ハルヒSSの部屋
月が綺麗で三日月で
「吠えたくなるわ」
いつもながら、突然だな。しかし、電話口で吠えるのは勘弁してくれ。……今日はどうした?
「どうもしないからよ」
そうかい。
「そうかい、って何よ」
三日月を見ているのかと思ったんだ。
「はぁ?」
 
「お生憎様。アタシには夜に部屋のカーテンを開けて空を見る趣味は無いの」
勿体無いな。
「何がよ」
今夜の月は悪くないぜ。叫び出したくなるくらいには、な。
「……アンタ、電話越しだと性格変わるのね」
そうでもない。
「でも、今は月を見てるんでしょ?」
ああ。
「らしくないわ」
らしくない、か。きっと月が細くて明るいからだな。あんなに綺麗な月が悪い。
「馬鹿じゃないの?」
今だけは馬鹿でも良いな。
「単なる三日月じゃない。あんなのなら一月に一遍は見れるわよ」
俺の眼に映ってる月と、お前の眼に映っている月は違うのかもな。
「そんな訳ないでしょ」
 
満月は吸い込まれそうで悪くない。今夜の月は。
「雲は無いけど、フツーの三日月よ」
猫の爪の月が浮かんだら迎えに来て、か。
「何よ、それ」
何でも無い。只の妄言だ。
 
「アンタ、今日オカしいわよ?」
お前は太陽だもんな。分かんねぇよな。
「た、太陽?」
俺は月か。もしくはイカロスだ。
「アンタ……頭でも打ったんじゃないの?」
……眩しいんだよな。憧れて焦がれて。だけど近付けない。
 
「キョン……」
自分が月だと、分かっているから尚更キツいんだよなぁ。どう足掻いても輝く側にはなれそうにもねぇから。
「嫉妬してるの?」
誰が? 誰に?
「アンタが。アタシに」
 
……かも知れん。
「……アタシは月に惹かれたりはしないわ」
太陽にはなれそうにも無いね。
「だけど……だけど月と太陽は地球から見たら同じ大きさなのよ!」
なんだ、そりゃ。
「キョン、アンタは月になりなさい!」
意味が分からんぞ。
「全力で! 自分は光ってるんだ、って振りをしなさい! ……そう、言ってるのよ」
 
……所詮は振りだろ。
「そうよ。アンタは月で、太陽にはなれそうにもないんでしょ?」
無理だな。
「でも、太陽に憧れるんでしょうが?」
ああ。
「なら、アンタは太陽に並ぶ綺麗な月になりなさい!」
 
でも、月は太陽が無いと輝けないんだぜ?
「それくらい、アタシに出来ないとでも思ってるの!?」
は?
「アタシが! アンタを! 照らしてやるわよ! 全力で!!」
 
……燃え尽きちまうぞ?
「舐めんじゃないわよ」
いや、お前じゃなくて俺が。
「その辺は自分で距離を調節しなさい!」
……なぁ。俺でも光って見えるようになるかね。
「……なるわよ。誰からパワーを頂いてると思ってんの?」
そうだな……ああ、お前はやっぱり太陽だよ。
 
ありがとな。
 
「アンタ、今日落ち込んでたでしょ?」
まぁな。
「盛り返した?」
……少し。
「そ」
お前のお陰だ。
 
「月が綺麗ね」
お前、月に惹かれたりしないとか言ってなかったか?
「月は月で悪くないわよ」
そうか。
「そうよ」
 
……そうか。
「……そうよ」


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