三毛と契約 3
俺が扉を開けると、男はホッとしたようにギザギザの歯をむき出しにして笑った。
が。
「……ちょっと詳しい話を聞かせて貰いましょうか」
俺の冷たい声音に、その表情が固まった。
先ほどのソファに座らせ、俺はその横に立って見下ろす。男は居心地が悪そうに、目をキョロキョロさせた。
「まず本名を名乗って貰いましょうか」
「そ、それはご勘弁を」
「アァ?」
「ひぃっ?! あの、その、我らは名は極秘事項なんです。ですから、私のことはミケとお呼びください!」
男は怯えながらもペラペラと喋った。
「じゃあ、お前は何なの。猫ではないだろ」
「はぁ。……あの、信じて貰えるかどうかは存じませんが、悪魔です。スミマセン」
男は頭を掻いて、恐縮しながらそう言った。
「……ま、猫って言われるよりは現実的だ」
「左様ですか」
悪魔男ミケは、エヘッと歯をむき出しにして笑った。
「お前、笑う時は口閉じてろ」
「は?」
「口。閉じろ」
ミケは慌てて口を閉じて、手で覆った。
「ところで、恋人の件だが、断る」
「エッ?! 今さらそんなこと言われてもっ!!」
俺の言葉に、ミケは悲壮感たっぷりな顔になった。
「押し売りはいらん」
「そんな……やっと契約ひとつ取れたと思ったのに……」
そう呟いたミケがさめざめと泣き出したので、俺は目を丸くした。
話を聞けば、今時悪魔を本気で信じている人間などほとんどおらず、もっぱら開店休業状態なのだと言う。
そこで、『飛び込み』と称して人の良さそうな人間の元にお邪魔して、『お礼』として契約を取り付けるのが最近の主流なのだそうだ。
そして、ミケはとにかく営業の成績が悪くて、これまで一件も契約を成立させたことがないために、上司からネチネチと嫌味を言われるのだと言う。
「契約、ね……」
俺がそう呟くと、ミケはちょっと「しまった」という顔をした。
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