在世界一號,
8
** 響side **
「向こうに行ってるから。」
彬にすれ違いざまに耳打ちする。
それを伝えたこと自体には何の意味も無かった。
どうせ来るとも思っていない。
俺が生徒会室を出たら彬はここで転入生と二人きりだ。
副会長とかが来れば話は別だけれど、それもいつになるのかわからないし。
別に、いい。
俺は確かに会長を慕っていると思う。色んな意味で。
だってそうじゃなければ、引き止められただけでこの場所に留まったりしない。
でも、俺たちの関係の主導権はあくまであっちの手の中にあるのだから。
あいつが望まなければ、俺たちの間に何かが生まれることはない。
俺がいくらあいつに聴かせたくてもそんなのただの俺の都合でしかなくて。
俺がバイオリンを弾きたい時がない、
つまりあいつに弾けと言われて弾きたくない時がないというのが唯一の救いだ。
…あぁ、もうどうでもいいや。めんどくさ。
弾きたいときに弾いて、やらなきゃいけないことをやればいい話じゃん。
音楽室の鍵を解除して、中に入る。今日もいつものごとく丁度いい室温だ。
とりあえず携帯電話で時間を確認すると、まだ一時間目が始まって間もない程度だった。
どうやら俺はあの転入生に対して随分我慢弱いようだ。
「よし、仕事仕事っと。」
一人でそうつぶやいて気分を変える。
いつまでもこうしているわけにはいかない。
CM用の曲の楽譜を棚から出して広げると、鉛筆で書き込みをしていくことにした。
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