョンが笑う。あたしはキョンの笑顔が好きだ。
「糖分が必要なの。これから戦場が待ち受けているんだから」
「何だよ、それ」
キョンがまた笑った。あたしはキョンの笑顔が好きだ。

「女の子は女の子であるだけで毎日が戦場なのよ。心得て置きなさい、キョン!」
あたしはキョンの笑顔が大好きだ。

女の子は女の子であるだけで凄いの。だから、わがままなんて当然なの。
だって、女の子はみんな、おひめさまなんだから。
キョン。あたしの事を、夢見るおひめさまでいさせてよね、ずっと。

"World is mine"closed.


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