透、契約する! 9
「……江本が透を守るって言うなら絶対だろ。背中を二枚の壁に守られて安心して励めるってもんよ」
丈はひとつ息をつくと、空を見上げた。
辺りはすっかり暗くなり、いくつか星が煌めきはじめていた。
さすがに丈もサングラスは諦めて、胸ポケットから眼帯を取り出して右目を覆った。
「そろそろ戻るわ。夜から幹部会あるからよ」
「ん、わかった。忙しいのに悪かったな」
「未来の嫁との悪巧みのためだからな」
丈はくつくつ笑いながら、俺の顔をガツッと掴んでキスをかました。
2秒だけ我慢して蹴り飛ばす。
「ぐはっ……。マジで早く慣れろ。透の蹴り、かなり痛ェから!」
「身体がな、勝手にな」
「覚悟が足りねぇんじゃねぇの? 幹部の前でこんなことやったら俺に惚れてねぇの即バレだからな?」
ぶつくさ言いながらも、丈は車に乗り込み、クラクションをひとつ鳴らして去っていった。
ため息をついて振り返ると、怒りの矛先を失って唇を噛みしめている江本さんがいた。
「クソ親父には内緒な?」
「……ハイ」
「江本さん、腹減った。夕飯ナニ?」
「……ビーフシチューです」
「やった。江本さんの作るビーフシチュー大好き」
俺がそう言うと、ようやく江本さんは少し笑った。
「ところでさ。ひとつ、聞きたいことがあるんだけど」
「はい、何でしょう」
「俺の居場所、どうやって知った?」
江本さんの微かな笑顔が凍りついた。ギギッと、ぎこちなく視線を逸らされる。
「ふぅん。……もしかして、携帯の居所サーチ機能でも勝手に契約しやがったのか?」
冷や汗でびっしょりになった江本さんを、俺は容赦なく蹴り飛ばした。
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