ハルヒSSの部屋
古泉一樹の情操教育 7
『かぐやひめだって宇宙人』

古泉「……やはりと言うべきか、まさかと言うべきか……この童話が来るとは、ね……」
長門「どうしたの?」
古泉「なぜ四話で『かぐや姫』を華麗にスルーしたのか、悟って頂きたかったという所です」
長門「弱気。貴方らしくない」
古泉「この童話は解釈が非常に難しいんですよ。リクエストは非常に嬉しいのですが。そうですね……『ヘンゼルとグレーテル』並に遠慮して欲しかったタイトルです」
長門「では『ヘンゼルとグレーテル』で」
古泉「アレだけは本当に無理です。このお話が打ち切りとならない内に撤回して下さい」
長門「……まだ、付き合ってもいないのに打ち切りは困る」
古泉「何の話ですか!?」

古泉「この書き出し……作者、別連載と間違えてません?」
長門「大丈夫。戦ったりはしない。コレはあくまで『古泉一樹の情操教育』」

古泉「……何のコスプレですか?」
長門「竹」
古泉「見れば分かります」
長門「七夕を先取りしてみた」
古泉「早過ぎますよね?」
長門「そうでもない。そろそろ誰かが七夕合同SS企画について語り出してもオカしくない頃合。それに笹の葉が放映された。問題無い」
古泉「確かに……しかし、正直に言わせて頂きますと……」
長門「何でも言って」
古泉「帰宅したら、自室に身に覚えの無い笹の葉が散乱しているというのは嫌がらせとしか思えないんですが」
長門「……季節感に溢れる良い部屋」
古泉「後で掃除して下さいね?」
長門「竹の着ぐるみのせいで両手が塞がっている」
古泉「追い出しますよ?」
長門「それは困る」

長門「着てみた」
古泉「ええ、よくお似合いです」
長門「水色なのはなぜ?」
古泉「趣味です」
長門「そう」
古泉「……いや、黙らないで下さいよ」
長門「嫌悪感から沈黙している訳ではない」
古泉「……どうにもやりづらいですね」

長門「お便りを紹介する。
『かぐや姫が求婚を断る時に提示した条件は厳し過ぎじゃないか?
後、どうして竹なん? 教えて、古泉先生!』との事」
古泉「……聞く人間違えてません? 故紀貫之に聞くのが一番早いと思いますよ?」
長門「大丈夫。真実を求めている訳ではない筈。貴方に期待されているのは『でっち上げ』だと推察される」
古泉「……やっぱり僕、貶(ケナ)されてません?」
長門「そんな事は無い。私も貴方がどんな嘘を吐くのかwktk(ワクワクテカテカ)している」
古泉「だから、『wktk』とかどこで覚えてくるんですか」
長門「にちゃんねる」
古泉「あれは止めましょう。精神衛生上、そして教育上余りよく有りません」
長門「善処する」

古泉「さて、長門さん。竹、と聞くと何を思い浮かべますか?」
長門「某ジョッキー兄弟」
古泉「『たけ』違いです」
長門「分かっている。冗談」
古泉「では、気を取り直して」
長門「筍ご飯」
古泉「花より団子。色気より食気ですか。貴女らしい」
長門「……今、貴方がどんな眼で私を見ているのかが透けて見えた。撤回する。筍ご飯ではない。七夕」
古泉「八話放映直後ですから、意図せずタイムリーなお題でしたね」
長門「? 今回の話は『かぐや姫』だった筈。七夕とは関係が無い」
古泉「おや、僕の発言の意図には気付いていると思いましたが?」
長門「解説」
古泉「では、始めましょう。第七回、情操教育です」

古泉「さて、日本人が竹と聞いて何を思い浮かべるか。僕も考えましたが、三つくらいしか浮かびませんでした」
長門「七夕。かぐや姫。……後一つは?」
古泉「筍ご飯です」
長門「……同類」
古泉「なので、仕方が有りません。この際竹であった理由は回答不能にしておきませんか?」
長門「ダメ」
古泉「冗談ですよ。僕が言いたいのは、ですね……」
長門「ごくり」
古泉「織姫とかぐや姫は同一人物だったのではないか、という仮説なんです」
長門「Σそう来た」

古泉「そう考えると二人には共通項が有りますよね」
長門「二人とも宇宙人」
古泉「もう少し情緒の有る言い方をすると天女ですか」
長門「そうとも言う」
古泉「そして、竹、です」
長門「そこで繋がって来る」
古泉「長門さん、織姫と彦星の話はご存知ですか?」
長門「前回の七夕の際に涼宮ハルヒから聞いた」
古泉「結構です。織姫は一度天帝に怒られていますね」
長門「織姫だけではない。彦星も」
古泉「さて、神様が罰を与えられる場合は古今東西『追放』と相場が決まっているものでして。その時に、もしも、織姫も一度追放されていたとしたら……それが竹取物語であったのかも知れません」
長門「思いもよらなかった」

古泉「で、あるならば。彼女が言い寄る貴族を、時の天皇の求婚を、どうして承諾する事が出来るでしょう?」
長門「それが無理難題に繋がった?」
古泉「そうなりますね」
長門「疑問」
古泉「どうぞ」
長門「彼女は夫……彦星の事を覚えていた?」
古泉「ああ、核心ですね」
長門「彼女は『月から迎えが来る』とは言ったが、しかし天の羽衣を着る時点で『地上の記憶を失い、元の記憶を取り戻す』とも書いてあった筈」
古泉「ええ、確かに」
長門「ならば。かぐや姫には元の記憶が無かったと考えるのが妥当」
古泉「……果たして本当にそうでしょうか?」

長門「本当に、とは?」
古泉「彼女は自分が月に帰る事を、自分が地球の人間ではない事を知っていました。そこまで知りながら一切の記憶が無いとは僕には到底思えませんね。さて、記憶を取り戻す、とは本当に事実でしょうか?」
長門「天女の吐いた嘘だった?」
古泉「いえ、嘘だとまでは言いません。しかし、そこまでの記憶を持っている彼女です。彦星の事をすっかりと忘れていたとは考えにくい」
長門「なぜ?」
古泉「大切な記憶は色褪せはしても忘れる事はない。そう僕は考える……考えたいからかも知れません」
長門「考えたい?」
古泉「そうです。幼いと笑われても構いません。しかし僕は恋心が何も残さず忘却の海に沈んでしまうなどとは考えたくないんです」
長門「私は、忘れない。意図して記憶を消そうとしない限り」
古泉「記憶……問題にしているのはデータではないんですよ、長門さん」
長門「では、何が問題?」
古泉「記憶に伴う感情です」

古泉「誰かを好きになった。その感情を忘れて欲しくないと。いつまでも持ち続けて欲しいと。そう願うのは酷でしょうか?」
長門「分からない。でも、忘れたくは無い」
古泉「そうですね。僕もそう思います」

長門「彼女は彦星の事も覚えていた?」
古泉「実際どこまで覚えていたのかは分かりません。しかし、アレだけの無理難題を言い出す以上、その根底には『絶対に求婚はお受け出来ない』という確固とした意思が有ったと……考え過ぎでしょうか?」
長門「……その方がしっくりと来る」
古泉「ですよね。恐らく、彼女は覚えていたんですよ。自分に大切な人が居る事を。たとえ天帝によって過去の記憶を消されようと。それだけは忘れなかったんです」
長門「そう」

古泉「以上が僕の考えた竹取物語の真相です」
長門「……一つ矛盾。織姫が帰るべきは月ではない。こと座のα星。ベガ」
古泉「そうですね。だとするとそこへの中継地点か、もしくは月に宇宙船でも停泊していたんじゃないですか?」
長門「……曖昧」
古泉「良いんですよ、曖昧で。ほら、満月を見ていると、まるで別世界への扉の様に見えるでしょう?」
長門「そう?」
古泉「ええ。現実にそういった内容で何人もの小説家がお話を書いていらっしゃいます。ですから、きっと織姫もかぐや姫も月で正解なんですよ」
長門「月から、他の星へ?」
古泉「きっと。同じく宇宙人でいらっしゃる長門さんがその存在を知らないのですから、もしかしたら別世界からいらっしゃったのかも知れませんね? 月は正しく夜空に開いた穴だった訳です」
長門「……興味深い」

長門「やれば出来る」
古泉「本当ですね。最初にこのお題を頂いた時には正直半分ほど諦めていたのですが」
長門「このお話の言いたかった事は私にも分かった」
古泉「おや、これは嬉しい」
長門「記憶と感情は別物という事」
古泉「付け加えるならば、誰も誰かの大切な思い出を奪う事なんて出来ない、といった所ですか」
長門「もしも私が思念体によって記録を全消去されたとしても」
古泉「ええ。必ず、何かが残ります。一番大切な、何かが」
長門「それが心?」
古泉「興味を持たれるのは結構ですが、今ここでご自身の記憶を全消去とかは止めて下さいね、長門さん?」
長門「そんな事はしない」
古泉「これは出過ぎた事を言いました」

長門「そんな勿体無い事は出来ない」

古泉「貴女にも、心が有りますよ。ずっと見てきた僕が保障します」
長門「嘘はダメ」
古泉「コレは本心です。貴女は『嬉しい』と言った。『忘れたくない』と言った。それこそが証拠です」
長門「……確かに言った」
古泉「自分に心などは無い。そう思い込んでいるのでは、ありませんか?」
長門「……?」
古泉「貴女は、ここに居る宇宙からやって来た少女は、僕からすると立派に人間ですよ」

古泉「どこにでも居る、けれどここにしか居ない。貴女は一人の少女です」
長門「規格外」
古泉「かも知れませんが、しかしスペックの差異なんてモノは地球人類(ボクタチ)の間でもそう珍しい事では有りませんので、ね」
長門「そう」
古泉「ええ。ですので、もしよろしければ……と、今はまだ止めておきましょう」
長門「何を言いかけたの?」
古泉「そうですね……今の貴女に言うのはフェアでない。こう言えば分かって頂けますか?」
長門「分からない」
古泉「でしょうね。分かるようになったその時は、続きを言いますよ」
長門「今ではいけない?」
古泉「いけなくは無いのかも知れませんが、バツが悪いんです。これは僕の側の問題でも有りますね」
長門「?」
古泉「貴女が今より少しだけ大人になって、ご自分の意思をはっきりと言える様になったら。心を自覚されたその時にこそ、改めて」
長門「……今、聞きたい」
古泉「却下です」
長門「その笑顔は卑怯」
古泉「残念ながら、作り笑いでは無かったりします」

長門「貴方は今、愉快?」
古泉「そうですね。これほど楽しみな事は有りません」
長門「教えて」
古泉「秘密です」
長門「……今年の短冊に書く事が決まった。貴方が秘密にしている事を聞く」
古泉「早くて十六年後ですよ? 僕の方がそんなに待てません」
長門「なら、今」
古泉「ダメですよ。『とっておき』はとっておきましょう?」
長門「……いけず」

古泉「ねぇ、長門さん。五年くらいしたら。今度は僕の方から、言わせて下さい」
長門「今度?」
古泉「いえ、こちらの話ですよ」


長門「……コレの解釈を」
古泉「『ヘンゼルとグレーテル』は却下と言った筈です」
長門「ダメ?」
古泉「いけません! そのワンピースを着てお願いは卑怯ですよ、長門さん!」
長門「なら、続きを言って?」

追記:某所でのリクエストSS
ヘングレは無理です


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