ハルヒSSの部屋
雲を食むもの 2
『Starry Sentimental Venus 2』


七月三日、月曜日。世界改変まであと四日。古文と科学と世界史のテストをどうにかこうにか相手にし終えた俺は、頭の片隅でこれからどうすっかなー、などと適当に考えていた。
後ろで早々に帰り支度をしているハルヒ。お前の事で俺は頭を悩ませているんだが? 自覚してるか? してる訳なんざ無いよなぁ。溜息。
……はぁ、ここ三日で幸せが両手からだだ漏れしちまってる気がするよ。
「今日は団活動は無し! その代わり、あんたは絶対に赤点を回避しなさい? 夏休み中に補習なんて手間でしか無いんだから!」
なら、変な閉鎖空間を産み出して世界を人知れず危機に陥れるのをどうか止めて頂きたい。いや、マジで。
今回のテストで赤点を取ったら集中出来なかったって事で……あれ? どこに届け出を出せば良いんだ、コレ?
世界の終焉と戦ってました。だから点数に色を付けて下さい、とか岡部に言っても無理だろうなぁ。いや、赤い色なら望まずとも付けて貰えるかも知れんが。
ああ、これじゃ幾ら世界が救われてもまるで俺が救われない。くそっ、忌々しい。
「なんだ? また、夏休みを遊び尽くすつもりか?」
「当然じゃない。三年になったら受験勉強でそんな事言ってられないでしょ?」
ハイ、受験生真っ盛りの朝比奈さんの事は完全に無視である。本当にハルヒの頭の中は自分中心にしか回ってないらしい。いっそ清々しいね。
「分かったらしっかり勉強しときなさい? 一夜漬けでも何でも良いわ。とにかく赤点さえ回避すれば当面は問題無いのよ。そんじゃ、おーばー!」
「……なら、変なイベントを無意識に企画すんじゃねぇっつの」
教室から走り去っていくハルヒの後ろ姿はいつも通りで、正直アレが世界の滅亡を企む背中だとは俺にはとても思えん。だが、長門と古泉が共謀して嘘を吐いているとも思えない訳で。
しかも実際にアイツが創り出した、閉鎖空間を見せ付けられちまったしな。
さて、どうするか。決まっている。俺も早々に帰って試験勉強をせねばならんのだ。取り敢えずは世界の改変云々よりも手近の平穏、ってね。全く、学力社会なんてモノを作り出した先人が憎い。
俺達が何の手も打てずに世界が変革しちまったら、間違い無く学力至上主義者達の責任である。今決めた。異論は言わせん。
とか何とか考えていると、胸ポケットに入れた侭だったケータイが震えた。うおっ? 誰だ? 何だ?
また、どーせ迷惑メールの類だろうと画面を見る。結論から言うとそれは確かに見る人が見れば迷惑メールに違いない意味不明の代物だった。
「from」に続いているアドレスがドメインも何も無く「future」である。ちょいとSPAMメールにしちゃ夢に溢れ過ぎちゃいないか? どこの業者が未来からメールを送ってくるってんだよ?
ドクか? ドクなのかい? 俺はマーフィーじゃないし、過去に取り残されたりも今年はまだ味わっちゃいないぜ?
……バックトゥザフューチャーは大好物だ。2のラストとかな。
「七月三日午後四時、駅前の喫茶店『夢』。」
タイトルは無題で本文はこれだけ。無味乾燥にも程が有る。
事務的を通り越して嫌々やらされてるんじゃないかとも邪推するが、色々と禁則事項も多いあの人の事だからな。
このメールも規定の内容をそのままなぞっただけなのかも知れないし、それを非難するのは酷と言えるだろう。
しかし、タイミングがばっちりだ。俺が行動に迷っちまった時を見越しているんじゃないかと思えるほどの適切さ。
未来人は時間に煩い。だから時節は外さない、ってか?
……朝比奈さん(小)はアドレス帳に登録してある以上……俺を呼び出したのはあの人だろう、きっと。こんなお茶目なアドレスを使いそうな人は……ちょいと他には心当たりが無い。
彼女に会うのも久しぶりだ。
溢れ出る特盛への期待を膨らませちまったのは……思春期なんだ。仕方ないよな? ああ、どうか大目に見て貰いたい。
朝比奈さん(大)の成熟した色香は、ちょっとした劇物だと考える次第。

「……ふざけんな」
開口一番この台詞が飛び出す俺は我ながら漢だと思う。ああ、三時間分のドキドキを返せ。今すぐ返せ。利子付けて返せ。
「……座ったらどうだ?」
ソイツは悪びれもせずにコーヒーに口を付けた。ああ、確かに「future」だ。未来人だよ。だが……俺としちゃ断固としてこの展開を認める訳にはいかない。
「チェンジ」
悔しいから小さく口にしてやる。くそ、未来人デリバリーサービスの電話番号を知らなかったのが今ほど口惜しく思った事は無い。
「確か……藤原、だったな」
藤原。下の名前は知らない上に恐らくはそれすら偽名。佐々木の側の未来人。
俺を呼び出したのはソイツだった。終始機嫌が悪そうに、居心地悪そうにしている男。「Out of Place Artifact」、オーパーツみたいにどこに居ても場違いな印象を受ける少年。
「呼び方は何でも良い。もとより、そんな物に意味は無い。只の識別記号だ」
面倒臭そうにそう呟く。いや、コイツの場合はその表情が、口振りがデフォルトだったなと記憶を掘り起こす。
「何の用だよ?」
少年の口調に釣られて少し喧嘩腰になっちまうが、まぁ構うものか。コイツは未遂とは言え朝比奈さん誘拐犯であり、そして朝比奈さん(大)の名を騙って俺をのこのことこんな場所に誘い出した張本人だ。
騙った事実は無い? それはスルーだ。事実は違えども誤解させ期待させた時点で十分に罪である。
俺のワクワクを見事に瓦解させたこの罪に対して何の罰も無いなんてのは天が許してもこの俺が許さないぜ、割りとマジで。
「何の用か? ふん、そんな事も分からないのか、現地人?」
決めた、コイツ今日から俺の敵だ。一々口調と発言内容が癇に障る。
「禅問答をする気は無い。俺はこれでも忙しい身なんだ。テストなんて未来人には関係無いのかも知れないけどな。この時間を生きる俺達みたいなのにとっちゃ結構な重大案件だ」
暗に「聞いてやるからさっさと言え」と皮肉ってやる。
だが、期末試験の点数いかんで俺の先三ヶ月の財布事情が決まるんだから、存外に嘘は言ってない。ごく個人的には世界と天秤に掛けれるレベルで重大だ。
「テスト……か。ふん。五日後以降が断絶している状態では意味の無い話だ」
分かってるさ、そんな事。だからと言って俺に何をやれって言うんだ。何が出来るって言うんだ。いや、それを伝えに来たのだろうが。
だがしかし、お前は俺達SOS団の敵じゃなかったか?
「敵か味方か。そんな二元論で世界を計るのは哀れで、滑稽だな、現地人。単純な思考回路しか持っていないのは進化の途中故(ユエ)か? こんな連中がこの先で僕達に繋がっているのかと思うと虫唾が走る」
そりゃ奇遇だな。俺もお前が何か言う度に頬の筋肉がぴくぴく動いちまうよ。
「今回の件に関してのみ言えば僕はそちら側だ。どちら側か……ふん、そんなものにさしたる意味は無いがな」
ああ、そうかい。だが、ちょっと待て。
「何だ?」
「お前は朝比奈さんとは別の未来から来ているんだよな」
「禁則事項だ」
言いながらも眼は「そうだ」と語っていた。それを受けて俺は話を続ける。
「だったら、俺は勘繰らざるを得ない。ここでお前の助言を受けたとして、その先に朝比奈さんの未来が繋がっていない可能性ってのを」
注文したコーヒーを口に含みつつ、藤原の表情を注意深く観察する。ぼろを出すような奴だと軽視している訳では無いが、しかし、もしもそういった何かを見出す事が出来たら儲け物だと思ったからだ。
果たして、藤原は表情を変える事は無かった。ただ、ムスッとした顔のままで言を紡ぐ。
「注意深い点だけは褒めてやっても良い。腐っても鍵、と言った所か。安心しろ。分岐点は未だ先に有る」
「そう言われて俺が『はい、そうですか』と信じると思うか?」
「信じようが信じまいが好きにしろ。元よりそんな事に興味は無い。僕は与えられた仕事を果たすだけだ」
「使いっ走りか。哀れだな、未来人。俺でよければ同情してやっても良い」
同時のタイミングでコーヒーを飲み、そしてカップ越しに視線が交錯する。覗い、覗われる。まるで将棋を指しているような緊張感が俺達の間に走った気がした。
「唯一つ言っておく事が有るとすれば」
カツリとカップがソーサーを叩く。王手飛車取り、会心の一手を放った時のような音が店内に響く。
「僕がお前に接触する事をあちら側が良く思わない場合、なんらかの妨害が有ってしかるべきだろうという事だ。それが無いのは、つまりあちら側にとってもこの接触が既定事項なのだろう。僕はそう考えている」
一理有る。だが、そんな話で煙に巻けると思って貰っちゃ困るぜ、未来人。
「なるほどな……だが、お前らが朝比奈さん達を妨害してこの場に乱入させないようにしているって可能性は捨て切れないだろ?」
「可能性だけは無限大だ。だからこそ、複数の未来が存在する」
へぇ、言うじゃないか。既定事項ってので可能性を束縛するのが趣味のくせに、言うに事欠いて「可能性は無限大」と来るかい。笑わせる。
良いね。面白くない事も無いぜ、未来人。一流の道化の才能が有るな。俺が保証してやる。
「こちら側があちら側を牽制しているのかどうか、そんな事は僕には聞かされていない。知らない以上は答えられない。それが結論だ」
「口を割るつもりは無い、ってか」
「末端に行動以上の作戦内容を知らせる組織は愚かだと言っている。駒は何も知る必要は無い。自分に与えられる命令の先に自分達の未来が有る事さえ確約されていれば、それで十分だ」
自分の事を駒と言い切るか。益々持って哀れだな、未来人。
「矛盾するね」
「何?」
藤原が眉を顰める。カップを口元に持っていく手が中空で停止した。
「お前は『分岐点は未だ先に有る』と言った。つまり、何らかを知らされているって事だ。違うか?」
「……禁則事項だ」
また「禁則事項」かよ。まぁ、いい。話を続けさせて貰う。
「話は聞く。だが、信じる信じないはそれこそ勝手にさせて貰う。お前の話には信じられない点が少しばかり見受けられるからな」
「好きにすると良い」
ああ、そうさせて貰うさ。
「……先に言っておくぞ。俺は未来がどうなるとかは正直知ったこっちゃねぇ」
すいません、朝比奈さん。でも、俺は未来に生きている訳じゃないんです。
「未来ってのは今のその先に有るモノだからな。お前や朝比奈さんにとっちゃ複数有る内の『過去の一ページ』かも知れんが、俺にとっちゃ今が唯一の……お前達の言う所の『時間軸』なんだ」
俺達が生きている今。その先に有るモノを未来人は取り合っている。それは知っているさ。でも。
未来人がそんな事の為に『過去』に干渉してこようと何だろうと、今を生きる俺達には、それこそ関係の無い話なんだ。未来がどうなろうと、そこに生きているのは俺達ではない以上。
「だから、俺はお前らの思惑には乗らない。俺は俺が考えて俺が選んだ選択肢をお前らの未来とは関係無しに生きる」
それは今を生きる俺達の矜持。「今」は「今」を生きる俺達のものだという表明。
「お前や朝比奈さんが何を言おうが何をしようが、それは選択肢の提案でしかない。選ぶのは俺達……いや、俺だ」

World is mine. I can live only now.
だからこそ。

「どんな話を持ってきたのかは知らないが。話せよ。それを聞いて、判断するのはお前じゃない。未来じゃない」
そう。まるで、このテーブルに置かれたコーヒーの様に。飲み干すかどうかは俺次第だ。
「理解しろよ。選択するのは『今を生きる人間』だ」
未来人提供舞台装置。踊るのは俺達。今、ここに生きている俺達。
「今」はつまり、「俺達自身」だ。

「因果という言葉が有る。原因が有るから結果が存在するという、元を糺(タダ)せば宗教用語だ」
未来人は語る。
「これはつまり、原因から結果を推察出来るという意味でも有る。事実、歴史を学ぶのは『温故知新』の精神から来る」
故(フル)きを温(タズ)ね新しきを知る。未来人が言うと少しばかり説得力の有る言葉には違いなかった。
「僕達は未来について話す事は出来ない。その様な発言は未来を変化させかねないからだ。だが、それは『この時代の人間が知り得ない情報を提供してはならない』というのとは少しばかり隔たりがある」
俺達と変わらない姿で、まるで俺達と変わらずにコーヒーを嗜んではいても。
「話しても良い未来という例外が存在する。この時間軸から続かない未来。端的に言ってしまえば、五日後までにあの女の世界改変を止められなかった場合に始まる新しい世界の事だ」
それでも、ソイツは未来からやってきた。
「未来でありながら未来ではない。この先にこそ有れ決して続いてはいない。だからそれについて話しても禁則には触れない。どうやってその世界を知る事が出来たのかは禁則に該当するが」
コイツはコイツで自分の未来を守る為に動いているのは知っている。
「先ほど僕は原因から結果を推察する事が出来ると話した。覚えているか?」
「ああ」
「逆もまた正だ。結果から原因を推察する事は決して不可能ではない。改変後の世界がどんなものなのか分かれば、改変に至る理由も見えてくるのは道理」
俺達の今はどんな未来に繋がっているのか、俺には知る由も無い。
分からないからこそ、手探りで進んでいけるんだろう。
「改変後の世界には、未来人、超能力者、宇宙人、及びその類が一切存在していない。僕からの話はそれだけだ、現地人」
未来人にとって未来は未だ「今」で在り続けているのだろうか、なんて不毛な事を考えた。
先が見えている世界なんて、俺には生きていけそうに無いから。

その夜、俺は試験勉強をやりながら(実際は机の上に教科書を広げていただけだったが)ハルヒの事を考えた。
定期試験の終了日は六日。世界の終焉は七日。
七夕。世界改変。改変後の世界には、未来人、超能力者、宇宙人、及びその類が一切存在していない。
不思議の存在しない世界を望んだ少女。
そうか……そういう事かよ。
ハルヒ。
お前は。
望んだんだな。
望まない事を。
望みが。
叶わない世界を。
それは成長?
それは諦め?
違うだろ、団長サマ。
お前はそんな簡単に諦めちまえる人間じゃないだろ。
宇宙人がいない世界。未来人がいない世界。超能力者がいない世界。
この世に何の不思議も無い世界。
なぜ、望んだ?
叶わないことを知ったから?
追い続ける事に疲れたから?
なぁ、ハルヒ。
お前が信じられないってんなら、さ。
俺が、信じさせてやるよ。

俺達が、信じさせてやる。

七月四日。定期試験二日目終了。
ハルヒを除くSOS団は昨日藤原と会談した喫茶店に集まっていた。
「……って訳だ」
俺の話を聞いて黙り込む朝比奈さんと古泉。長門は常に沈黙をしている様な奴だから特に変化は無いな。
「世界改変が行なわれる理由はなんとなくでは有りますが理解したつもりです」
古泉の言葉を朝比奈さんが次ぐ。
「つまり、涼宮さんが未来人、宇宙人、超能力者その他を疑問視してしまった事が原因なんですね?」
俺はストローで残ったアイスコーヒーを音を立てて吸い込むと、その言葉に頷いた。
「恐らくは。なぜ七夕のタイミングなのかは未だ良く分かりませんが、藤原の言葉を鵜呑みにすると、そうとしか考えられません」
藤原に関して二、三補足を加えつつ説明する。
「虚偽の情報を掴ませて自分達に都合の良い未来を選択させようとしている可能性は有りませんか、キョン君?」
ああ、俺もそれは考えたさ。
「だが、この情報を俺に与えた所でアイツ等の未来に繋がる、あるいは朝比奈さんの未来に繋がらない分岐点が発生するとはどうも考えにくいんだよな」
朝比奈さんがおずおずと手を挙げる。はい、発言どうぞ。
「私もそう思います。今回の件に関しては昨日の夜に初めて古泉君に聞いたのですけど……」
あ、結局自分達じゃどうしようも無くなって未来人まで巻き込んだか、超能力者。
「それに関して未来に問い合わせても返答が無いんです。通信を妨害されているとかは無い様なので、私達の勢力争いとは無関係なんだと思います」
そうですか。……長門、今の朝比奈さんの発言は真実か?
「朝比奈みくるのTPDDに何者かが介入している痕跡は今の所見られない」
「長門さんが言うならば、確かなのでしょうね」
……藤原の言っていた分岐点は未だ先、ってのは真実なのかも知れんが……まぁ、いい。今はそれよりも目先の危機だ。
「それで、えっと、キョン君? どうするんですか?」
朝比奈さんがストローでグラスを掻き回しながら聞いてくる。アイスキャラメルラテ、だったか。黄土色の液体の中を氷が踊る。
「はい、それなんですけど……要はハルヒに宇宙人と未来人と超能力者の実在を少しでも再び信じさせれば良いんじゃないかと思うんですよ」
俺の言葉にギョッとする古泉と朝比奈さん。いや、まぁ……気持ちは分かりますが。
「それは……ちょっと、リスクが高くないですか?」
「えっと、未来人を信じさせるっていうのは……実際に私達の様な未来人を涼宮さんに接触させるという事でしょうか……」
予想通りの反応に少し嬉しくなってしまう。残念ですが、俺だってそんな一歩間違えれば世界がバランスを失うような荒業はゴメンですよ、朝比奈さん。
「だったら、何を……?」
朝比奈さんが机に身を乗り出す。俺はテーブルに肘を突いて悪事を企む代官の様に笑って見せた。
「一緒に夢を、見せませんか、アイツに」

超七夕宴会部長の腕章は、今年だけ俺が貰って行くぜ? 悪いな、ハルヒ。

七月六日。本日をもってテスト終了。結果は聞くな。察しろ。
一つだけ言える事が有るなら、ベストは尽くした。以上だ。
さて、ハルヒはと言うと今日も授業終了と共にクラスを飛び出して行く。まるでロケットみたいなスピードだが、廊下は走るなよー? って、これは今更か。
何か私用でも有るのだろうか。……ふむ。
ま、何でもいいさ。俺も帰ってテスト終了をポテチでも摘みつつ祝う事にしますかね、と立ち上がった所で古泉から入電。最近、このタイミング多いぞ。誰か知らんが手抜きしてるんじゃないのか?
メール内容は至ってシンプルだった。
七夕に台風直撃。以上七文字。そっかそっか……って、なにぃ!?
……ちょ、おま……これって絶体絶命?

そんな訳で喫茶店にて今日も秘密会合。そわそわしてる朝比奈さんにいつも通りの長門。古泉は……あれ? そんなに憔悴してない?
「どうしますか? 一応、貴方に言われた通りの準備は済ませましたが」
台風は予想外でしたと、両掌を上に翳してお手上げ侍を気取る古泉。
「うーん……だが、八方塞がりって程でも無いよな?」
……いざとなれば長門に天候を操作して貰って……未来の生態系には申し訳無いが、こっちは世界が続くかどうかの瀬戸際だしな。ちょっとくらいは大目に見て貰えるだろう。
「無理」
「ほえ?」
あ、この可愛い台詞は朝比奈さんな。俺の口から「ほえ」とか出ても気色悪いだけだろ? それとも、そういう需要が有ったりするか?
「この台風の進路は涼宮ハルヒの願望。わたしには干渉出来ない」
「七夕に暴風雨を望むなんざ……今回はあの馬鹿本気らしいな……」
本気で願いが叶わない七夕を力技で創りだす気……なのか。……お前らしくないんじゃないか、ハルヒさんよ。
「ああ、それでですか。台風の進路は今回どうもオカしいらしいんですが……涼宮さんが望まれた結果であれば説明は付きますね」
落ち着き払って言う古泉。だが、気象予報士の今後を心配なんかしてる場合じゃないだろ?
「雨は今回の計画の天敵ですよね……困りました……」
いや、朝比奈さん。困ってるお姿も麗しいのですが……出来ればそれだけじゃなくて、未来的な超絶アイテムとかはその可愛いピンクのポシェットから出て来ませんか? このままじゃ俺達のプランが……ん? おや?

台 風 直 撃 、だと?

「なぁ、明日の台風って完全完璧にこの街を通るのか?」
長門に問い掛ける。少女の口からは期待通りの言葉が出て来た。
「そう。中心は明日の二十時四十二分四十秒に北高上を通過」
そっか……それなら……あるいは……いや……最初から……そのつもりで……なら、あの馬鹿は。
「古泉、明日は予定通り実行するぞ」
「了承しました」
「何も聞かないんだな?」
「何を考えられたのかは理解したつもりです。それに……言いましたよね、貴方は鬼札(ジョーカー)だと」
古泉はテーブルの隅に置かれている伝票を嫌味の無い仕草で手に取った。
「切り札を出した以上、我々に出来る事はそう無いんです。僕だけでなく機関員全員が貴方の手際に期待し、また、安堵しているんですよ、ジョーカー?」
そう言って伝票を人差し指と中指の間でヒラリとさせる。その仕草はまるでディーラー。債は投げられたとでも言いたげだな、カエサル。
「ええ。そんな気分です。未来は貴方に託しました、ブルータス」
「あ、それ知ってます。息子よ、お前もか、ですよね!」
朝比奈さんが楽しそうに言う。俺も、古泉も結構切羽詰った状況である事を理解していながらも笑っていた。
世界の命運なんざ肩に背負ったつもりは、きっとここに居る誰一人持ってないんだろう。俺だって只、あの馬鹿が柄にも無く賢(サカ)しい事を考えてやがるもんだから、それに「らしくないだろ」って一言言ってやりたいだけなのさ。
そう。それだけ。だったら、何を怖がる必要が有る?
機嫌を損ねてる奴が他称神様? ああ、ソイツは残念だったな。俺は無神論者なんだよ。
「ふふっ、キョン君は本当に涼宮さんを大切にしてるんですね」
止して下さい、朝比奈さん。そんなんじゃありませんから、マジで。
「ちょっと……妬けちゃうな」
「ん? 何か言いましたか?」
俺の問い掛けに何でも無いと首をテーブルと平行に振る少女。小動物っぽくて愛らしい。
少しばっかり赤みがかったそのエンジェリックスマイルに見とれていると、俺のシャツの袖が引っ張られた。振り向けば長門があのブラックホールの瞳でこちらを見つめている。
「明日の情報操作は任せて欲しい」
ああ、改めて言うまでも無くお前にも期待してるさ、SOS団の超万能選手。そっちは頼んだぜ、長門。

満場一致で話は決まり。明日は七月七日。
さぁ、SOS団主催、七夕祭りと洒落込もうか。
仕掛ける側も嵌められる側も、皆して楽しめる超常的なヤツを一つ、でっち上げるとしようぜ? なぁ?


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