Long Song
9
何も言わずに、小暮が立ち上がる。
音はない。互いの間に、長い長い沈黙が降りていた。
永久の目の前に立った永久に向けて、一言。
「逃げんなよ。」
手が微かに震えだす。
持ったままのトレイに乗ったティーカップの中の紅茶が、微かに揺れてこぼれる。
今、何て。
「逃げんな。過去のことなんかにすんじゃねえ。」
「想いに背を向けるな。」
「過去を言い訳にするのは、卑怯だ。」
過去は変えられない。
でも自分の見方しだいでは、同じ事だって違うように見えることもある。
それもせずに、過去を過去のまま、そこに留めておくのはずるい。
辛い。苦しい。嫌だ。
芽生える当然の感情には目を向けられるのに、過ぎ去った瞬間、それを忘れようとする。
当たり前のことだ。
『過去は、変えられない。』
でも、だからこそ、変えられる過去も、確かにある。
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