透、キレる! 9
「こんなチビだから、相手が油断してくれたんですよ。火事場の馬鹿力ってホントにあるもんですねぇ。マグレです」
俺が弁解すると、「そう言うとは思ったよ」と副会長は笑った。あ、ちょっとムカついた……。
――ッ?!
殺気を感じた瞬間、副会長はいきなり俺に殴りかかってきた。
めちゃくちゃ早くてキレのあるパンチ。
俺は何とかそれを避けるが、次々と拳が繰り出されてくる。全て右手だ
。
よく片手でこんなに早く打てるな。ボクシングで言えば、ジャブのような……
そう思った途端。
右耳すれすれを左ストレートがかすめ、風きり音を聞いた。
やっぱコイツ、サウスポーのボクサーだった。あっぶねぇー。
「へぇ、よく避けたね。やっぱマグレじゃないでしょ」
副会長は数歩下がって、ファイティングポーズを取った。
「な、何なんですか。冗談はやめてくださいよ」
俺は思わず後ずさる。副会長の顔から笑顔が消えたからだ。マジでやばくない、コレ? 木戸先生に電話すべき?
その答えが出る前に、副会長が華麗なステップで距離を詰めてきた。
「――早ッ!」
さっきより幾段も早い攻撃。さすがに身のこなしだけでかわすのはツラくなって、俺は覚悟を決めた。
さりげなく動いて左ストレートを誘う。
深い踏み込みが来ると同時に、俺はワンステップで副会長の懐に飛び込み――
「ウッ?!」
――体当たりをかました。
ポーンと飛んでいく副会長。
「サーセン!」
一言だけ残し、俺はスタコラサッサと逃げ出した。
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