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透、契約する! 11
 俺の頭をそっと撫でた源爺がため息をついた。

「……坊は本当にそれで幸せですかい」

 確かめるように問われた。

「坊は、組長の魂を正しく継いでおられやす。だけど、坊はお天道様の当たる道の方が、あっしは似合うと思ってやす」

 優しげに皺の刻まれた源爺に微笑まれて、俺は口をつぐんだ。

「人から正しく生きる道を根こそぎ奪うヤツはクズです。いくら渡世人と言えども、それだけはしちゃいけねぇ。よっぽどでねぇ限り、コロシもいけねぇ。タマを取り合う戦なんざ、誰も幸せにならんのです。自分がされたかねぇことをしていい道理はねェんです。あっしが生きてきたのは、地べたに這い蹲った虫に人として生きる場所を与えてくれた最後の砦でした」

 源爺がとつとつと語る。

「坊は美しい羽を持ってやす。いいですかい。いざとなれば、あっしらが雁首揃えて破門になればいいだけの話。組長はあっしらを路頭に迷わせたくない一身で道を模索されてやすが、そういう難しいことは大人に任せて、坊は自由に羽ばたいていいんです」

 俺は何も答えられなかった。

「まだ坊は高校に入られたばかりですから、ゆっくり考えなすってくだせぇ。……出過ぎたことを申しやした。お許しを」

 そう言って、源爺は頭を下げた。



 俺は、天気のいい休日などは縁側で源爺の庭仕事をよく眺めている。

 高枝鋏で綺麗に整えられていく枝ぶりを見ていると、何とものどかな気分になる。

 ごろり、と縁側に横になると、空の高いところで鳶が輪を描いているのが見えた。

「……組長も若い頃は、そこでよくあっしの仕事をご覧になってやした」

 源爺がそう言って口元をゆるませた。

「ふぅん。……親父の若い頃って、どんなんだったの」

 さほど興味もなさそうにそう聞くと、源爺は作業の手を止めて目を細めた。

「高校に入られる頃にはもう、あっしなんぞ見上げすぎて首が痛くなるほど立派な体つきで。本当にヤンチャでしたなぁ。でも、あの頃から自分を慕う者たちをそれはそれは大切になさってやした」

「……そうなんだ」

「坊、学校は楽しいですか?」

「うん。友達もできた。ほとんど不良ばっかでバカだけど、いいヤツラだよ」

「そいつは何よりですなぁ」

 源爺はそう言うと、カラカラと笑いながら庭仕事に戻っていった。

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