ハルヒSSの部屋
有心論
お前に出会う前の俺はどこでにでも居る高校生だった。
ただ適当に時間を生きて、ただ適当に時間を捨てて、ただ適当に時間を投げた。
サンタクロースなんかいないと信じていたよ。

お前に出会った後の俺は他のどこにも居ない俺だった。
派茶目茶な事件に巻き込まれて、派茶目茶な思い付きに翻弄されて、派茶目茶な世界を東奔西走した。
サンタクロースだってもしかしたら居るかも知れないと思ったよ。

お前に恋をする前の俺は生きることに投げやりだった。
恋愛なんて甘酸っぱいものとは無縁だと思っていたし、恋愛なんて必要無いと思っていたし、恋愛なんて人生の重しにしかならない。
そう思っていた。

俺の世界には何も無かった。色が無かった。熱が無かった。他人が無かった。
しあわせが無かった。望むものが無かった。行き先が無かった。
なにより、お前が無かった。

今まで俺が俺に言った嘘。今まで俺がお前に言った本当。
俺の中に綺麗な部分なんて見つからなくて。汚い部分ばっかり目に付いて。
でも、お前は俺を選んでくれた。
汚い部分をそのまま、俺らしさだって、人間らしさだって。そう言って受け止めてくれた。抱きしめてくれた。
俺がしあわせに泣いた事を、お前は知らないだろ?

お前に出会えた事は、俺にとって星が生まれた日よりも大切な出来事なんだ。

ずっと明日に希望なんてしなかったよ。楽しい事、俺の想像を越える事なんて有りはしないと思っていたよ。
世界を諦めていたんだ。一人で。ちっぽけな自分の視界の狭さを棚に上げて。
お前はそんな俺を引きずって閉じ切ってた扉の向こう、明る過ぎる外への扉にドロップキックを噛ましてくれたんだ。
首根っこ掴まれて放り出された、世界は広くて。
明る過ぎて、目が眩んだ。明る過ぎて、涙が出た。

そして、世界を面白くないと思うなら、自分から世界を面白くしなさいと。
そうお前は言った。だから、俺はお前の傍にいようと思った。
俺にとって面白い世界ってのは「お前の隣に立った時に見える世界」だから。
俺は死ぬまでお前の隣にいようと決めた。
お前の傍から見える世界ほど面白いもんを俺は知らないから。
俺はお前の傍から離れない、そのための努力ならいくらでもするよ。

俺は誰からも愛されない存在だと思っていた。どれだけ自分が汚い存在か知っていたから。
誰かを失う前に誰も愛さないようにしていた。好きになった人に嫌われないように自分から距離を置いた。なるべく他人に近づかないようにしていた。
格好付けてるつもりだった。それがどんだけ格好悪い事なのか知らない子供だった。

俺から告白したのは、誰かに愛されたくなったからなんだ。誰かを愛してみたくなったからなんだ。
俺の中にも、人を愛したいと思う心が有ると確認したかったからなんだ。
そして出来るなら、相手は誰よりもお前が良かった。

お前に出会う、その前の俺はどこにでもいる高校生ではなかったんだな。
お前に出会うために生まれてきたんだ。心からそう思うよ。
お前は俺に出会うために生まれてきてくれたんだと、心からそう思ったから。
ありがとう。俺なんかの告白を受け止めてくれて。

生きていて良かったと、その時ほど強く思った事は無い。
サンタクロースだって、きっとどこかにいるに違いなくって。

お前が余りに綺麗に笑うから。世界が余りに綺麗に咲くから。
俺は泣いちまって、涙目で笑ったんだ。
嬉しいって、しあわせって、ノートに書いてお前の名前を呼ぶよ。

神様、ってお前の事をそう言った奴が居たけど。
お前は本当に俺にとっての神様だったんだな。
答えはいつも風の中に、ってあれは嘘だな。世界で一番大切なものは目には見えないって言った奴もとんだほら吹きだ。

だってすべての答えは、愛は、今俺の腕の中に有るから。
俺の世界の神様は誰よりもしあわせそうに笑う神様。
俺の世界の答えは誰よりもいとおしい少女の笑顔の中に。

未来にも他人にも、宇宙人も未来人も超能力者も何も信じなかった俺は。
サンタクロースさえも信じちまうような俺に。
お前に出会って全てが変わった。
明日になって、お前の顔を見るのが待ち遠しい。
明日を憂鬱に思っていた俺はもう、いないらしい。

キミさえいれば世界の全てを飲み込んでしまえる。
俺にとってそう思える相手が、お前なんだよ。
願わくば世界の全ての人の前に、そんな存在が現れますように。
お前を見てると柄にも無くそんな事を思うんだ。

世界を作った神様がお前だって、本当にそう言うんなら。
きっと世界の全ての人がどこかの誰かの運命の恋人なんだろう。
世界を作った神様がお前だって、俺はそう信じているから。
きっと世界の全ての人がどこかの誰かの運命の恋人なんだろう。
一人ぼっちの人なんて、誰か一人でも涙を流し続ける世界なんて、きっとお前は望まないから。

俺の中の全ての時間を、お前の傍に居る事に使おう。
俺の中の全ての命を、お前の笑顔を見るために費やそう。
だから、俺は明日もお前に会いに行く。
明日もお前の笑顔を見よう。
そう思って毎日を生き始めた。

そう思って毎日を歩き始めた。なのに。

ここにいないお前を思って一日中泣き続ける。
ここにいないお前を想って一日中泣き続ける。

空に昇っていく煙にも灰にも、お前の笑顔はかけらも見えない。
こんな世界を俺は認めない。こんな結末を俺は認めない。
こんな思いをするために俺とお前は生まれてきたのかよ?
お前の笑顔はどこに有る?
どこへ行ってしまった?
あれだけたくさん笑ったのに。あれだけ心に刻み付けたのに。
全てが時間に攫われちまった。

あれだけ広かった空が、全部雲に覆われて。
あれだけ眩しかった太陽は、嘘みたいに見えなくなっちまった。
神様がこの世界から消えたら、どうなるか。
分かっていたよ。
俺はこの広い世界に一人ぼっちで放り出された。

お前がいなくなった後の俺はどこにでもいる受動的自殺志願者だった。
ただ適当に時間を生きて、ただ適当に時間を捨てて、ただ適当に時間を投げた。
一回りして、ここに戻ってきちまったよ。
だけど、あの時と違うのは。もうお前はどこにもいない事。
もうお前のハレハレな笑顔をどこにも見る事は無い。
全ては風に溶けて消えた。大切なモンは目には見えなくなっちまった。
全く、誰かさんの言ったとおりになった。

息を止めて静かに死を待つ。深海を泳ぐ、魚のように生きる。
街の至る所に、お前のまぼろしを見た。他に何もやる事が無かったから、それを探して拾い集めた。
どんな小さなお前でも。
どんな顔したお前でも。
少しづつ拾い集めて。かけらはどんどん積もっていって。

それはどんだけ拾い集めても限りが無くて。頭の中の半分が少女の思い出で埋まる頃になって、ようやく気付いた。
お前は俺が寂しくないように。俺が一人で泣かないように。
ちゃんとこうして、俺に残していってくれたんだな。
オカしいと思ったんだ。前に拾った所にまた、違うかけらが落ちていたりして。

「キョン、いつだってアンタの背中にはあたしが居るわ!忘れないでよね!」

肩越しに天使が、俺に告げた。
きっと、空耳じゃない。振り向いた先に誰も居なくても。きっと、空耳じゃない。

お前は俺の背中にずっと張り付いていて。ずっと泣いている俺の背中を撫でてくれていたんだな。
俺、馬鹿だからさ。やっと気付いたよ。
やっと、やっと、お前が俺をどんだけ愛してくれているか、分かったよ。
俺がまだ生きているのは。
生きる気が無くても生きていたのは。
お前が一生懸命心臓のポンプを押してくれていたからなんだな。
死ぬな。生きろ。って。死ぬな。生きろ。って。

全身に向かって、血液が回り続ける。

全身に向かって、キミの愛が回り続ける。

お前に出会う前の俺はどこでにでも居る高校生だった。
ただ適当に時間を生きて、ただ適当に時間を捨てて、ただ適当に時間を投げた。
サンタクロースなんかいないと信じていたよ。

お前に出会った後の俺は他のどこにも居ない俺だった。
派茶目茶な事件に巻き込まれて、派茶目茶な思い付きに翻弄されて、派茶目茶な世界を東奔西走した。
サンタクロースだってもしかしたら居るかも知れないと思ったよ。

そして今。
俺の世界にはお前が残していった宇宙人が居て、未来人が居て、超能力者が居て、たくさんの知人友人が居て。
そして、心臓にお前が居て。今だって一生懸命俺の心臓を押してくれていて。
もう、大丈夫。お前の笑顔を思い出したから。

もう、大丈夫。

あのさ。お前は笑うかもしれないけれど。
俺、サンタクロースにでもなってみようかと思っているんだ。

この世界の神様がそうであるように。
その恋人を自称してはばからない俺は。
せめてその自称に負けないようにと。
誰かに笑顔を運んでみようと、そう思っているんだ。


「世界にサンタクロースが生まれた日」

BGM by RADWIMPS 「有心論」


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