[携帯モード] [URL送信]

怖い話(ちょいなが)
危険な好奇心 9話
その女は作業を中断し、ゴム手袋を外しながら俺に近寄ってくる。
その表情はニコニコしていた。
俺はどんな表情をすればいい???
きっと、とてつもなく恐怖に引きつった顔をしていただろう。

女は俺の目前まで歩み寄って来て
『立派になって。。もう幾つになった?高校生か?』
と尋ねてきた。

俺は『この女』の発言の意味が判らなかった。
何なんだ?
俺をコケにしているのか?
恐怖に引きつる俺を馬鹿にしているのか?
何なんだ?
俺の反応を楽しんでいるのか?

俺が黙っていると、
『お友達も大きくなったねぇ、、、淳くん。。可哀相に骨折してるけど。。お兄ちゃんも気付けなあかんよ!』
と言ってきた。

もう、意味が全く解らなかった。数年前、俺達に何をしたのか忘れているのか?俺達に『恐怖のトラウマ』を植え付けた本人の言葉とは思えない。
『女』は尚もニヤニヤしながら
『もう一人いた・・あの子、元気か?色黒の子いたやん?』

!!慎の事だ!
何なんだコイツは!
まるで久しぶりに出会った旧友のように。。
普通じゃない。。
わざとなのか。。?
何か目的があってこんな態度を取っているのか?


俺は『中年女』から目を逸らさず、その動向に注意を払った。

【こいつ、何言ってるのか解ってるのか?】

『あの時はごめんね・・・許してくれる?』
と中年女は言いながら俺に近づいてくる。
俺は返す言葉が見つからず、ただ無言で少し後退りした。
『ほんまやったら・・もっと早くあやまらなあかんかってんけど・・』
俺は耳を疑った。
こいつ、本気で謝罪しているのか。。?それとも何か企んでいるのか。。?
ついに『中年女』は手を伸ばせば届く範囲にまで近づいてきた。
『三人にキチンと謝るつもりやったんやで・・ほんまやで。。。』
と言いながら、ますます近づいてくる!
もう息がかかる程の距離にまで近づいた。
『あの時』とは違い、俺の方が身長は20a程高く、体格的にも勿論勝っている。
俺は『中年女』に指一本でも触れられたら、ブッ飛ばしてやる!と考えていた。

『中年女』は俺を見上げるような形で、俺の目を凝視してくる。
しかし、その目からは『怨み』『憎しみ』『怒り』など感じられない。
真っ直ぐに俺の目だけを見てくる。
『あの時はどうかしててねぇ、酷い事したねぇー。。』
と『中年女』は謝罪の言葉を並べる。
俺はもう、 その場の『緊張感』に耐えれず、ついに走りだし、その場を去った。
走ってる途中、『もし追い掛けられたら・・・』と後ろを振り向いたが『中年女』の姿は無く、ある意味拍子抜けた。
走るのを止め、立ち止まり、考えた。
さっきのは本当に本心から謝っていたのか?

俺は中年女を信じることが出来なかった。疑う事しか出来なかった。まぁ、『あの事件』の事があるから当たり前だが。

俺は小走りで先程の場所近くに戻ってみた。
そこには再びゴム手袋をはめ、大量のゴミの分別をする『中年女』の姿があった。

こいつ、本当に改心したのか?
必死に作業をする姿を見ると、昔の『中年女』とは思えない。

とりあえず、その日はそのまま帰宅した。


俺は自室のベットに横になり、一人考えた。
人間はあそこまで変わることが出来るのか・・?昔、鬼の形相でハッピー・タッチを殺し、俺を、慎を、淳を追い詰め、放火までしようとした奴が。。。
『ごめんね』など、心から償いの言葉を発することが出来るのか。。
いや、
ひょっとして【あの事件】をきっかけに俺が変わってしまったのか。。?疑心暗鬼になり、他人を信じる事が出来ない『冷たい人間』になってしまったのか。。?
『中年女』の謝罪の言葉を信じることで【あの事件】の精神的な呪縛から解放されるのか。。?

もう一度、『中年女』に会い、直接話すべきだ。。。
俺は『中年女』にもう一度会うこと、今度は逃げないこと!と決意を固め、その日は就寝した。

そして次の日、俺はバイトを休み、病院に行った。


まずは淳の病室に入り、昨日の出来事を説明した。そして今日は、『中年女』に会い、直接話してみるつもりだ。と 言う事を伝えた。
淳は最初『中年女』は変わっていない!と俺の意見に反対だったが、『このまま一生、中年女の存在に怯え、トラウマを抱えたまま生きていくのか?』と俺が言うと、
『・・・中年女に会って話すんだったら俺も付き合う、。。』
と言ってくれた。




しばらく沈黙が続いた。

刻々と時間は過ぎ、面会時間終了のチャイムが鳴ると同時に
『ガラガラガラ・・・』
廊下の奥の方からゴミ運搬台車の音が聞こえてきた。
『。。来たな。。。』
淳がボソッと呟いた。
俺は固唾を飲んで部屋の扉へ視線を送った。

『ガラガラガラ、』
台車の音が部屋の前で止まった。

部屋の扉が開いた。

作業服の『中年女』が会釈しながら入室してきた。俺と淳はその姿を目で追った。
『中年女』は奥のベットから順にゴミ箱のゴミを回収し始めた。
『ごくろうさん。』
と患者から声を掛けられ、笑顔で会釈をする中年女。。。とても昔の『中年女』と同一人物とは思えない。

そして、ついに淳のベットのゴミ回収に中年女がやってきた。



『中年女』はこちらに一切目を合わせず、軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。
俺は何と声を掛けていいのかわからず、しばらく中年女の様子を伺っていたが、淳が
『おばさん!どーゆーつもりだよ?』
と 切り出した。
中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。淳は続けて
『あんた、俺の事覚えてたんだろ?俺には謝罪の言葉一つも無いの?』

俺はドキドキした。まさか淳が急にキレ口調で話すなんて予想外だった。
中年女は俯いたまま
『・・・ごめんねぇ。。。』とか細い声を出した。
淳はその素直な返答に驚いたのか、キョトンとした目で俺を見て来た。
俺は『。。。おばさん。。。本当に反省してるんだよね?』
と聞いてみた。
すると中年女はこちらを向き
『本当にごめんなさい。。私があんな事したから淳君、こんな事故に会っちゃって。。。私があんな事したから・・・ほんとゴメンね!』と。

俺と淳は更にキョトンとした。何か話がズレてないか?
俺は
『いや、昔あんた犬に酷い事したり、俺ん家にきたり、、すべてひっくるめて!』と言った。




中年女は
『本当にごめんなさい!私が、私があんな事さえしなければ、、こんな事故、、ごめんね!本当にごめんね!』
と泣きそうな声で言った。
その態度、会話を聞いていた病室内の患者の視線が一斉にこちらに注目していた。
静まり返った病室に
『ゴメンね!ごめんなさい!ゴメンなさぃ!』
と中年女の声だけが響いた。
淳は少し恥ずかしそうに
『もういいよ!だいたい、俺が事故ったのアンタとは一切関係ねーよ!』
と吐き捨てた。

中年女はペコペコ頭を下げながら淳のベットのゴミを回収し、最後に
『ごめんなさい・・』
と言い、そそくさと病室から出て行った。
その光景を周りの患者が見ていたので、しばらく病室は変な空気が流れた。
淳は『何なんだよ!あのオバハン!俺は普通に事故っただけだっつーの。。何勘違いしてやがんだよ!』といいながら枕をドツイた。
俺は『中年女』の行動、言動を聞いていてハッキリと思った。
やはり『中年女』は少しおかしい。いや、謝罪は心からしているのだろうが、アイツは『呪いの儀式』を行った事を謝っていた。
『呪い』を本気で信じているようだった。



淳は『あの頃は無茶苦茶怖い存在やって、今だにトラウマでビビってたけど、、
さっき喋って思ったんは単なるオカルト信者のヲバはんやって事やな!』
と何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。
俺は『あぁ、昔と違って俺らの方が体もデカくなったしな!』と調子を合わせた。
『さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ!』
『おぅ!また暇な時来てや!』
と言葉を交わし、俺は病室を出て家路に就いた。
家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。
アイツにもこの事を伝えてやろうと。
アイツも今回の話を聞かせてやれば、きっと『あの日のトラウマ』が無くなるのでは無いか、と。



家に帰り早速、慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、慎の携帯番号を聞いた。
そして慎の携帯に電話を掛けた。

『おう!ひさしぶり!』
なつかしい慎の声。

俺はしばし慎と、
最近どうよ?
的な話をした後、淳が事故って入院したこと、その病院に『中年女』が 清掃員として働いていること、中年女が昔と別人のように心を入れ替えている事を話した。
慎は『中年女』が謝罪してきたことに対し、たいそう驚いていた。
そして最後に慎は
『淳が退院したら三人で快気祝いをシヨウ。』
と 言った。
もちろん俺は賛成し、淳の退院のメドが着き次第連絡する。と伝えた。

その翌日、俺は病院に行き淳に『慎がおまえの退院が決まり次第、こっちに帰って来て快気祝いしようってよ!』
と伝えた。
淳はたいそう喜んでいた。


それから一週間程、病院に見舞いには行っていなかった。
別に理由は無いが、新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。
それに『中年女』が更正(?)しているようだったので、心配も、以前ほどはしていなかった。
何かあれば淳から電話があるだろうと思っていた。
そんなある日、淳から電話が掛かってきた。
内容は『来週退院する!』
との事だった。
俺は『良かったな!』と祝福の言葉と共に、『中年女』の動向を聞いたが、
『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない。』との事だった。


そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。
俺は学校帰りに淳の家に立ち寄った。
チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。
『おぅ!上がれよ!』
足にはギブスをはめたままだったが、すっかり元気そうだった。
淳の部屋でしばし雑談をした。
夕方になり俺は帰宅し、夕飯を喰った後、慎に電話をした。
『淳、退院したぜ!』
『まぢ!そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな!すぐにでも行きたいけど部活が忙しいから月末頃にそっち行くよ!』
との事だった。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!