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Long Song
8

セキュリティの意味をわかっているのだろうか、あの人は。
まぁでも、怪しい人は一発でわかるみたいで、前に夜の街で一回遊んだだけのチャラめの男が俺を追ってやってきたときは
問答無用で帰らせていたから、やはり人を見る目はすごい、ということになるのだろうけど。

自己完結している間に、紅茶の葉がいい感じに蒸れてきたので、火から上げてティーカップに注ぐ。
砂糖とか、ミルクとか入れなさそうだから、準備しなくてもいいかな。

冷蔵庫にあったクッキーを適当にいくつかお皿にのっけて紅茶と一緒に持っていくと、手帳に何か書き込んでいる奴。


「何…書いてんの。」

もしかして、こうやって簡単に入れてしまったけど、こいつも、
…気のせいであってほしい。少し掠れて聞こえた、この声が。


「お前の本名。」

「…あ、」


にやりと笑ってこちらを向いた顔に、迂闊だったと今更思う。

夜の世界での俺の名前は、片瀬類。
園山永久じゃない。昼とは違う。全て。
…苗字も、名前も、忌々しいほど俺を縛るから。


「偽名だったんだな、トワ?」

「…トワじゃない。永久(エイク)。」


トワ。

とっくに捨てたはずの俺のもう一つの名前は、俺をいつまでも過去にくくりつけて。
全部全部捨ててしまいたいはずなのに、忘れてしまいたいはずなのに、想いは確かにまだこの胸にある。

だから結局、中途半端に、逃げることしか出来ないのだ。俺は。


「…俺は、永久だ。」


もう一度、その言葉を口にする。
だから何が変わるわけでもない。
こいつが知ってしまった事実も、この胸を侵し続ける想いも、誤魔化すことはできないけど。


それでも俺は、もう、トワじゃない。

トワはもう、どこにもいらない。





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