ハルヒSSの部屋
涼宮ハルヒの戦友どっかーん 8
古泉<おっと、またそろ出番ですね。行かなくては
佐々木<メインキャラクター、か。羨ましいね。僕は楽屋入りしてからずっとベンチを暖める仕事を言い付けられていて、非常に退屈な訳だが
古泉<……えっと、つい先刻まで出番でしたよね?
佐々木<其れは第二控え室に居る方の話だ
古泉<こんな所で本編のネタバレは止めときませんか……
佐々木<問題無い。皆気付いている、作者の浅知恵には、ね。くっくっく
古泉<……行ってきます

さて、唐突だが洞窟である。ダンジョンである。
「なぁ、古泉……お前、このゲームの裏技って知ってるか?」
膝の上で眠っている朝比奈さんの髪を撫でながら古泉に問い掛ける。すぅすぅと、一定のリズムで上下する胸……決して不埒な目で見てる訳じゃないぞ?
之は朝比奈さんが苦しい思いをしてないだろうか、体勢なり辛くはないだろうかと心配しているだけの目線であってだな……信じてくれ。
「知っていますが……其れが如何しましたか?」
古泉の声が壁に響く。明かりは別働隊が持っていってしまったので、辺りは薄暗い。声が反響している所為で古泉が何処に居るのかも分からない位だ。
「今はそんな事を話している場合では無いと思うのですが……」
「こんな事態、だからだ」
溜息を吐く。嗚呼、貴重な酸素をまた無駄使いしちまったな。
「パニックになったりしたら其れこそ洒落にならんだろ」
「……ですね」
古泉が慎重に壁を擦りながら呟いた。

さて、現状を語るに辺り先ずは言っておかなければならん事がある。
「つまり……ここは閉鎖空間……密室、と言う事です」
俺の台詞を取るな、古泉。
「いえ、モノローグに介入するのって第一話振りじゃないですか。なんか、懐かしくって、ね……」
懐かしがるな。顔を近付けるな。今すぐ俺のモノローグから出て行け。
「良いじゃないですか、ジキルとハイドですよ?」
脳内にもう一人が存在してるって言いたいのか? ふざけるのもいい加減にしろ、気色悪い。
「と、言う訳で今回は実験的に二人でモノローグをやってみようと思います」
勝手に決めるな!


涼宮ハルヒの戦友どっかーん第八章「君の元へ飛んでいく」




「さて、今回の目的はダンジョンの奥深くに眠る『光の玉』を手に入れる事だった訳ですが」
あ、マジでやるのか。しかし、光の玉て。ベッタベタなネーミングだな。
「かなりの重要アイテムで今後を左右するのですが……しかし具体的な設定は全く有りません」
重要アイテムじゃなかったのかよ。
「作者曰く『必要なのはダンジョンに入る事でアイテムなんかどうでもいい』そうですよ」
最近のシリアス展開とは打って変わってまた、行き当たりばったりだな、オイ。
「多分、魔王城の周辺に張り巡らされた結界を解く為に必要とか、そんな設定で良いのではないでしょうか。と言うかそうしましょう。今、決めました」
そんなんで良いんだ!?
「という訳で僕達はその超重要アイテムを手に入れる為にダンジョンへと潜りました」
うん。「超」とか付けるな? 頭悪い古泉とか作者が叩かれるだけだからな?
「すっげー了解しました」
理解してないよね? 俺が言った事まるごと理解してないよね?
「あはは、今のキョン君のツッコミは何処かの糖尿病患者みたいですよ?」
中の人ネタも危ないから止めておけ?
「はい。では、話を戻します。このまま僕とキョン君の掛け合い漫才で一話を終わらせると出番を待っていらっしゃる方々に怒られそうですので」
ん? 未だ出番来てない奴とか居たか?
「(仮)の人達ですね。次回予告には出ていたにも関わらず第二部では出番が無いと作者の脳内では確定している悲しい人達です」
えっと……なぁ。今回の話、メタにも程が無いか?
「当然です。第二部に移行してから之までシリアスから殆ど脱却出来ていませんでしたので。作者はかなり鬱憤が溜まっています」
……理解した。
「今回こそは純然たるカオスで行こうと思いますので。そのつもりでお願いします……あ、1カメこちらですか?」
脳内の曲にカメラ目線で格好付けんな。

「さて、で、今現在僕とキョン君。そして朝比奈さんの三人は密室に閉じ込められている訳ですが」
端折り過ぎだろ!
「えー? 面倒臭いですよ」
お前、やる気無いならさっさと俺の脳内から出て行けよ……。
「おっと、其れは困りますね……作者的に」
作者的にと来たか、コンチクショウ!
「作者の中では僕と長門さんの二人の内どちらかが話を転がす上で必要不可欠だそうですよ」
……嗚呼、今すぐこの寄生虫を蹴り出したい。この場に長門が居たら交代。もしくはナノマシンを打ち込んで貰って除去してやるのに。
「あ。なら、長門さんを呼んできましょうか?」
長門居るんかい!?
「まぁ、このモノローグは事実上何でも有りですから。と言う訳で長門さん、出番ですよ」
俺の脳内はル○ーダの酒場か何かか。登録さえすれば「ああああ」とか言う名前のオリキャラだって出て来るのか。
「呼んだ?」
という訳で「ああああ」もとい、長門登場である。
「はい。キョン君がどうしても長門さんと会って話したい事が有ると言って聞かなかったもので」
事実を捏造するな。後、鍵括弧だけだとどっちがどっちか分かりづらいから片方帰れ。
「では、僕は喋らないで待機している事にしましょう」
帰れって言ってんだ!!
「無理ですよ。僕は強制加入メンバーですから」
「……話が無いなら帰ろうと思う。貴方と古泉一樹の同人誌を読まなければならない為中々に忙しい身」
ぅおーい、長門さん!? 今、さらっと問題発言かましましたよ!? 俺と古泉の本!? そんなん有る訳!?
「人体の神秘……興味深い」
聞いてもいないのに感想をありがとう。そしてそれ以上の中身の説明は必要無い。読み終わったら焼いてしまえ。
「三冊とも?」
……お約束だなァ。
「……一冊貸す?」
中身も見ずに燃やすから戻っては来ないが、それでも良いか?
「一冊有れば複製可能。問題無い」
そか。でも、読まないから俺に向けて中を開いて見せるのを止めろ。な?
「残念……」

一向に話が進まない。

そうだった。現在俺と朝比奈さんが(古泉? 誰それ)何処とも知れないダンジョンの小部屋に閉じ込められているのは単にコイツの責任である。
「武道家に宝箱の開錠を期待した貴方が悪い」
……自信満々に「私がやる」って言ったお方は何処のどなたでしたデショウカ?
「運には自信が有った。今回も壁の中に埋まる事は無かった。……結果オーライ」
えっとな。此処まで散々引っ張ってきて伏線も張りに張って、だ。それで「かべのなかにうまっています」って……どんなSSだよ。
「ある意味リアリティを追求した名作」
名作じゃねーよ。迷作として名を残すよ。そして、そんな前衛的なSSで一体何を伝えたいんだよ、作者は?
「諸行無常?」
おーおー。難しい言葉を知ってたな、長門。褒めてやr……誰が褒めるか!!
頭とかこっちに傾けられても撫でんからな。むしろはたくからな? 尻尾とか振られても……まぁ、今回は多めに見ておいてやる。次は無いからな!
「……怒られた」
そりゃフツーに怒るだろ。
「そうですよ。正直、僕達はあの一瞬、死を覚悟した訳ですから……まぁ、そんな終わり方はしないと台本から知ってましたので嘘ですが」
えええ? 前回の佐々木に引き続きお前も台本とか持ってんの!?
「あれ? キョン君は渡されていませでしたんか? ちなみに今回のサブタイトルは『ドキッ☆キョンといっちゃんの密室ラブスペクタクル』ですよ」
……「君の元へ飛んでいく」ってサブタイトルは何処へ行った?
「……情報操作は得意」
お前の仕業か、長門ー!!

「大丈夫。一部始終ハイビジョンで録画してある。何時でも行為に移ってくれて良い。幸いにして朝比奈みくるは瞬間移動の衝撃で昏倒している。今が好機」
朝比奈さんの状況についての説明ありがとう。しかし、好機、じゃねぇよ。
「いやぁ、いつもは時間移動でこういった事には慣れている筈の朝比奈さんが気絶してしまうとは……最早これは神の望みなので……」

(余りにウダウダが過ぎるので古泉君がキョン君にフルボッコにされてるにょろ。しばらく画面の前で作者に対して「ザラ○」を唱えて待っていると良いにょろ。
全く、スライム相手にザ○キーマ打つなって何度言ったら分かるにょろ、このダメ僧侶!)

「洞窟に入って敵を辛くも掃討してやっと見つけた宝箱を開錠しようとしたらテレポーターの罠が発動してしまい貴方と古泉一樹と朝比奈みくるは脱出不可能な小部屋に飛ばされた」
よし、現状説明終わり。やれば出来るじゃないか、長門。
「句読点を入れずに一息で言うのに苦労した。しかし、古泉一樹の様にはなりたくない」
……アレは古泉じゃない。ボロ雑巾だ。
「理解した。今後はあの物体の事は『ボロ雑巾』と呼称する事にする」
「ふふふ……僕に、こ……こんな事をして全国一千万のいっちゃんサポーターが黙っていると……」
今回は脳内だから何でもアリだって言ったのはお前だ。
「ああ! 靴の裏でぐりぐりされるのは! 美形として! 美形として!!」
「……ユニーク」

さて、そんな訳で今現在俺達は密室に閉じ込められているのである。酸素が尽きる可能性も有る為に布切れなどに火を点す事も躊躇われ……冒頭で言った通り辺りは真っ暗である。
どうしても明かりが必要であれば魔法で明かりを出す事も出来るのだが、MPは何か有った時の為に温存しておいた方が良いとの古泉の言葉も尤もだったので点けていない。
「……見事な現実への帰還です。惚れ惚れします……が、今までの事はほぼ無かった振りで済ます心算でしょうか」
……やり過ぎたかなと反省している点は有る。ところで、だ。
「ええ。裏技に関する話ですよね」
俺達に此処から脱出する目処が今の所無い以上、雑談でもして救助を待つのが賢明だろうからな。
「端的に言いますと、この世界の元となったゲームには二周目特典的なものが存在しているんです」
ん? 一周目である俺達には関係の無い話じゃないか?
「特典『的』です。実際は一周目でも利用出来ます。良いですか? 呪文詠唱の際の文句を思い出してみて下さい」
「詠唱呪文選択画面展開」
「其の後です」
「術式構成開始……って言ってから使う呪文の名前を口頭入力する訳だが」
全く、自分の厨っぷりを曝け出している様で言っていて恥ずかしい。しかし、背に腹は代えられん。
「其処です!」
古泉が叫んだ。……いや、何処だよ。
「僕も最初は通常コマンド画面に『呪文生成』が無かったのでオカしいなと思ったのですが。キョン君の詠唱を何度か聞いて理解しました」
ジュモンセイセイ? また、変な言葉が出てきたぞ? お前、これ以上俺と読者の頭の中のクエスチョンマークを増やす心算か?
「まぁまぁ。そういう事が出来るRPGは実際有った(ルド○の秘宝、だったと記憶している)ので諦めて下さい」
お前、矢鱈とマイナーなゲームから引用してくるなよ。
で、何だ? 其のジュモンセイセイ、ってのは。
「自分で好きな言葉を入力して、其れを呪文として登録するコマンドです。大概はどうしようもない呪文しか産まれないのですが……。
このコマンドの真価は別に有ります。敵が使ってくる呪文の名称などを入力する事で敵の呪文を自分のものとして使う事が出来るようになる点です」
成る程。ソイツは確かに一度ゲームをクリアしていた場合に役に立つ特典「的」なコマンドだな。
……って事はだ。例えば俺が朝比奈さんが使っていた回復呪文を使えたりする、って事か?
「そういう事です。コマンド自体が存在していなかったので、呪文生成の事はすっかり頭から消えていました」
お前な……そういう事は早く言えよ。で?
「で? とは?」
「お前はこのゲームをやりこんでるんだろ? だったらラスボスが使うような呪文も記憶してるんじゃないのか?」
其れさえ覚えちまえばこの世界も楽勝の筈だ。そう思ったのだが……しかし、俺の言葉に力無く被りを振る古泉。
「真逆、覚えてないのか!?」
ハルヒに貸す前に五周もしたんだろ?
「惜しい。四周です」
覚えてねーよ、そんな細かい事。
「ですよね。本題に戻りますが……覚えていない訳ではあありません。何と言えば良いのでしょうか。この世界の呪文の名称は元のゲームとはまるで違っているんです」
……確かに、何処のゲーム会社が「墜ちろ、カトンボ!」なんて名前の呪文を作ってるんだよ、って話だな。
「サンラ○ズに訴えられそうですよね」
……俺達が、だけどな。まぁ、いい。結論を言え。
「そうですね……先程キョン君自身がおっしゃられたように、朝比奈さんや朝倉さんの使用する呪文をキョン君が借用する事は決して無駄ではないでしょう。戦術のバリエーションは確実に広がります」
確かに、回復呪文を使える人員が増えるのは助かるな。
「第二に。これから先、敵として出て来られる方々の呪文を利用出来るメリットが有りますね。例えば、涼宮さん辺りが使用した強力な魔法をキョン君が使えれば非常に心強い。現状、彼女が僕らに使用した呪文は有りませんので、コレに関してはこの先、でしょうけど」
……いや、有る。お前は気絶してたから覚えてないだろうけどな。
「そうなんですか?」
嗚呼。空間移送魔法だ。幸いにして呪文の名前だけは覚えてる。
アレを使えばこのどうしようもない状況からも脱出出来るんじゃないか?
「なるほど。流石はキョン君です。不自然なまでに話のキーとなる事象を覚えていらっしゃるのは主人公の特権ですが……しかし、このSSにまで持ち出してくるとは思いませんでした」
だから、そういうメタ発言止めろって。
「未だ気付いていないのですか? 今回は作者による『鬱憤晴らし』の回なんですよ」
頭が痛くなってきた。朝比奈さんと一緒になって眠りたい。
「おやおや……では、お二人が起きるまで僕は読者サービスにでも精を出すとしましょう。あ、カメラさん、もう少し右からお願い出来ますか?」
……心の底から帰りたい。

「しかし妙ですね」
暗い室内に古泉の呟きが反響する。何がだ、とソイツの独白を汲んで律儀に返してやる俺は我ながら出来た人間ではないだろうか。
「いえ、この部屋の事ですよ。気付きませんか?」
「だから、何に、だよ」
いつもながらまだるっこしいな、超能力者。もしかして簡潔に喋る事が出来んのか? 単なる癖なんだろうが、そういう病気か何かなんじゃないか、と疑われても仕方ないぞ。
「一つ目の疑問は此処が密閉空間という現実です。棺が有る訳でも宝物が置かれている訳でもない。言葉通りの『がらんどう』。このような空間を作る意図が僕には理解出来ません」
人の話を聞いてか、意図的に聞き流してか、古泉は勝手に喋りだした。まぁ、いつもの事だが。
「お前が何か見落としてるだけなんじゃないか?」
「かも知れません。明かりが無いので、詳細に分析する事は困難ですね」
「明かりなら、作れなくも無いが」
俺は杖を手に取った。
「いえ、無用です。その魔力は取っておきましょう。脱出の手段が確保出来た今、この部屋をつぶさに分析する意味はありませんので」
一寸した暇つぶし、といった所でしょうか。そう、暗闇の中で言葉を続ける古泉。
「しかし、ですね。少しばかり興味を惹かれないではないのも、確かです」
「だから、なんでだよ」
少しの沈黙。朝比奈さんの安らかな寝息だけが場を支配する。うーん、どうでも良いんだが、早く起きてくれないだろうか。余りに気絶が長過ぎると思うのだが。……話の都合、か?
「この世界は僕の貸し出したゲームを基にしている、という事実を覚えていらっしゃいますか?」
忘れる事も出来ねーっつの。こんだけロープレ染みた世界にどっぷり漬け込まれてりゃ、何か有る毎に嫌でも思い返すぜ?
「では、僕の疑問も推測出来るかと」
俺はその言葉に少し頭を捻り……そして古泉の言わんとしている事を理解する。
「この部屋は基のゲームには存在していない、って事だな?」
「そういう事です。いえ、存在を確認していない、と言った方が正しいでしょうが。もしかしたら、データとしてのみ、こういった部屋が有ったのかも知れません」
ふむ。使われなかったが消されていないデータって奴か。
「ええ。無論、涼宮さんが創り出した可能性も捨て切れませんが。しかし、その場合は別の疑問が浮上しますね」
「なんでこんな部屋を創り出したのか、ってか」
「はい。神のみぞ知る、と言ってしまえば其処まででしょうが」
違いない。俺達パンピーには神様の考える事なんぞ所詮分かりっこねぇよ。
「かも知れません。ですが、それで疑問を終わらせてしまうのは、些か興に欠けますね」
「なんだよ。未だ話し足りないのか?」
衣擦れの音。朝比奈さんが体勢を変えたらしい。
「ええ。疑問に立ち返ります。この部屋はどのような目的で作られたのでしょうか」
付き合ってやるのも面倒だが、しかし、朝比奈さんが起きるまで暇なのは揺るがない事実か。……仕方ない。
「俺達が此処に来た経緯……テレポーターで飛ばされた、ってのを考えたら罠の一部、って考えるのが妥当なんじゃないか?」
「はい。一番最初に僕もその可能性を考えました。しかし、それでは不自然なんです」
先刻から散々言ってるが、一々勿体付けずに言えんのか、お前は。
「テレポーターによって侵入者を隔離して飢え死にさせる為の部屋。それが一番自然な流れだと僕も考えます。しかし、この部屋には死体が一つも無い。いえ、単にこの罠に掛かったのが僕らだけ、という考え方も出来るでしょうが」
「いや、死体なんざ有っても困る」
折角起きた朝比奈さんが今一度気絶して、永遠足止めループとかは勘弁願いたい。最早孔明の罠だぞ、それ。
「ですよね」
「で? この部屋が罠の一部じゃないとする、根拠はそれだけか?」
「いえ。もう一つです。むしろ此方の方が重要かと」
「言ってみろ」
俺の促しに対して、古泉が満足そうに頷いた……かどうかは知らん。辺りは真っ暗だからな。しかし、言葉を続けた所を見ると、あながち間違いでもないだろう。
「この部屋に飛ばされたのが僕らだけ、であるという事です」
「……そうか。罠であれば……」
罠であった場合は俺達を別々に飛ばす意味が無い。それこそ一所に纏めて飛ばして飢え死にさせちまえば良いだけだ。
「察しが良くて助かります。そうです。此処には長門さん達が一緒に飛ばされてきていない。即ち、僕らが此処に飛ばされた事は単なる偶然でしょうね」
「なぁ、古泉よ」
「はい?」

「其れが分かった所で何になるって言うんだ?」
「何にもなりません。申し上げた通り、単なる暇潰しです」
「そうかい」

朝比奈さんが中々起きそうに無いので、俺はさっさとこの説明好きを送り出す事にした。
「ダンジョン内に飛ばすのは座標指定の関係上面倒なんでな。ダンジョンの入り口に飛ばすぞ。お前も、今度こそ『かべのなかに うまってしまった』とかになりたくはないだろ」
「其れは御勘弁を。僕とて未だ未だ命は惜しいので」
笑い声。ま、確かに冗談にはなってないな。
「ダンジョンの入り口……そこで朝比奈さんと貴方が飛ばされてくるまでの安全確保が僕の仕事ですね」
「頼んだ」
「頼まれました」
いっぺんに送っちまえば良いじゃないか、って? 生憎、アレはハルヒ並の魔力が有ってのみ出来る芸当だ。
俺には一人一人を送るのが関の山だったりする。ま、片や魔族の姫。片や一介の魔法使いであるからして。待遇の差は如何ともし難いらしい。
「僕がいなくなった後、朝比奈さんと二人きりだからと言って悪戯をしたりはご遠慮下さい。後が怖そうだ」
「……ねーよ」
うんざりと呟く。そりゃ、俺だって健康な男子高校生である訳で、考えなかったと言えば嘘になったりするのだが。
「寝てる相手に色々やる程、人の道を外れてはいない心算だからな」
「そうですか。では、後程。……ああ、そうそう。何かの手違いが有りましたら」
「次の目的地の宿で集合、だろ。分かってるよ」
俺は杖を振り上げた。

「ワタ=シハコ=コニール!!」
瞬間、胡散臭いニヤケスマイルが空間から掻き消えた。これであの似非スマイルも見納めかと思うと、少しだけ込み上げてくるものが無かったと言えば、嘘になる。

「……消費デカいな」
ステータスウィンドウを見ながら呟く。一人ぶっ飛ばすだけでMPの半分を持っていかれちまった。流石は失伝魔法とでも言うべきか。使い勝手は余り……と言うか、かなりよろしくない。
ま、ホイホイ使える便利な代物なら失伝なんて事にはなっていなかったんだろう、と考え直し、頭を掻いてみる。
「さって、と。古泉の馬鹿もいなくなったし……な」
俺は未だ眠り続ける朝比奈さんの髪を撫でた。
「……キスぐらいなら良いですよ、か」
何時ぞやの朝比奈さん(大)の台詞を思い出して……と、待て待て、俺。誰に見られていないからと言って、そんな事をしちゃ人として失格だ。
何より、この清らかな御人に傷を付けるなんて許されると思っているのか?
「しちゃっても……構わないのに」
いえいえ、そういう訳にもいかないでしょう。神聖にして不可侵の象徴たる其の御姿を前にしては、俺みたいな欲望の固まりは浄化されてしまいま……。
あれ? 今、誰が喋った?
此処に居るのは俺と朝比奈さんオンリーで。でもって俺が喋ったんじゃないんだとすると答えは一つしかない訳だからして。
「折角、古泉君が行っちゃうまで寝たフリをしてたんですから……女の子の気持ちを少しは察してくれると……助かります」
後半になるに従って萎んでいく声は間違いなく俺の腰辺りから発せられていた。
首がガコガコと、まるで油を注さずに何年も置いておかれた自転車のような音を立てて動く。俺の視線を受けて、朝比奈さんはにっこりと微笑んだ……ような気がした。
「おはようございます」
「……オハヨウゴザイマス」

「膝枕って初めてなんですけど……ちょっと恥ずかしいですね」
……改めて言われちまうと、恥ずかしいのはむしろこっちの方だというハナシ。

「キョン君と二人きりで話したい事が有ったので、申し訳無いとは思うのだけれど古泉君が居なくなるまで眠ったフリをしていました」
……いつから起きていたんですか?
「覚えてませんけど……多分、三十分くらい前から、かな……」
「なるほど。で、俺に話したい事って言うのは何でしょう?」
もしかして、もしかしなくても、と高鳴る期待を抑えられない。二人きり。そして密室。俺と同じ方向に想像(妄想とも言う。ほっとけ)を持っていかない奴は男性として、何かが欠落していると断じさせて貰う。
ましてや俺の目の前で正座してるのは、生半可な美人ではないのであるからして、俺の桃色うっふんな思考回路は極めて正常だと……まぁ、誰に自己弁護しているのかは知らないが。
しかし、朝比奈さんの口から出た言葉はそんな想像とは百八十度真逆の物だった。
「皆さんはあの時、意識が無かったから知りませんが……私は違います。あの時の会話内容を、私だけは知っています」
あの時……? すいませんが話が見えません。どの時の事でしょうか。
「涼宮さんとキョン君の間に交わされた契約について、です」
気まずい、沈黙。
「それは……あの、竜との戦闘後の話でしょうか」
「そうです!」
マズった。そう言えばあの時、この人だけはハルヒの魔手を逃れていたんだったか。

「取引をしようぜ、ハルヒ。対等の……条件でな」
「お前が殺したい、勇者って奴……俺達で見付けてきてやるよ」
「面白いじゃない!」
「けど、アンタ達が口約束を破って逃げないって確証も無いわ!」
「アンタの命は後一週間だから。死にたくなかったら気合入れて勇者を探しなさい?」

「あの時、キョン君は一週間以内に涼宮さんの元に勇者を連れて行くと約束しましたよね! でも……でも、もうアレから五日経っています!!」
朝比奈さんが搾り出すように叫ぶ。
「このままじゃ……このままじゃキョン君は!」

「死んじゃうんですよ!!」

忘れていなかった訳じゃない。でも、何か行動をした訳でもない。勇者を探す事も無く、科されたイベントをただ消化していただけの五日間。
その間、ずっとこの人は……誰にも言わずにただ一人で俺の身を案じてくれていたのか。小さな体いっぱいに、叫び出したい気持ちを封じ込めて。
「……すいません」
「すいません、では無いんです! このままじゃ、キョン君が!!」
きっと涙を溜めてくれているのだろう、その可憐な瞳に。俺なんかの為に。全く、自分の罪深さに嫌になるね。
「でも……朝比奈さんが気にする事では無いですし……」
「気にします!」
コツンと、俺の胸を彼女の力無い拳が叩いた。何度も何度も。駄々を捏ねる子供みたいな其れは、身体よりも中身にズキリズキリと響いて。
「気にするに決まってるじゃないですか!! 私達は何ですか! キョン君の、友達じゃないんですか!?」
朝比奈さんの言いたい事は分かる。皆を巻き込みたくない、ってのが俺による独善の押し売りだってのも理解してる。
「友達が困っている時に協力出来なくて、何が友達なんですかっ!?」
「朝比奈さん……」
分かってる。だけど、只でさえ危なっかしいのに付け加えて皆を危険に晒す事なんて、俺には出来そうになくって。
「皆に言って、後二日で勇者さんを探し出しましょう! 大丈夫です! 長門さんと古泉君ならなんとかしてくれると思います!」
本当は、もっと早くに皆に言うべきだったんだろうけど、と少女が俯く。けれど、そんな彼女の提案も俺は良しとしなかった。
「朝比奈さんの言いたい事は理解出来ます。でも、アイツらには言わないで下さい」
俺は朝比奈さんの肩を掴んだ。
「コレは、俺とハルヒの問題ですから。他の奴がしゃしゃり出て良い問題じゃない」
俺は言う。朝比奈さんはそれでも小動物のように、首を横に振っていた。

「私は、キョン君に死んで欲しくありません」
「死にませんよ」
「根拠がありません!」
「例え根拠なんて無くても。其れでも。アイツは俺を殺したりはしない」
「涼宮さんは?」
「世界が違っても、全部忘れちまっていても、アイツは……ハルヒなんだ」
そうだ。アイツは、其れでもやっぱりハルヒなんだ。
だから……どれだけ凶悪な事をやらかしても、結局誰一人として殺していない。
「大丈夫です、朝比奈さん。俺は、死にません。アイツは、俺を殺さない。少しで良いんで、俺と……其れとハルヒを信じてみては貰えませんか?」
そう、俺があの時、貴女達が俺を置いて逃げたりはしないと信じたように。
ハルヒを……SOS団のSOS団たる根幹を、信じて欲しい。

いい加減に朝比奈さんが黙ったのを好機と見て、俺は切り出した。
「古泉に、伝言をお願いします」
「はい?」
「先に行け、と。それだけでアイツなら理解する筈なんで」
「分かりました……って、え? え?」
「心配しなくても後から必ず合流します」
「は? え? ほぇっ!?」
「それじゃ、また後で。ありがとうございました、先輩」
「キョン君っ!?」

「ワタ=シハコ=コニール!」
床に産まれた魔方陣から上る紫の光に照らされて、朝比奈さんが涙を流していたのが、少し、辛かった。

最期に見た顔が、泣き顔なのは、正直御遠慮願いたかった。
其れでも、焼き付いちまった其れに阻まれてか、少女の笑顔を咄嗟に思い出す事は出来そうになくて。
「あーあ、長門と鶴屋さん、其れに朝倉にお別れ言うの忘れちまったなぁ。ま、『別れ際にさよなら』なんて柄じゃないか」
一人だけとなった密室に、俺のため息が木霊した。

さて、古泉の推測で確信した事が有る。
其れは、恐らくこの空間はハルヒが創造したであろう、という事だ。
そして、俺の推測が正しければ、この部屋に出入り口なんてものは隠されていない。
つまり、完全密室って訳で。
なんでそんな事が分かるのか、って? 理由は簡単。自力による脱出方法が有っちゃ、アイツ的に困るからだ。
我ながら冴えている。そういう事だろ、ハルヒ?

俺だって、アイツとの約束を忘れてた訳じゃない。だが、自分から動いて勇者を探そうとはしていなかった。
其れは何故か。
理由は二つ。一つ目は先程、朝比奈さんに言った通り巻き込みたくない、って奴だが。実はもう一つ有った。
考えてもみて欲しい。勇者をいざ見付けて、アイツの前に持っていったとして、だ。其れが何を意味するのかは火を見るより明らかじゃないか?

「魔界第一王位継承者、涼宮ハルヒ。
只の冒険者には興味無いわ。
この中に勇者、英雄、救世主、主人公が居たら、私と戦って殺されなさいっ!
以上!」

まぁ、ハルヒが本気で人を殺すとは思ってはいないが、万が一という事も考えられる。少なくともどちらかが再起不能になる可能性は高い。
ソイツがぶっ倒されても、ハルヒがぶっ倒されても翌日の寝覚めが悪い事この上ないだろ?
まぁ、勇者がどんな奴かは知らんが、少なくとも俺の関係者である事は想像に難くなく。
顔見知りを生け贄に捧げる悪魔神官になった覚えは未だ無い訳で。
「まったく……七方塞がって行く道が一つしか無いってのは、鞭打って歩かされてるみたいで気に食わんな……」
ま、そんな愚痴を溢していても一人。咳をしても一人。しょうがない。覚悟が決まっていようが決まっていまいが、やる事自体は変わらないしな。
なら、ちゃっちゃとやるしか無いんだろう。かなーり気は重いがな。だからと言って此処で酸欠を待つ訳にもいかねーし。

古泉と朝比奈さんに、言っていない事実が一つ有る。
空間移送魔法、「ワタ=シハコ=コニール」には一つだけ重大な欠陥が有る、という事。
其れは詰まり、術師本人を運ぶ事は出来ない、という一点だ。
分かり易く言うと「何処に飛ばすかを選択する事は出来るが、自分を対象に出来ないバ○ルーラ」だったりするのだが。
もし、コレを説明していたら古泉も朝比奈さんも俺を止めただろうから、言うに言えなかった訳だ、うん。

ん? 七方どころか八方塞がりじゃないか、って? お前、どうやって密室から脱出する心算だよ、って?
いやいや、お忘れだろうか。どっかーん四章にて、俺はハルヒから「あるもの」を受け取ってい……あれ? 描写が無ぇ!?

(只今キョン君が第四章並びに第五章を大急ぎで確認しております。少々、お待ち下さい)

……やっぱ描写が無ぇ! って、事は何か? 俺がハルヒから受け取った不思議アイテムもコレが本邦初公開だったりするのか!?
……其れはマズいな。取って付けたような設定と勘違いされては困る。
シリアスなシーンだったから余計な事に読者の気を割かせたくなかった? 待て待て。言い訳をする俺の身にもなって貰いたい。
呪文生成なんて新コマンドに続いて窮地を脱する便利アイテムの登場である。本当に……何と言って叩かれるかなんて、少し考えれば分かったものだと思うのだが。
しかし、「其れ」を出さないでこんな暗い部屋で即身仏なんて事は御免な訳で……ええい、背に腹は代えられん(今回二回目)。

「もしもアンタが勇者を見付けたら、ソイツの身体に触れながらこの鈴を鳴らしなさい! アンタが何処に居ようと、一瞬でソイツごとアタシの元に引き寄せる効果が有るわ!」

テレレッテレー。まーほーおーのすーずー(某猫型ロボットなイメージで)。

はい、と言う訳で脱出である。まぁ、勇者も連れずにアイツの所に行けば何と言われるのか分かったものではないが、しかし背に腹は以下略(三回目)。
……緊急避難という奴だからなぁ。
そして、この密室をアイツが創ったのだとしたら、こうしてアイツの元に出向くのも恐らく規定事項なんだろう。
さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。間違いなく前者であると断言出来るのが、我ながら何と言うか……運命ってのを呪わずにはいられない。
ああ、出来れば穏便に済んでくれると助かるんだがね。そんな一欠片どころか一ミクロン有るか無いかの希望を胸に俺は鈴を振った。

チリン、という小気味の良い音と共に天地が回る。ぐるぐると、視界が目まぐるしく渦巻きに飲み込まれて。
そして、俺の意識は闇に飲まれるように少しづつ溶けていった。

世に言う「暗転」である。



次回に続く!


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あきゅろす。
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