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三毛と契約 1
 俺の母親は、天然ボケと呼ばれる類の人間だ。

 これまでハサミを入れたことのない長い髪の毛は、息子の俺が言うのもアレだが、ちょっとコワイ。

 近所の子供たちから『貞子』などと呼ばれているが、本人はまるで気にしていない。

 むしろ持ちネタにしていて、たまに貞子のモノマネをしながら廊下を這いずってくるので心臓に悪い。

 子供っぽいところもあるが博愛精神の持ち主であり、よく動物を拾ってきては面倒を見ている。

 引き取り手が見つかるのは稀で、我が家は現在ペットが二十数匹いる。

 細かい数字は知らんが、俺も動物が好きなのであまり強く怒れない。

 とにかく俺の母親は浮世離れした人なのだが……。

 まさか、あんなものまで拾ってくるとは思わなかった。



 疲れた身体を引きずってバイトから帰ると、少し長めの金髪に赤と青のメッシュが入った細身の若い男が、居間で茶を飲みながら母親とペットに囲まれて談笑していた。

「あら、おかえりなさい、福ちゃん」

 俺は母親の声を無視しつつ、ソファでくつろぐ男の後頭部を睨みつけた。

 母親はしょっちゅう訪問販売に引っかかる。お茶まで出して親身に話を聞いているうちに俺が帰宅し、玄関から蹴り出すのがいつものパターンだ。

 男がこちらに振り向いた。

 どこぞのアイドルっぽい顔をしたそいつは、ピンストライプの入ったダークグレーのスーツを着込んでいる。

 ニコッと笑ったそいつの顔を見て、俺はギョッとした。

 顔立ちは整っているのに、そいつの歯並びは最悪だった。

 いや、歯並びは綺麗なのだが、歯の一本一本が犬歯のように尖っていて、サメのような凶悪な印象を受けた。

「誰、この人」

 そう訊ねると、母親は微笑んで「ミケちゃん」と言った。

 男も歯をむき出しにして微笑んで、「今日からアナタの恋人です」と言った。


 俺は、男を玄関から蹴り出した。

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あきゅろす。
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