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怖い話(ちょいなが)
マセラティおじさんとの不思議な出会い@
「このことは話すな。」そう言われていたけれど、もう時効だと思うので、書きます。

僕は、幼いころに両親が交通事故で死んでしまったので、叔父のところに養子に出されました。しかし、叔父は僕の存在をあまり快く思ってないみたいで、僕を塾に行かせることによって、出来るだけ家に僕を置くのを避けていました。

きっかけは中2の夏。
進学塾の授業が終わり、外に出ると辺りは真っ暗。僕は、電灯の明かりを頼りに、歩きながら家路に向かっていた。
すると自分の数十メートル先を歩いていた女性に、いきなり車が突っ込んできました。
一瞬の出来事なのに、その瞬間スローモーションのようになったのを覚えている。
すさまじい音とともに、空中に舞うフロントガラスの破片。
ぶつかった衝撃で、脚がありえない方向に曲がりながら、吹き飛ばされるOL。
そして反対側の民家の垣根へと吸い込まれるように消えていった…。

呆然と、事の成り行きを見届けた後、こりゃ一大事と思い、事故現場に駆けつけてみる。
ぶつかった車は(当時はどこのメーカーか分からなかったけど)マセラティのセダンで、フロント部分が完全に潰れていた。かなりのスピードを出していたのが分かる。
粉々に割れたフロントガラスの奥には、ドライバーの顔が見えた。おっさんだった。
芸能人で例えるなら阿部寛に似ている。

そのおっさんが車から出てきた。サングラスに黒スーツ。
まるで映画に出てくるスパイみたいな格好だ。変な緊張が走った。おっさんは僕を見て一言。

「見るな。」

とんでもないものを見てしまったと後悔した。まさかこんな事件に巻き込まれるとは…。
あぁ、今日で僕の人生が終わる。天国のお父さんお母さん、今からそっちに向かうよ。
自分の中で何かが崩れ始めるのが分かった。
逃げたいけど、足がすくんでしまって言うことを聞いてくれない。
そんな僕を見て、おっさんは口元を緩め、ニコっと笑う仕草を見せる。

「別に君を殺しに来たわけじゃない。むしろ助けに来たんだ。」

へ?その言葉を聞いて頭の中が混乱した。僕を助けに?意味が分からない。



この人、何言ってんだ?でも自分に殺意がないことが分かった僕は、なぜか妙な安心感に満たされた。と言うかなんだろう…どこかなつかしい気持ちがする。

「まだ生きてやがったか。あのスピードならいけると思ったんだけどな。」
穴の開いた垣根からは、さっきの女性が倒れているのが見えた。
死んでる?まったく動く気配がない。助けに行こうとすると、おっさんに行く手を阻まれた。

「行ったら殺されるぞ。」

思わず足が止まる。殺される?いよいよ分からなくなってきた。あっけに取られている僕を、サングラスごしにおっさんは見ている。

「君、変だと思わないのか?あんなに馬鹿でかい音で事故ったのに、私たち以外に誰もいないだろ?」

言われてみれば、たしかに変だ。事故った場所は、民家が立ち並ぶ閑静な住宅街。
あんなすさまじい音ならば、家の中にいようが絶対に聞こえるはずである。近所の住人なら何が起きたんだ?と窓から覗いたり、現場にやって来たりと何らかのアクションを起こすはずだろう。
家々には明かりこそ付いているが、まるで人の気配を感じなかった。いや、そもそも女性に会ってからは、通行人はおろか走っている車すら見ていない。なるほどさっきから感じていた妙な違和感はこれだったのか…。

完全なる静寂。
風の吹き抜ける音。
その風で揺れる木のざわめき。
遠くで聞こえる車の走る音といった些細な音すらしなかった。
耳鳴りで鼓膜が痛くなるほどの無音状態。ひたすら不気味だった。
もぞもぞと女性が動いている音が響いた。生きてた。それを見て、おっさんが焦り始めた。動揺の色を隠せない様子だ。マセラティに乗り込む。

「とにかく後ろに乗れ。詳しい事情は後で話す。」
僕は乗らなかった。誘拐だと思ったからだ。唯一の目撃者を始末するために、どこかに連れて行く気だ。そう推理した。



「俺を信じろ」
そう言われるが無理だった。やはりここは救急車と警察を呼ぶべきだ。
(当時、まだケータイは普及していなかったので)急いで公衆電話を探す。
すぐに見つかった。
よりによって女性が倒れている家のすぐそばに電話ボックスがあった。
でも、こんな場所に電話ボックスなんてあったけ?いや、そんなことは関係ない。
今は一刻を争う事態だ。ぐずぐずしていると死んでしまう。電話ボックスに向かって走り出した。

「馬鹿!戻れ!そっちに行くな!」
おっさんの叫ぶ声が聞こえる。知ったことか!電話ボックスに飛び込み、急いで119に電話。電話ボックス側は垣根がないので、倒れている女性が見える。
上半身は塀に隠れているものの、脚だけは見えた。小刻みに痙攣している。
僕は、それを見ないよう背中を向けて、呼び出し音を聞いていた。おっさんは黙って運転席から僕を見ていた。
受話器を取る音が聞こえた。

「ふふふふふふふふ…」

思わず受話器を落としそうになった。そりゃそうだ。いきなり受話器から女性の笑い声が聞こえたからだ。
背中に視線を感じる。後ろを振り返るとゾッとした。
女性がまさに電話ボックスのガラス一枚挟んで立っていたからだ。
僕は、ここで初めて女性の顔を見た。バサバサに散らばった黒い髪と眼球の無い空洞の目。それだけしか分からなかった。
他の部分は、吐きかけた息でガラスが曇って見えなかったからだ。
蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。背筋が凍ってしまい、何とも嫌な汗が全身に滲み出るのが分かった。腰こそ抜かさなかったが、筋肉が弛緩したせいで思わず失禁。
脚をつたう温かい尿のおかげで感覚が戻ると、脊髄反射のごとくおっさんのいるところまで全力疾走。
参考書がパンパンに詰まったリュックを背負っていたのだが、そんなのもろともせず、我ながら驚くスピードだった。
どうやらマセラティのエンジンがかからないらしく、おっさんはいきなり僕の腕をつかむと、そのまま引っ張るようなかたちで走り出した。

「走れ!絶対に後ろを見るな!」

こうなったらもうおっさんに従うしかない。
背後で引きずったような音が、どんどん近づいているのが聞こえる。



ずるずるずるずるずるずるずるずる…

「這ってこの速さかよ。脚をだめにしなかったら車でもダメだったな…」
悲鳴にならない叫び声をあげながら、もう無我夢中で走る。が、リュックを背負って走っているので思うように走れない。

「おい!リュックなんか捨てろ!つかまるぞ!」
そう言われるが、捨てるのをためらう。人間こんなときでも欲だけはちゃんと働くんだなって思った。

そんな僕を見かねたのか、おっさんは呪文のような言葉を唱え始めた。
もう今にも追いつかんばかりに、ずるずると這う音が迫ってくる。そして首筋に生暖かい吐息がかかるのが分かった。
耳元で息遣いも聞こえる。もうだめだと思ったそのとき…

バン!
後ろで爆竹のような爆発音がした。その音に紛れてうめき声が聞こえる。何かがのた打ち回るような音もする。もう這う音はしない。
しかし、おっさんはそんなことお構いなしに走り続けた。

どれくらい走っただろうか?
学校の体育で持久走をやっているためか、はたまた火事場の馬鹿力のおかげか分からないが、よくもまあずっと走れたと思う。
どこをどう走ったのか分からない。
気付いたら、自分の家から300メートルくらい離れた場所にある神社にいた。失禁してビショビショだった下半身もいつの間にかすっかり乾いている。

道路を行き交う車が見えた途端、助かったという安心感と疲労感のせいで力が抜けてしまい、
リュックの重さも手伝って、路肩にへなへな〜としゃがみこんでしまった。
喉がカラカラに渇き切って唾が出なかった。手水舎があったので水を飲む。

おっさんがやってきた。とにかくお礼をしなきゃ。しかし、興奮状態で呼吸が乱れてて、うまく呂律が回らない。

「あ…あの…助けてくれ…テ…ありがトう…ございましタ…。」
おっさんはネクタイを結びなおしつつ「なに、礼には及ばないよ。」と一言。深呼吸を繰り返し呼吸を落ち着けている僕を、おっさんは横目で見ながら「どうしたもんかな…。」と
呟いていた。



「あれはいったい何なんですか?」
境内のそばにある電灯の明かりで、おっさんのサングラスが怪しく光る。

「誰にも言わないと…約束できるか?」
「え?どういうことです?」
「約束できるのか?できないのか?どっちかと聞いているんだ。」
「どうせ今日あったことなんか言っても誰も信じてくれません。だから僕…誰にも言いません。約束します。教えてください。」

サングラスで分からなかったが、真剣な目で僕を見ているのが分かった。
タバコに火をつけ一服すると、おっさんは話してくれた。

すっごい複雑な話なので、各々の名称を読みやすいようにアレンジし、簡略化したものを書いておきます。

昔、ある豪族に代々仕える一族がいたそうだ。
一族は2つのグループに分かれており、結界などによって病気や災いから味方を守る祈祷師グループと、呪詛などによって敵を滅ぼす呪術師のグループで、互いに対立し合う関係だった。
その一族の助けもあって、豪族も栄えることが出来たので、一族の有力な人物には、褒賞として位を授けたり、領土を与えたりしたそうです。
そのため、呪詛によって勢力拡大に貢献することが出来る呪術師グループは、どんどん成長していきました。

そんなある日、その豪族の長が病に倒れてしまいました。
当時、病は悪霊による仕業と考えられていたので、豪族は祈祷師に助けを乞いました。
祈祷師グループにとっては手柄を立てる、またとない大チャンスです。
莫大な恩賞を交換条件に引き受けました。
しかし、何か見えない力に邪魔されているのか、なかなか思うように事が進まなかったそうです。
そこで、祈祷師グループのリーダーだった青年が長を看病し、残り全員がその周りを囲んで結界を張るかたちをとりました。
祈祷師たちはその間、その場から一歩も動かず、何日も飲まず食わずのままで耐えていたそうです。
そのかいもあってか、ようやく悪霊が長の口から出てきたのだが、青年はそれを見てギョッとしました。



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あきゅろす。
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