三毛と契約 4
「契約というからには、契約書を出してもらおうか」
もし契約書がなければゴネてご破算にするつもりだったが、ミケは不安そうな目をしながらも懐から封書を取り出した。
それをパラリと開くと、確かに母親の名前が直筆で書かれていた。契約内容は、「息子の恋人」と書いてある。
紙を裏返しても何もなかったが、光に透かすと何だか違和感を感じた。
紙の端を引っ掻くと、薄い紙がパリパリと剥がれ、淡い水色で小さな文字がびっしりと書かれており、そちらにも母親の名前が転写されていた。
「母さん、虫眼鏡」
契約書をじっくり読み解くと、施された恩よりも過大なことを願われた場合は超過分の報酬を請求できること、そして契約を途中で破棄するには契約した悪魔の真名が必要なこと、そうでなければ契約者の命を持って償うことが書かれていた。
俺は、虫眼鏡を机の上に置いた。
カタリ、という音にミケは身体を震わせた。
「……俺に恋人ができるのに、猫缶ひとつというのは、釣り合いが取れているのか?」
「それは、その、人ひとりの人生に関わることですから……ハイ」
「その差分の報酬を払うとすると、いかほどなんだ」
「契約者の命から猫缶分を引いた分になります」
全俺の総意により「オイッ!」とツッコミを入れた。顔面にグーで。
「に、人間のパンチごとき、い、痛くなんかないんだからなー!」
ミケがナミダ目で嘆いた。
「頑丈で何より。真名とやらを吐くまで、じっくりいたぶってやろうじゃねぇか」
俺の言葉に、ミケは顔を真っ青にして口をパクパクさせた。
「福ちゃんってば。あんまり恋人を虐めたら可哀想よ」
母親の声に、ミケは救いの神でも見たかのようにすがった。悪魔のくせに。
「母さんはどうも状況を把握していないようだな。コイツが俺の恋人になったら、母さんは猫缶分しか生きられないんだぞ」
「えっ、そんなのやだ。お母さんは福ちゃんと福ちゃんの恋人と一緒に仲良く幸せに暮らすのが夢だもん!」
母親がそう叫ぶと、ミケはポカンとした。
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