ハルヒSSの部屋
涼宮ハルヒの戦友あっぱー 2
自分が何者か分からなくなったら鏡を見れば良い。
少なくとも其の容れ物の形ぐらいは分かる筈だ。
自分が何を考えてるか分からなくなったら静かに目を瞑ってみれば良いしな。
そんで、やりたい事と出来る事を照らし合わせて、やりたくて出来る事からやれば良いんだ。
自分が信じられなくなったら?
そうだな。そん時は誰かに聞いてみろよ。この広い世界だ。一人くらいお前を信じてくれている奴が居ると思うがね。
あー……何が言いたいかってーとだ。思うが侭にやってみろよ、ってコト。
鏡が無いなら俺の両眼を貸してやる。夢の見過ぎで濁っちゃいるが、コレでもまだまだ健在の心算だぜ?
信じてくれる人が其の辺に見当たらなかった? そんな筈は無いんだが……仕方無いな。なら、俺がソレになってやるよ。
あ? 子供がナマ言ってんじゃねぇ。
第一、俺の仕事を取ってんじゃねぇっつの。
そうだな。今日でフォックスワードは廃業だ。こっからはMr.トイレットペーパーとでも名乗っておこうか。
いや、そんな嫌そうな顔すんなって。冗談だ。半分くらいな。



未だ決心出来ないか? ま、良いさ。けどな。これだけは言っておくぞ。
子供の尻を拭うのは、何時だって大人の仕事なんだよ。
だから、てめぇはてめぇのやりたい事をやれ。心から、望む事をやってみろ。
其の結果、どんなに世界がぶっ壊れても。どんなに運命が捻じ曲がっても。
俺達大人は直す事にかけちゃ、ちょっとしたモンを持ってんだぜ?
分かったら、後の事は「元」クソガキにでも任せておけ。
俺達のたった一つの楽しみは、お前らがどんな絵を俺達が創った世界の上に描くか、なんだから、な。



分かったら、昔「クソガキ」だった分を返せる程度に俺にも「大人」をさせてくれよ?




あっぱー第二章 「This world is just yours」




「こんな所に居た!」
聞き慣れた声に顔を上げる。髪もボサボサの侭、今の今まで寝てましたってのが丸分かりのツラをしたハルヒが息を荒げて立っている。
「よぉ」
「よぉ、じゃないわよ! アンタ、怪我人なのよ? 分かってんの!?」
あー、余り人目の有る所で怒鳴るな……って、先刻まで怒鳴り散らしてた俺が言える台詞じゃないか。
「腹が減ってな。何分、二日以上何も食ってなかったろ?」
「そんであんた一人だけ豪華に晩御飯!? はっ! 良い気なモンよね!」
「なんだ、ハルヒ? お前も腹減ってんのか?」
「当ったり前じゃないっ! 誰がアンタの看病をしたと思ってんのよ!!」
……そういや、そうか。コイツが一晩中俺に付き添っていたんだとしたら、飯なんかマトモに食えちゃいないだろう。
「スマン。考えが及ばんかった。起こすべきだったな」
頭を下げる。顔を戻して見上げたハルヒの眼は、怒っていると言うよりも……何と言うか別の感情を湛えている様に見えた。
この眼。この表情……前に一度見た事が有る。
「言い訳させて貰えるか?」
「ふぅん……聞こうじゃない」
言いながらハルヒが対面に座る。先刻まで魔王が座っていた其処に有った手付かずのグラスを除けると、テーブルに片肘を突いた。
「お前、あんまり寝れてないだろ。嗚呼、推測だけどさ。しかし、あんな姿勢で熟睡出来るとは思えなくてな」
「繊細だからね」
どの口が叩くんだか。アヒル口か。うん。間違いない。って、そうじゃなくて。
「昨日も……どんだけ自分が寝込んでたのかは知らないが、少なくとも一日は経ってるよな、多分。お前はずっと起きててくれたんだろ?」
「……あたしの手で殺さなきゃ意味無いじゃない。其の前に死んで貰っちゃ困るから……必要経費よ」
そう言って眼を細めるハルヒ。俺はこんなのを知っていた。
元の世界の十二月。頭を打って意識を失っている間中ずっと、ずっと俺の隣に……寝袋まで持ち込んで付き添ってくれていた奴が、俺がやっと起きた時にこんな眼でこんな表情をしていた。
「お前にとっちゃ当然の事かも知れんが、其れで俺が感謝をしない謂(イワ)れは無いよな。……なぁ。やっぱ、お前が助けてくれたのか」
命の恩人の瞳を真正面から見つめる。言葉は自然と口から出た。
「ありがとう」
「な……何よ、改まって。気色悪いわね。あたしは自分がしたい事をやっただけよ」
「其れでも、な。感謝ぐらい素直にさせてくれ」
ハルヒがそっぽを向く。嗚呼、コレぐらいは俺でも分かる。コイツは柄にも無く、照れてやがるのだろう。
「傷口にエリクシルぶちまけて包帯巻いて寝かせただけよ」
「町娘の格好をして宿屋に部屋を取った、ってのを忘れてるだろ。後……寝ている俺の横にずっと付いていてくれた」
「……何でも無いわよ、其れくらい」
「サンキュな。……と、この話は終わりにしようぜ。ハルヒ、腹減ってるだろ?」
「ペコペコ」
顔を背けていた少女は俺の方を見て、笑った。
「二日ほど、片手で摘める程度の物しか食べれてないんだから」
「だよな。ココに並んでるの全部食っちまって良いぞ。頼んだは良いが食えなくなっちまった。完全に頼み過ぎた」
「何やってんのよ、あんた」
まるでモッタイナイお化けが具現化したみたいに俺を詰(ナジ)るハルヒ。俺だって頼んだ当初は全部食う気でいたんだけどな……と、そんな言い訳は如何でも良いか。第一、コイツには関係の無い話だ。
「仕方ないわね。食べてあげるわ」
「おう。頼んだ」
「頼まれたわ。魔族の胃袋、舐めんじゃないわよ!?」
そう言うとハルヒは目前の皿の森へと親の敵の様に顔から突っ込んだ。



「冷めちまってるな。悪い。なんか敗戦処理みたいな事させちまって」
「は? 温め直せば良いじゃない」
……電子レンジでも常備してるのかよ、お前は。ハルヒなら有り得ない話じゃないだけに冗談で済ませられないな。
「こんな事も有ろうかと」なんて言いながら何でもポケットなり鞄なりから取り出すのは古泉か長門の役目なんだが、しかしハルヒもやりそうだ。
「でんしれんじ? 良く分からないけど、こんなのは熱攻撃魔法の応用。初歩の初歩で十二分じゃない」
……そう言えば此処はファンタジー万歳の不思議世界だったか。イカンな。如何も現実と混同しちまってるみたいだ。



ん? ……オカしくないか?
俺は呪文詠唱したり鶏肉を噛み潰したりと主に口が忙しいハルヒをぼんやり見ながら一つの疑問を抱いた。
先刻、ハルヒは電子レンジについて「何ソレ美味しいの?」とでも言いそうな反応を返した。事からこの世界には所謂(イワユル)機械の類は無いと思って良いんだろう。
在って蒸気機関やら火薬銃やらが精々なのがファンタジーの決まり事だ。
科学を発展させる必要性が魔法技術に取って代わられてる、ってーのが其の理由だと何時だったか古泉が聞かせてくれた。聞いてもいないのに説明好きな奴だ。しかし、今は其れに感謝しなければいけないだろう。
「機械」がこの世界には存在しない事実。でもさ。だったら、オカしな事が一つ無いか?
『いや、変声機自体はチョーカーでも作って其れに仕込めば良いだけの話だろ?』
魔王の発言を思い出す。アイツは確かに「変声機」と。そう言った。
「変声機」即(スナワ)ち「機械」。何故そんなものが奴らの手の中には当然と存在しているのか?
勿論、部品から何から鋳出して造った可能性も無くは無い。だが。そんな手間を掛けるよりも魔法で声を変えてしまう方が早く手間も無い訳で。
そんな俺でも気付く事を……魔王は兎も角として其の取り巻きが気付かないとは思えない。
……つまり、如何いう事だ?
「なぁ、ハルヒ?」
「ふぁひよ?」
物を口に入れた侭無理に喋ろうとするな。長門じゃあるまいし。
「腹を空かしてる奴が、路銀も十分に持っているんだが、しかし目の前に有る美味そうな匂いをさせる飯屋に入らない理由って何だ?」
「はに、ひょれ? なひょなひょ?」
……多分「何、其れ? 謎々?」って言ってるんだろうな。
「そんな所か」
間違っちゃいない。この世界自体がお前から問われた謎々みたいなモン……とはとても言えないが。
ハルヒは口の中の物を飲み込むと、腕を組んで数秒唸った後結論を出した。
「簡単じゃない。ソイツはきっとお弁当を持ってたのよ!」
眼から鱗、とはこの事である。
「若(モ)しくは顔馴染みの店にしか入れない引っ込み思案のどちらかね」
後者は却下。……なるほどな。つまり、「持ち込んだ」のか。確かにそう考えれば話は早い。
しかし、其れは其れで新たな疑問が湧く訳で。
如何やってこの世界に「機械」を持ち込んだのか。また、持ち込んだのは「変声機」だけなのか。他にも何かを持ち込んだのだとしたら何を? 何の為に?
全く、世は兎角謎だらけである。



飯を食い終えて宿に戻り、旅支度をすると既に陽は落ちていた。
「こりゃ、出発は明日の朝だな」
ベッドに腰掛けて包帯を取り替えながら呟く。
右腕の傷はかなりエラい事になっていた(具体的に言うのはお食事中の方が居る可能性を考慮し止めておく)が、ハルヒの薬とやらが効いたのか傷自体は瘡蓋(カサブタ)によって塞がってはいたし、命に支障は無さそうだった。
ハルヒによると後二日程で筋肉其の他も蘇生し完治するとの事。何と言うか、凄まじい薬も有ったものだ。ファンタジー様々ってか。
「あんだけの傷がねぇ……」
思い出して少しばかり吐き気に襲われたのを堪える。あー、見事にトラウマってやがる。……トラウマで済んで良かったと前向きに考えるべきなのかねぇ。
「あ、回復呪文とかは厳禁よ? あんたに使ったのは魔法薬の一種だから、効果が上書きされちゃうわ。お風呂とかも薬が流れちゃうからダメ。濡れタオルで我慢しなさい」
……いや、風呂入ったら死ぬだろ。激痛で。あんな思いはもう二度とゴメンだ。
「そ。ま、あたしも浴室から男の悲鳴が聞こえるのとかは嫌だけど」
「で、悲鳴が収まったと思って戸を開けたら『ちょっとキョン? ……死んでる』ってな。ハハ。笑えねー」
いや、マジで。包帯を巻き直し右腕を振ろうとして激痛に顔を顰(シカ)める羽目になった。
「自虐ネタは気持ち悪いから自重しなさい。腕を動かすのも。あんたの見れない顔が更に歪んで気持ち悪いわ。嗚呼、あたし今からお風呂に入るけど、覗いたら文字通り『死ぬ』わよ?」
入浴覗いて返り討ちで死亡なんてこっちからお断りさせて貰う。そんな末代まで嘲笑を受けるような死に様は御免だ。いや、今なら未だ子孫の心配をする必要は無いか。
だがしかし、このハルヒなら其の気になれば本当にやっちまえるしな。
「間違いが無いとも限らん。脚本家がいたくラブコメ好きらしいからな。『お約束』で殺されちゃ眼も当てられん。ってな訳で、ちょっと外に出てくるわ」
「へ? キョン、何か用でも有るの?」
なんで捨てられた子猫みたいな顔するんだよ。お前、キャラ変わってないか? 何処にも行きゃしねぇって。只の確認だ。
「確認?」
「嗚呼。明日になってから動くよりも今の内にやれる事はやっちまいたい」
夕方まで寝ていた所為で余り眠くも無いしな。
「次の目的地の確認用に地図とコンパス……後は海を越えたりしなきゃならない場合は船の運航予定も調べなきゃいけない」
「……なんだ、そんな事か」
ハルヒが安堵の溜息を吐く。そんな事ってなんだよ。
「こっちの話。なら、さっさといってらっしゃい」
「あいよ」
俺はハルヒが浴室に消えるのを待たず、肩掛け鞄と杖を持って部屋を出た。
「お土産お願いねー」
……何を期待してるんだ、お前は?



本屋で世界地図とコンパスを買い込んだ俺は港へと脚を運んでいた。流石港湾都市と言うべきか、潮の匂いの強い方へ強い方へと歩いていたら十分もしない内に海へと出ていた。
夜の海は三つの月に照らされて赤青黄の三色のコントラストを漆黒の中にも見事に反映していて見物だった。
何でもこの世界には月が七つ有るとかで一日毎に月が一つ増え、月曜日にリセットされるんだそうだ。実際こんなのは二度とは見られないであろう幻想的な光景であったが……しかし、其れよりも。
「あっちは……北北東、か」
俺はコンパスを覗き込んで、そう結論付けた。「あっち」。さて、何を指しているのかを疑問に思う人も居ると思う。最近とんと描写がご無沙汰だったからな。
果たして覚えている人は居るだろうかと疑問に思う。俺が水平線の彼方に見ているのは次の目的地を指す「↓」だった。
夜の闇の中に有ってさえ、光っても無いのにしっかりと見える。理屈は分からんが……ま、ステータスウィンドウみたいなものなのだろう。
ゲーム世界のガイド機能だか何だか知らんが、この世界には俺たちにのみ見える矢印が存在している。当初こそ「情緒もへったくれも無い」と呟いた俺だが前言撤回だ。
アレの指し示す下はメインシナリオに準拠する「次の目的地」。ならば其処には長門達が居るって事だ。
……あんなんでも、しかし無かったら完全にアウトだった。異世界迷子、ってか。笑えないぞ、オイ。
コンパスの指し示す先と世界地図を照らし合わせて、アイツ等が今居る場所を確認する。キタコウ王国……トクシン城塞都市。多分、之だな。近くに港街も在る。
よし、之で次の行き先は確定した。となると次は其の港まで海路ないし、城塞都市まで空路が有るか。出るなら何時かの確認だ。

俺は来た道をひた戻り、一路冒険者ギルドへと向かった。



「止めておけ」
煙草の煙で白んだ店内で、受付のおっさんが開口一番そう言った。
「何でだよ」
俺の尤(モット)もな疑問に対しておっさんはジロリと不躾な視線を俺に向けると、俺の背後を其の手に持ったペンで指し示した。
「後ろ?」
「掲示板が見えるな? 其処のど真ん中の記事を見てから未だ疑問が有るなら聞いてやる」
「了解」
俺は窓口のおっさんの机に昼飯一食分くらいの小銭を置くと、掲示板へと向かった。あちこちにたむろしている男女は俺と同じく冒険者なのだろうか。
彼らを避けつつ歩き、言われた通り、他の掲示物を押し退ける様に貼られた一等目を引く紙を覗き込む。そして、眼を見開いた。
「……マジか?」
其処に書いてあったのは……云十年に一度の流星群が見れる日だってのに台風が見事に直撃コースでした。残念! みたいな感じの……何が言いたいかと言うと、最悪のタイミングだって事なんだが。



『魔王軍の一部、キタコウ王国に侵攻開始!!
第一目標は城塞都市、トクシンか!?』



分かり易く眼を引く見出しで、俺の心を掻き乱すには十分過ぎる良いセンスだったのが気分悪いぞ、このやろう。

「おい、おっさん!!」
「……ちなみに今朝の記事だ」
俺の言葉を先回りするのは長年の経験からだろうか。……そんな事は如何でも良くって。
大切なのは、トクシン……俺が今から向かおうとしていた先であり、恐らく古泉達が停留している街。其処が今、将(マサ)に危険に晒されているという唯其の一点。
「悪い。要点だけ知りたい。俺の質問に答えてくれ。頼む!」
おっさんは俺の眼を見ると、一つだけ溜息を吐いて、そして頷いた。
「事情有り、だな。……何が知りたい?」
「トクシンが攻撃されるのは何時になるんだ?」
別に此処で俺が急いだ所で何が如何なる訳でも無いのだが、しかしそんな風に理性的に物事全てを考えられるようには俺達は出来ていない。
「早くて明日の夕刻か。遅くても明後日には戦争が始まるだろう、ってのが行軍を見てきた奴の話だそうだ」
明日の夕刻……か。そんなに遠い場所じゃないが、其れでも船で四日は掛かる距離。……となると海路はダメだ。遅過ぎる。
「もう一つ。トクシンへ向けての空路ってのは……」
「空路、海路。共に普通のヤツは運行停止だ。ドイツもコイツも命は惜しい」
……そりゃそうだよな。って事は……アレ? 俺は如何やって其処に行けば良いんだ!?
「トクシンへ行く手立てが無い訳じゃない」
俺の思案を見透かす様にニヤリと笑うおっさん。俺は縋り付く様に彼の次の言葉を待った。
「戦時特需ってヤツが有る。危険が有るからこそ金儲けが出来る、って考え方だ。特に此処に来る様な奴はそういうのに飢えている。向こうに行けば武器や防具は飛ぶ様に売れるし、戦争を食い扶持にする傭兵って職種も有る」
特需……歴史の教科書とかで見た事は有るが。オイオイ、なんか凄ぇ話になってきたな。
「なら!!」
「お前さんの腕が立つなら高速商船の護衛って奴も出来るだろう。アレなら風魔法を常時帆に受けて並の船なら五日は掛かる距離をモノの半日で進む」
……全く。何度も言わせて頂くがファンタジー世界様々である。
「お前さん、腕の程は?」
「二重詠唱が出来る。多少怪我をしちゃいるが、魔法を使う分には問題は無い」
証拠を見せろと言われるかなと杖を握る。が、其の必要は無かった。
「十分だ」
おっさんは机の引き出しを開けると其処から何やら紙を取り出し、其処にさらさらと羽根ペンで何かを書き込んだ。
「ウチからの推薦状だ。明日の昼少し前に港に行け。運行準備をしているのは一隻だけの筈だし、大型艦だから迷う事も無いだろう。具体的な船名と時間は其の紙に書いてあるから後で読め」
「分かった。ありがとう。助かった」
俺がお辞儀をすると、おっさんは手を振った。
「なに。こちらとしても腕の立つ奴が欲しかった所だ。最近は口ばっかりの奴が多くてお前さんみたいなのは俺にとっても渡りに船……我ながら上手い事言ったな」
笑えない親父ギャグだったが、しかし、この時はどっかの酔っ払いみたいにそんな冗談でも笑いが込み上げて来た。多分、気分が高揚していたのだろう。
「情報料は?」
「依頼の前金で相殺だ」
ドライなのか情に厚いのか。よく分からないが、きっと其の両方。二つとも持ち合わせているからこそ、冒険者ギルドなんて所の相談役をやっているのだと思う。
「なぁ……今更なんだが、魔法の腕を見せる必要は無かったのか? 俺が虚偽の申告をしたとか……いや、俺が言う事じゃないと思うんだが」
「眼を見れば分かる。証拠を見せようと杖を握り直したので腕の程は確信した。……他に質問は?」
……見た目こそ少々太り気味のおっさんだが、しかしプロって訳だ。俺は内心舌を巻く。
「いや、無い。分かった。ありがとう」
「こちらこそだ、少年。嗚呼、無粋とは思うが俺からも一つ聞いても良いか?」
「なんなりと」
おっさんはニヤニヤと、こちらを見ながら問い掛けた。



「トクシンに、女でも居るのか?」
冷蔵庫を開けて作り置きのブラックコーヒーを飲んだら麺つゆだった、みたいな顔ってこんなんで合っていただろうか。


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