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「あ、ごめんね。ちょっと待っててね。」

パンフレットを机に広げて学校の地図を見ながら施設の案内をしてくれてた寮監さんが、電話の音で立ち去る。


寮監さんの名前は織戸雪というらしい。
俺よりも小さい背中が、今は電話に集中しているらしい、軽く殺気を飛ばしても振り返ることはなかった。


(やっぱり違う、か。まぁ別に大した力がなければどちら側でも構わないんだけどさ。)

この学園に入ったって、今までと同じように任務は与えられるだろうと思う。
ある程度をこなしていないと体も鈍る。
だから、この寮を抜け出すときに見つかったりしてしまわないように、寮監のレベルを知っておくのは大切だと思っていた。
問題ない。


(てことはあとは同室者くらいかな。注意が必要なのは。)

口封じしようと思えばいくらでも出来る自信はある。ただ面倒なだけで。
自分のことが知られてしまうのは好ましくない。興味を持たれてしまうのも。

聞かれない、だから知られない。

適当で微妙で、絶妙な関係性を作ること。
あくまで俺は傍観者だから、ね。




俺は、昔政府が行ったとある計画の生き残りだ。
五年間の逃亡生活がついこの間強制的に終わらされて、気づいたらここに入学することになっていて。

『未来』は、その五年間を共に過ごした、もう一人の生き残り。片割れ。
今はもう、いない。ずっと一緒にいたのに。

その計画で少しばかり他の人と違うところが出来てしまった俺を(つまり成功者の俺を)、政府はどうしても利用したいらしく。
ここに、『学園』という名の檻に、俺は入れられることになったわけだ。
この学園、国立だし全寮制だし。俺も丁度15歳だったみたいだし。


未来が何で死んだのかって?生き残りなのに?
答えは簡単。俺が、殺したから。

そう、未来を殺したのは紛れもなく、この、俺で。


計画の成功の代償に感情が薄くなった俺でも、あの日、感じた痛み。
苦しくて苦しくて泣きたくて、でも未来は笑っていて。
なかないで、なんて言うから。

俺は自分を、壊した。
何にも感じない。どうでもいい。



だって未来がなかないでって、言うから。

感情なんか持っていたら、泣いてしまうから。
未来がいなくても廻り続けるんだなんて、知りたくないから。


俺はいつまでも、操り人形のままでいいよ。




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