ハルヒSSの部屋
I'm still waiting for you
「電車のドアが閉まって、二人の時間は幕を閉じた。
君が二度と此処に来ない事に気付いてた。
私は最高の笑顔で、それが思い過ごしである事を祈って。
あの駅のホームでの出来事。
君の全ては忘れられない思い出になり、
二人の 愛しくて懐かしい約束だけが、此処に捨て去られた」


やぁ、キョン。こんな時間に申し訳無いね。一寸、良いかい?

嗚呼、僕の方から電話するのは久し振りだね。うん、僕も何か一寸違和感が有るな。

何時もは面と向かって話すだけだからね。其れも今となっては偶に、だが。君の自転車の荷台に揺られていた頃が懐かしいよ。

こんな秋の夜には如何しても思い出さざるを得ないな。あれは僕にとっても人生で五指に入る楽しい思い出だった。

うん、きっとこのランキングは未来永劫変わらないと思うよ。君も少しでもそんな風に思っていてくれれば、僕は嬉しい。


「今 私には、
他の楽園と幸せが在る。
だから胸は痛まないけど
時々心が揺れるんだ」


え?何か有ったのか、って?

否、君が心配するような事は何も無いよ。橘さん達とも仲良くやってる。

うん、そう。だから、こっちは変わりない。そっちは如何だい?

あはは、そうか。そう言えば今日はハロウィンだったか。確かにあのお祭り好きの涼宮さんがこんなイベントを逃す筈は無いね。

笑い事じゃないって?

ははっ、済まない済まない。しかし、他人の不幸は蜜の味とは良く言うだろう?人間は他者と自分とを比較して自我を手に入れる生き物だから、之はもう仕方の無い事なのさ。

そうだね、遺伝子に刻まれた業と、そう言えるかも知れないな。

否、只の戯言だよ。聞き流してくれ。

え?真逆!僕がそんな低俗な趣味を持っていると、君がそう思っているのなら之は極めて遺憾だと言わざるを得ないな。

一度啓蒙する必要が有りそうだよ、之は。嗚呼、今から考えるだけで楽しみだな。くっくっく。

僕の何処が涼宮さんみたいなんだい?

ふぅん、君はそんな風に僕を見ているのか。否、そんな事は無い。光栄だよ。

何しろ、あの涼宮さんと僕を同列に扱ってくれているのだから。現人神と知っていながら彼女を人として見ていられるのは君ぐらいのものだろう。

違う違う。心から尊敬しているんだよ。本当さ。

嗚呼、ほら。拗ねないでくれないか。僕が悪かったよ。ほら、機嫌を直してくれ。

電話口で拗ねられても何のフォローも出来ないじゃないか。君は僕を困らせたいのかい?

だとしたら随分と捻くれたものだね。僕の知っている君はもっと素直で可愛かったよ?

……失言だ。聞き流してくれ。

嗚呼、そうだね。電話だと如何も勝手が違うとは僕も思っていたところさ。

本当にキョンは僕の考えを先回りするね。鏡で映した様にそっくりな思考回路だ。

頭の良さと学力の間には何の関連も無いよ。ほら、そう自分を卑下しないでくれ。

又拗ねる……君は一体、如何したいんだい、全く。

自分でも分からんって。もう少し知的生命体としての矜持を持ってくれないか。


「君の見せてくれた景色を 二度と見る事は無い。
今 私が見てる全ては、
あの頃の鮮やかな色を失ってしまった。
君の本心を二度と知る事は無い。
でも、私は未だ君を待ってる。
私は未だ君を待ってる。
今でも君の夢を見るんだ。
君も何処かで何か感じてる?」


古泉君みたいにはなれそうにも無いって。馬鹿だね。君は君で良いんだよ。

君は君であるからこそ、僕は君を親友だと、そう思っている心算だよ?

少々臭い台詞だったかな。

まぁ、君の言わんとする事も分からないでは無いがね。しかし、君がもしも古泉君の様な性格を獲得していたら、僕と君は友達にはなれなかったと思うよ。古泉君には申し訳無いけどね。

そりゃそうだ、って君も案外酷いね。否、其れでこそキョンだよ。

そう言えば、ハロウィンに関する話を聞いていなかったな。

否、其の考えは杞憂というものだよ。僕は之でも君達の間で行われている事に大いに関心が有る。

何せ、僕達の世界の神様と言っても差し支えない涼宮さんの動向だ。気にならない方が無理と言うものだよ。

意外、かな?そうか。君の其の考えは尤もだよ。しかし、凄いな、君は。本当に涼宮さんを一人の女子高生として見ているんだね。

そうだね。当然だ。うん、一寸涼宮さんが羨ましいよ。

え?意味なんて無いよ。うん、そう。何時もの戯言さ。

ははっ、君と話していると楽しいと、そう僕は感じているよ。うん、こんな事を話せるのは君くらいのものだからね。

へぇ、君もそんな風に思ってくれていたのかい。之は一寸……否、一寸所では無く素直に嬉しいな。

電話越しで照れないでくれ。私まで恥ずかしくなってくるじゃないか。

うん、お互いに失言だったね。聞かなかった事にしておこう。うん。

さて、其れじゃ今日有った事を聞かせて貰おうじゃないか。

言いたくない所を無理矢理言わせるのが妙と言うものだよ。事は世界の行く末を握っているんだよ?君の好き嫌いで話すのを差し控える事が出来る様なものじゃないのさ。

へぇ、君があくまで言わない心算なら、古泉君にでも今から電話して聞くけど其れでも良いかい?

電話番号?そんなものは如何とでもなると言うものだよ。まぁ、実際橘さん辺りが把握しているだろうしね。

なら、話してくれ。僕だって出来れば君の口から聞きたいんだ。

他意は無いよ。君が観測する人間としては一番適当だと判じただけの話さ。

そう、溜息を吐くのを止めてくれないか、キョン。仕方ないじゃないか。君は選ばれてしまったんだから。

嗚呼、自分の相手を選べるなんて涼宮さんが羨ましいな。

何だい?僕だって乙女だよ。夢想位するさ。其れともキョンは僕を異性として見てくれてなかったのかな?

ふふっ、冗談だよ。そんなに狼狽しないでくれ。嬉しくなってくるじゃないか。

そうだね、之を「いじめている」と表現するのなら、僕はキョンをいじめるのが好きなのかも知れないな。


「君の見せてくれた景色を 二度と見る事は無い。
今 私が見てる全ては、
あの頃の鮮やかな色を失ってしまった。
君の本心を二度と知る事は無い。
でも、私は未だ君を待ってる。
私は未だ君を待ってる」


へぇ、そんな事が有ったのかい。災難だったね、キョン。

仕方ないじゃないか、真実他人事なんだから。笑う余裕の無い君の為に代わりに笑ってあげているんだよ。

そうさ。そうやって敬ってくれたまえ。くっくっく。

しかし、楽しそうじゃないか。流石は涼宮さんだね。企画力と実行力は目を見張るものが有るよ。

否、其れは邪推と言うものだよ、キョン。僕は心から涼宮さんを凄いと思っているんだから。

感染って。そういう言い方は如何かと思うよ。毒されている、位の表現に落ち着けておくべきだ。

僕がかい?うーん、自分では判断し難いが、しかし矢張り少しは影響を受けているんじゃないかな。現にこうして、君に電話をするなんて涼宮さんがいなきゃ考えられなかったしね。

男の子にこんな時間に電話をすると言うのは、之で中々度胸が居るものなのだよ、キョン。白状するとね、通話ボタンを押す時に指が震えてしまったんだ。

そうもいかないさ。再三言っている通り、之でも僕は乙女の端くれだからね。

僕が君の事を異性として見ている?そうか、其の考え方は無かったな。……うん、之は一考の余地が有りそうだ。

止めてくれないか、そういう事を言うのは。幾ら僕でも少し恥ずかしい。

そうさ、乙女だからね。

キョン、君は少し失礼だよ。レディにはもう少し敬意を振舞うものだ。

親友か。まぁ、其の表現は嫌いじゃないが、今此処で其の言葉を持ち出すのは少し卑怯だよ。

分からないのなら、其れで良いさ。其れも又キョンだ。

嗚呼、長電話してしまったね。

そんな事を言っていると本当に又掛かってくるけど、良いのかい。くっくっく。

有難う、キョン。ではお言葉に甘えて又電話させて貰うよ。

うん、うん。それじゃ、又。

あ、そうだ、切る前に言っておかなきゃならない事が有った。

之を言わなきゃ何も始まらないだろう。

Trick? or treat?

今日はハロウィンだからね。僕も便乗してみた。

其れじゃ、おやすみ。


「この物語の結末を 二度と知る事は無い。
私が考える全ては 心の砂漠の足跡になる。
風の吹かない
乾ききった場所。
私は未だ君を待ってる。
私は未だ君を待ってる」


電話を切った後、私は少し泣いた。


「この歌に想いを閉じ込めよう。
幸せになる為に。

この歌に想いを閉じ込めよう」


キョンと私の見ている世界が違っている事に気付いて、少し泣いた。


「電車のドアが閉まって、二人の時間は幕を閉じた。
君が二度と此処に来ない事に気付いてた。
私は最高の笑顔で、それが思い過ごしである事を祈って。
あの駅のホームでの出来事。
君の全ては忘れられない思い出になり、
二人の 愛しくて懐かしい約束だけが、此処に捨て去られた。

今 私には、
他の楽園と幸せが在る。
だから胸は痛まないけど
時々心が揺れるんだ。

君の見せてくれた景色を 二度と見る事は無い。
今 私が見てる全ては、
あの頃の鮮やかな色を失ってしまった。
君の本心を二度と知る事は無い。
でも、私は未だ君を待ってる。
私は未だ君を待ってる。
今でも君の夢を見るんだ。
君も何処かで何か感じてる?

君の見せてくれた景色を 二度と見る事は無い。
今 私が見てる全ては、
あの頃の鮮やかな色を失ってしまった。
君の本心を二度と知る事は無い。
でも、私は未だ君を待ってる。
私は未だ君を待ってる。

この物語の結末を 二度と知る事は無い。
私が考える全ては 心の砂漠の足跡になる。
風の吹かない
乾ききった場所。
私は未だ君を待ってる。
私は未だ君を待ってる。

この歌に想いを閉じ込めよう。
幸せになる為に。

この歌に想いを閉じ込めよう」

"missing time" by L.A.SQUASH



frm「キョン」
sbt「一寸外に出て来てくれないか」

僕は家を飛び出した。

何を被っているんだい、キョン?
「今日、朝比奈さんが被らされていたカボチャだよ。ジャック=オー=ランタンだったか?学校まで行って取ってきたんだぜ」
何をやっているんだい、君は?
「否、こんな時間だからコンビニしか開いてなくてな。ほら、約束のブツだ」
チョコレート?
「悪戯されちゃ敵わんからな」
其れだけの為に態々、こんな時間に?
「深夜の学校に忍び込むのは慣れてんだよ。何故かは聞くな」
僕の為だけに?
「あー、他の奴にこの後会いに行く予定は無いな」
そう……なんだ。
「嗚呼、其れで、だな、佐々木」
何?何でカボチャを被りなおすんだい?

「Trick? or Treat?」
……悪戯で。
「了解。じゃ、月明かりの下、散歩でもしようぜ。秋の夜長だ。こんなのも、偶には良いだろ?」

ねぇ、キョン。今なら言えそうな気がするよ。
「ん、何をだ?」
良いかい、一度しか言わないからよく聞いてくれ。
「改まって、何だよ」

僕……私は君の事が……


"I'm still waiting for you"closed.


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