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「あ、ごめん。つい。」

あくまでさらりと、軽く。
お願いだから触れてこないで。

何も知らないままでいてくれれば俺だって適度に距離をおけるのに。

一度引いた線は覆せない。
だからこそ、そこから先に入ってしまったら、全てが終わる。終わらせるしか、なくなる。


「…あぁ。俺こそごめん。」


告げられた謝罪の言葉。あまりの平凡さに、安心する自分。

突き放されることに確かに恐怖する自分がいる。
俺から何かをせずともいつか自然に離れていくことは簡単にわかるから。


未来を失って、そばの温もりを失った俺は、どうやら裏切られることを恐れているらしい。

知らず知らずに、適度で適当な、裏切られても傷つかずにすむ距離を選ぼうとしてる。

生憎人間観察が得意らしい俺のそれは、他人にだけじゃなくて自分に対しても同じ様に使われるのだと知った。


…他人に興味が無い。だから私情を挟まずに観察できる。
…自分のことなどどうでもいい。だから客観的に見ることが出来る。

同じことだ。


『他人』と『自分』。
世界に唯一絶対の区分を取り払った俺には、一体何が残っているのだろう。

怖くはない。不思議なだけ。

『自分』を確立できて初めて自我が生まれるのに、俺にはその自我だけが存在する。

自分の意思をもつこと。それがすなわち自我をもつことだ。

じゃあなんで、『俺』は『俺』として存在できる?


俺は、世界に矛盾している。
それを認識していることすら、きっとこの世界には「ダメなこと」で。


俺は、俺の生み出した俺の行動を左右する最大の不確定要素だ。


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