ハルヒSSの部屋
古泉一樹の情操教育 4
『"love it"&"tight rule"』

古泉「……」
長門「……お風呂にする?」
古泉「……」
長門「……ご飯にする?」
古泉「……」
長門「それとも……『うさぎとかめ』?」
古泉「……出方に拘る必要は特に無いんですよ?」
長門「しかし、それでは読者に飽きられる」
古泉「読者を気にする、その十分の一でも構いませんので、僕のプライバシーを尊重して頂けたら助かります」
長門「合鍵を持っている場合、家主の承諾を得ずとも部屋に入っても良いと聞いた」
古泉「ちなみに、その鍵はどうやって手に入れたんですか?」
長門「情報操作」
古泉「……ですよね」

古泉「で、今日はどの様なご用件ですか?」
長門「立ち話もなんだから、入って」
古泉「いえ、僕の部屋です」
長門「合鍵を持っている以上、私の部屋でもある」
古泉「取り敢えず、その合鍵は没収させて下さい」
長門「……怒られた」
古泉「当然です」
長門「合鍵は使ってはいけない?」
古泉「少なくとも家主の承諾を得てから使用して下さい」
長門「分かった。では承諾を求める」
古泉「却下です」
長門「……そう」

古泉「それで、今日は『うさぎとかめ』ですか」
長門「(こくこく)」
古泉「何を疑問に思ったのかはなんとなく分かりました。ずばり、兎はゴールしてから眠るべきだった、ですね」
長門「……流石は超能力者」
古泉「いえ、心を読んだりとかは出来ませんから」
長門「どうして兎は途中で眠ったのか。これは物語の都合上仕方がないと考えた。この話は子供に『努力は報われる』事を教える話」
古泉「少しづつ、教育の成果が出て来ているようで、嬉しく思います」

長門「しかし、私は騙されない」 
古泉「これはまた……厄介な方向に育ちましたね……」

長門「これまでの会話から貴方の思考パターンをトレースした。そこから導き出されたのは『兎は亀の為にわざと居眠りをした』という新事実」
古泉「これではどちらが解釈を頼んでいるのか分かりませんねえ」
長門「しかし、なぜ兎が亀の為に待ったのかは分からない」
古泉「なるほど。そこで僕の出番ですか」
長門「そう。貴方ならばこの疑問に対して明確な答えを提示してくれると考えた」
古泉「光栄です」
長門「『三匹の子豚』の話を応用すると、兎は亀の友達になりたかったのではないか。亀に自信を付けさせる為にわざと負けたのではないか、と考えた」
古泉「素晴らしい解釈かと」
長門「しかし、貴方がする話の様な説得力に欠ける」
古泉「そうですか?」
長門「そう。そこで貴方にこの先のストーリーを作って貰いたい」
古泉「話は分かりました。そうですね……少し時間を頂けますか?」
長門「カレーを作っておいた」
古泉「では、夕食にしましょうか」

長門「考えた?」
古泉「ええ。ではご飯を食べながらで良いので聞いてくれますか? 僕なりに考えた『うさぎとかめ』のストーリーを」
長門「正座」
古泉「そんなにかしこまる必要はありません。あくまでコレは嘘物語ですから」

兎「さぁ、カメ! あたしとかけっこで勝負しなさい!」
亀「断る。俺なんかがお前に勝てる訳無いだろ。少し考えれば分かる筈だ」
兎「良いから勝負しなさいよ、このウスノロ! そんなんだからいつまで経っても平団員なのよ!」
亀「……平団員って何だよ……」

長門「……待って」
古泉「なんでしょう?」
長門「話がオカしい。今までの『情操教育』とは明らかに毛色が違う」
古泉「あはは。ほら、同じ事をやるばかりでは読者に飽きられると言ったのは長門さんが先ですよ?」
長門「……キャスティングにも難が有る」
古泉「と、言いますと?」
長門「なぜ兎が女性で亀が男性なのか」
古泉「それがこのお話のキモです」

兎「良いからさっさと位置に着く! やる前から諦める、その根性を鍛え直してあげるわ!」
亀「別に頼んでないぞ」
兎「あーもー、ぶー垂れる前に動きなさい! 行くわよ、はい、ヨーイドン!」
亀「……なんで俺がこんな事をせにゃならんのか……やれやれ」

長門「この『兎』と『亀』は誰かを髣髴とさせる。気のせい?」
古泉「気のせいでしょう」

兎「……そりゃそうよね。あたしが本気出したらこうなる事は自明の理よ? でも、アイツも遅過ぎない!?」
亀「アイツの我が侭に振り回されるのは今に始まった話じゃないが、しかし、山の頂上までって面倒だな、オイ」

長門「本題。なぜ兎は居眠りを始めたのか」
古泉「先ほど言いましたよね。兎を女性に、亀を男性にしたのはなぜか、って」
長門「三分四十二秒前」
古泉「長門さんは最初『兎は亀と友達になりたかった』という推論を立ち上げられました。ですが、僕はそこにもう少し踏み込んでみようと思います」
長門「どういう意味?」
古泉「兎は、亀の事が好きだった。今回、僕はこの物語をそんな恋の話にしてみようと思うんです」
長門「恋。言葉としては認識している」
古泉「ふむ。では、聞きます。恋とはなんでしょう?」
長門「他者を恋しく思う感情」
古泉「恋しく思う、とは?」
長門「『好き』だという事」
古泉「結構です」

兎「冷静になって考えてみるのよ、あたし。ここでぶっちぎり勝っちゃってみなさい? アイツは二度とあたしと勝負なんてしてくれないわ。……なら、ここは居眠りでもして良い勝負に持ち込むべきよね」
亀「……あーあ、言わんこっちゃ無い。あの馬鹿、上の方で眠りこけやがった……ああ、もう。あんなトコで寝たら一発で風邪引いちまうぞ……全く」

古泉「つまり、彼女は勝負をエキサイトさせたかったのでは無いでしょうか?」
長門「何の為に?」
古泉「一つは『その方が面白い』から。彼女の常套句ですね。そして、もう一つは」
長門「もう一つは?」
古泉「亀さんにもたまには花を持たせてあげたかったんですよ」
長門「しかし、彼女は寝過ごしてしまった。良い勝負も何も無い」
古泉「そうですね。それでは少し面白くありません。仕方が無いので少し話を捻じ曲げましょうか」
長門「捻じ曲げる?」
古泉「そうです。こんな風に……」

兎「はっ! 寝過ごした!!」
亀「おう、起きたか」
兎「かかかかかかかめっ! アンタ何やってんのよ!」
亀「何って言われてもな。もうすぐ日も暮れるし、お前をあのまんま寝かせっ放しにしとく事も出来んだろが」
兎「うるさいうるさいっ! さ、さっさとあたしを下ろしなさいよ!!」
亀「言われんでもな。ほら、起きたんなら下りろ。帰るぞ」

長門「負ぶったの?」
古泉「はい。そして二人で家に帰りました」
長門「……よく、分からない」
古泉「かも知れませんね。でも、そんな感じで良いのではないでしょうか?」
長門「何が良いの?」
古泉「好きな人……この場合は人ではなく亀ですか。彼に、背負われる経験をした兎さんの胸中は、少なからず幸せだったと思います」
長門「そういうもの?」
古泉「そういうものです」
長門「……そう」
古泉「貴女にも、好きな人が出来たらその辺りが分かるかも知れません」

長門「今回の話はよく分からなかった」
古泉「でしょうね。僕も少しグダグダになってしまったかな、と反省しています」
長門「なので補足を求める」
古泉「はあ……どんな話をすれば良いのでしょうか」
長門「話す必要は無い」
古泉「と、仰いますと?」
長門「帰る」
古泉「送りますよ。もう夜中ですし、女性の一人歩きは危険です」
長門「……おんぶ」
古泉「え?」
長門「補足。兎の心境をトレースする為に実際に負ぶわれてみる必要性を確認した」
古泉「……えっと……」
長門「……おんぶ」

古泉「こんな感じで良いですか?」
長門「悪くは無い」
古泉「そうですか。それはそうと、今日は月が綺麗ですね」
長門「月には兎が居ると聞いた」
古泉「ああ、そんな話も有ります。他にも女性の横顔に見えるなど、色々な話が月には有りまして」
長門「餅を搗いているらしい」
古泉「では、折角です。月になぞらえて……かぐや姫の話でもしながら帰りましょうか」
長門「わっふる」
古泉「……どこでそういう単語を覚えてくるんですか?」
長門「内緒」

長門「……少しだけ、兎の気持ちが分かった気がする」
古泉「何か言いましたか?」
長門「なんでもない。それより、続きを」
古泉「はい。それでかぐや姫はですね……」

長門「(……こういうのも悪くはない)」

兎「あんた、なんで一人でゴールしなかったのよ!」
亀「お前を置いていけるかよ」
兎「……うう」
亀「ほら。勝負事なら明日また付き合ってやるから。今日は帰るぞ。てか、さっさと降りろ」
兎「……足痺れた」
亀「……しょうがない奴だな、全く」
兎「亀! あんた明日、再戦しなさいよ!」
亀「……はいはい」
兎「『はい』は一回っ!」

古泉「……部屋にも着きましたし、そろそろ下りませんか?」
長門「……足が痺れた」
古泉「いや、貴女に限ってそれは有りませんから」



追記:夏目漱石先生が英語教師をしてた時、生徒がI love youという英語を「あなたを愛しています」と訳した所、漱石は、「日本人が『愛しています』だなんて言うものか。『月が綺麗ですね』とでも訳しておけ。 それで日本人は分かるものだ」 と言ったそうです。
分かり難いオチですいません。


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