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透、契約する! 10
 親父の足抜け計画に協力してくれている人間は、3人いる。

 一人は丈。

 もう一人は、静の父親であり、親父に足を洗うように促した大王組の組長である幸史郎さんだ。

 ほっそりとした印象の幸史郎さんは、親父と並ぶと小さく見えるけれど、実際には丈よりも背が高く、鍛え上げられた肉体は若々しい。

 だけど、やはり最愛の妻を若くして失った気苦労からか、髪の毛に混じる白髪の量は多かった。

 親父の性格を最もよく知る幸史郎さんは、俺の意図を知れば親父は必ず反対すると考えていた。俺もそう思う。

「その日が来たら、ふん縛ってでもブン殴ってでも、京さんの元に行かせる」

 どこか寂しそうに笑いながらも、そう言ってくれた。

 その時の場には丈もいたのだけれど、帰り際、

「幸史郎さんも見張ってねぇとダメだな。十蔵さんがいなくなったら、何しでかすかわからねぇ」

 と呟いた。



 最後の一人は、長い間うちで働いてくれている沖源三郎さん。俺は源爺と呼んでいる。

 何でも、戦争で親兄弟と死別し、子供ながらに一人でかっぱらいなどをして暮らしていたところをうちの曾祖父に拾われて、ずっと雑用として雇われているそうだ。

 当時の組は、人足をかき集めて瓦礫と化した町の復旧にどこよりも早く手を尽くし、家を失ったものたちに食べ物や夜露をしのげる場所を与えたそうだ。

「最近の若いモンは欲ばかり一人前で、全くなっちゃいねぇ」

 源爺はいつもそうぼやいていたが、俺のことは「坊は魂が強くていい」と可愛がってくれた。

 俺の計画を(嫁の話はぼやかして)相談すると、「桜塚のクソガキが思い切った手を打ちましたなぁ。……まぁ、ここらが潮時かもしれませんな」と遠くを見るように呟いた。

「無駄な争いを起こさず、会社を真っ当に独立させるには案外良い手かもしれやせん」

 組に相当な思い入れがあるに違いない源爺だったけれど、「時代の濁流に呑まれてるくらいなら、仁義通せるうちに始末つけましょうや」と言った。

 組を畳んだとしても、同じ傘下の他の組にやっかいになる気のない源爺には、親父と行動を共にするよう願った。

「いざという時には、この老体、いくらでも盾として差し出しやす」

 そう意気込んでいたけれど、もう80歳を越えて身よりもない源爺には、俺の家族と一緒にのんびりと老後を過ごして欲しいと思っている。

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あきゅろす。
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