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ずいぶん、長い間に感じられた。
そいつがドアを開けて、それを閉めて、そのまま後ろ手に何かをする。
カチャリ、と、小さな音。
実質的には多分10秒前後だ。
ただ、それだけの時間。
なのに俺には、俺の心臓の音が痛いくらい聞こえて、まばたきもせずに。
そいつから、目が離せなかった。
白い髪、赤い目。綺麗で意志の強そうな…でもどこか虚ろな。
線が細いのが見ただけでわかる。
俺は、そこから、動くことができなかった。
さっきまで考えていたことなんて、全部頭から抜け落ちて。
薄ら寒いとか、そんなくだらないことも、全部。
完璧に、全てを、そいつに奪われた。
「じゃあま、行きますか…っと」
そいつの声で、我に返る。
瞬間、そこにあった体が、消えた。
思わず手すりに駆け寄って下を見ると、白い髪はもう、どこにもなかった。
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