短編小説 部隊長の実力 時空管理局本局 古代遺失物管理部 機動六課課長室 「うん、一段落着いたし、お昼でも食べに行こか・・・ あー 皆もう午後の仕事始めてんやろなー。1人で食べるんは寂しいけど、しゃあないな」 仕事に一区切りをつけ時計を見たはやては肩を落とす。 「では御一緒してよろしいですかお嬢さん?」 突然掛けられた声にバッと顔を上げたはやては 「アンちゃん!!」 その顔に満面の笑みを浮かべ声の主に駆け寄る。 「久しぶり。はやて」 優しい笑みで駆け寄ったはやてをそのまま抱き締める翔。 「ん〜。アンちゃん、嬉しいんやけど、流石にコレは恥ずかしいわ・・・・・・」 頬にキスされ、驚いた顔をしたはやてだったが、キスされた頬をおさえボソボソと呟く。反対の手はしっかり翔の背に回っていたが・・・ 止めて欲しいのか欲しくないのか判断しづらい反応である。 きっとその顔が赤いのには触れてはいけないのだろう。嬉しそうな笑顔である事も含めて。 「あ〜、うん。年頃の女性には失礼だったね。今度から気をつけます。さっきのは彼氏には謝っておいてくれると嬉しいです」 はやての言葉に、翔は済まなそうな顔をして腕を解くと一歩下がりペコリと頭を下げる。 「そんなすまなそーな顔せんでえーよ。嬉しかったんやし、彼氏もおらんから」 笑顔で言うと「あ〜自分で言っててへこむわ・・・」と自分の言葉にショックを受けて肩を落とす。 「さっきのお誘いの返事をくれますか、お嬢さん?」 肩を落としたはやての頭を撫でながら、茶化すように翔は言う。 「誘いて、お昼?アンちゃんも食べるん?」 「そ。まだ食べてないんだよ。一緒に食べて良い?」 顔を上げ、時計を見て首を傾げるはやてに翔は笑顔で頷く。 「もちろん! 折角アンちゃんと食べるんやからどっか行きたい所やけど、午後も仕事あるし・・・」 「突然顔出した僕が悪いんだから気にしなくて良いよ。それに僕ははやてと一緒ならどこでも良いんだから」 嬉しそうに笑う翔の腕にはやては「アンちゃんは相変わらずわたしらに甘いな〜」と呟きつつ抱きつく。その顔は笑顔であり、うっすらと紅くなっているが指摘する者は当然居ない。 結局六課の食堂で共に食事を摂った2人だったが、当然誰にも目撃されないという事は無く、終始笑顔(しかも本当に嬉しそう)で、しかも腕を組んでの(食堂からの)入退場に 「部隊長の恋人現る!!!」 の噂が(光速で)駆け巡ったのは(ある意味)当然の事だろう。 ◇ 「フェイトちゃん?」 「なのは?」 とあるレストラン。 2人の女性が目を丸くして見つめ合ったのはその日の夜の事だった。 「びっくりしたよ。直ぐ分かるって言われてたけど、まさかフェイトちゃんだとは思わなかった」 フェイトの向かいの席に座り、なのはは話す。 その笑顔にホッとしたものが含まれているあたり、親しい相手で安心したのだろう。 「えーと、なんでなのはがここに?」 対するフェイトは首を傾げている。その顔は複雑だが・・・ 「ヒューに、「食事の約束をしたんだけど用事が出来てしまったから、代わりに行って欲しい」って言われたんだ。突然だったからビックリしたけど、はやてちゃんに仕事の方は気にしなくて良いからって言われて。相手はわたしの知ってる人だし直ぐ分かるってヒューには言われたんだけど、誰か分からないから心配だったんだ。 あ、これヒューから」 この場に来る事になった経緯を簡単に説明すると、なのはは封筒を差し出す。 「そうなんだ」 少し気落ちしながらも封筒を受け取ったフェイトは中身を取り出し―― 「フェイトちゃん?」 ――眉を寄せた。 「フェイトちゃん!」 「はっ」 反応がなかった為少しだけ強い口調で呼びかけたなのはの声に、フェイトは顔を上げる。 「なのは、なに?」 「それはこっちの台詞だよ。どうしたのフェイトちゃん?」 「ん。コレ、どういう意味だろうと思って」 そう言って差し出すのはたった今渡された翔からの手紙。 「読んで良いの?」 「うん。意味分かったら教えて」 フェイトの言葉に軽く首を傾げながらも手紙を手に取るなのは。 「・・・・・・どういう意味?」 「わたしも知りたいよ」 やはり分からなかったようで、2人して首を傾げる。 「まあ、プレゼントって書いてるんだから、食べよっか。意味は後で訊けば良いんだし」 「そうだね」 だが、直ぐに2人は頭を切り換え食事を始めるのだった。 「そういえば、はやてに恋人がいるって話聞いたんだけど」 「あ、それわたしも聞いたよ。スバルが「どんな人なんですか!」って眼をキラキラさせて聞いてきたから」 「わたしは移動中に話してるの聞こえただけだから詳しく知らないんだ」 「何か、腕組んで歩いてて、食堂で一緒に御飯食べてたんだって」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 仲の良い2人だけあり、終始笑顔だったと言っておこう。(だって代金の心配しなくて良いし) ――2人とも忙しいようなので少しでも休憩になる事を祈ってます。 上記が、2人が首を傾げた手紙の全文である。 ◇ 「はやてちゃん、機嫌良さそうだけど何か良い事あったの?」 翌朝の食堂、八神家が揃っていたテーブルに座るとなのはが問い掛ける。 「そういえばはやて、何時の間に恋人出来たの?」 なのはの隣に座ったフェイトも尋ねる。 「は?」 「「「なに!?」」」 「えー!!」 フェイトの問いにポカンとするはやてと、ガタンッと音を立てて立ち上がるシグナム・ヴィータ・ザフィーラ。リインは文字通り飛び上がって体ごとはやてに向く。 シャマルは嬉しそうに微笑んでいる。どうやら彼女だけはその噂を知っていたようだ。 「え?ちょっと、そ「「(主)はやて!その不埒者はどこのどいつですか!」」(←シグナム・ザフィーラ)「はやて!そいつ誰だよ!あたしは聞いてねーぞ!」(←ヴィータ) 驚くはやての言葉はもの凄い剣幕(というか形相)の彼女の騎士(-1)によって遮られる。シグナムは掴みかからんばかりに迫っているし、ヴィータは椅子を蹴飛ばしはやてにしがみついている。ザフィーラは詰め寄ったりはしないがじっとはやてを注視している。 「み、みなさん怖いです〜」 「大丈夫よ」 シャマルの所へ避難して震えているリインと、リインを慰めながら楽しそうに家族を見守って?いるシャマル。 その隣では突然の混沌に呆然と見物に回ってしまっているなのはとフェイト。 「ちょ、ちょっとみんな落ち着きーや!」 痺れを切らしたはやての一喝にピタリと 「そんなに一気に言われたら、何言ってるかわからん。ちょう落ち着こうな」 「・・・申し訳ありません」 「ごめんはやて」 ヴィータの頭を撫でながらはやてが言い、そのはやての笑顔(苦笑が半分ぐらい含まれています)に頭に血を上らせていたシグナムとヴィータが頭を下げる。 「気にせんでえーよ。 それでフェイトちゃん、わたしに恋人って、どういうことや?」 ヴィータが離れ、シグナムも着席すると、騒動の元を忘れていなかったはやてがフェイトに尋ねる。 「はやてに恋人がいる、って話を昨日小耳に挟んだんだよ」 「わたしも聞いたよ。腕組んで歩いてた、ってのと、一緒に食事してたって」 フェイトの言葉をなのはも補足する。 「恋人なんておらんのにどっから・・・・・・それって昨日の話?」 「多分」 なのはが頷くと、無言のまま、だがもの凄い意気込みで話を聞いていたシグナム・ヴィータ・ザフィーラからの有形無形の圧力が消え去る。 突然の変わりように首を捻るなのはとフェイト。 「なんや。それやったらアンちゃんの事やな」 そんな2人にはやてはアッサリと言ってのけた。 「「聞いてない!!」」 瞬間椅子を倒す勢いで立ち上がり声を上げる美女2人。 言うまでもないだろうがなのはとフェイトだ。 「ヒュー昨日来てたの!?」 「なのはちゃん会っとるやろ?」 「会ったの夜だもん!お昼一緒って事は、昼からいたんでしょ!?」 「正確には昼過ぎやな。午後の仕事始まってる時間やったし」 「仕事終わってから会うまで時間有った!」 「ああ、レストランの代金とかで出掛けとったね」 「はやてちゃんばっか一緒にいたなんてずるい!」 「なのはなんて会ってるだけ良いよ。わたしなんて会ってもいないんだよ! はやても!何で教えてくれなかったの!」 「仕事中にアンちゃん来てるてだけの連絡入れれる訳ないやろ」 「なんで!入れてよ!!大事な事なんだから!」 「それは公私混同過ぎるやろ。ここの中ならええけど、外出とったら流石にあかん」 「わたしだけ会ってないって酷いよ・・・」 「まあまあフェイトちゃん。わたしも用件だけで話はしてないから・・・」 捲し立てていた2人だったが、ガックリと、それはもう落ち込んだフェイトになのはも慰めに回る。 「あいつ結構遅くまでいたけど会ってなかったのか?」 そこに落とされる爆弾。 「相変わらず私より料理上手かったですよね・・・」 「シャマルよりならあたしだって上手い」 「あの日本酒は旨かった」 「確かに。一本置いていってくれたのは有難いな」 続くヴォルケンリッターの言葉に、ギギギと音が鳴りそうな動作でなのはとフェイトははやてを見る。 「・・・どういう事・・・?」 「昨日、ヒューと御飯食べたの・・・?」 「あ、あはははは。バレんの思ったよりかなり早かったなー」 フイと顔を横に向け、遠くを見ながら呟くはやて。入れたくないけど(用心の為)入れていた視界の隅で、とある人達から何とも言えない(黒い)空気が溢れ始める。 「「なんではやて(ちゃん)と食事してるの!!?」」 「約束断るなんて何言ったのはやて!!」 「用事って言ってたのに何ではやてちゃんと御飯食べてるの!?」 「「わたし達(ろくに)会って無いのにずっと話してたの!!??」」 アッと言う間に2人に詰め寄られるはやて。その頬には一筋の汗が・・・・・・ 「き、昨日は、アンちゃんが、2人の事祝いたいゆーんで、ちょっと協力しただけや。 それで、時間空いたんで、わたしらと一緒だったんよ。御飯は、協力した御礼て作ってくれたんやし」 それでもはやては笑顔で(例え引き攣っていても笑顔は笑顔だ)説明する。 詰め寄る女性達の手に各々の相棒(=デバイス)が握られているのも、それに光が灯ったように見えたのも気のせい、錯覚だ。 「「その“お祝い”ってなに!?」」 「うん?そろそろ時間だぞ」 そんな、触れるのも避けたいっていうか全力で逃げさせて下さい、という空気をモノともせずシグナムが言葉を発する。 「せ、せや!それじゃーみんなもお仕事せな!」 一瞬の空気の弛緩を逃さず、はやてはシュタっと手を挙げてその場を離脱した。 そのスピードはフェイトの“Sonic Move”並だった。と言っておこう。 [前へ][次へ] [戻る] |