透、契約する! 4
「ちょっと出掛けてくる」
俺は江本さんにそう言うと、胴着の入った鞄を抱えて家を出た。
夕暮れの中、向かった先は道場ではなくて、駅近くの大きな公園。
公園の裏手の方、人気のない道端に止めてあるセダンの窓を覗くと、サングラスをかけた男が乗っている。
「こんな薄暗いのにサングラスとか、怪しい人なんですけど」
助手席に乗り込んだ俺がそう言うと、丈が「眼帯よりは目立たねぇ」と言って笑った。サングラスの奥、右目には微かに刀傷が見えた。
丈から切り出された話は、まだ誰にも言っていない。
だから、たまにこんな風にこっそりと二人で会って、今後の相談をする。共犯者の心地だ。
俺が丈の話に乗ってから、親父の会社は徐々に真っ当な仕事をこなせるようになっている。丈が裏で手を回しているからだ。
わりと無茶も押し通しているらしいけれど……。
「いずれ俺の会社にする、と言ってそこは納得してもらってる。クリーンな表稼業があるのは、まぁ、将来的に悪いことじゃねぇ」
そう言いながら、丈は煙草に火をつけた。
昨今、この業界も統合化が進み、長いものに巻かれるというか、大きな組織につかねば生き延びることのできない時代となっている。
丈がいる組も、西方の大きな組と睨み合っている真っ最中だ。
「……何でもでっかくなりすぎたモンは叩かれて瓦解するんだ。そン時、下についてるヤツラをどう守ってやるか考えてやんねぇといけねぇ。本来、ヤクザっつーのは世間様から弾かれたヤツラを食わせてやるためにできた集まりなんだからよ……」
紫煙をくゆらせながら、丈は呟いた。
丈は仲間思いの男だ。組の中では若手だが、手下たちからの信頼も厚い。
視線に気がついた丈が、俺の瞼に唇を寄せた。
「……そんな嫌な顔してんじゃねぇよ。将来の俺の嫁」
変態でさえなければ、もっといい男なんだがなぁ……。
丈の養子に入る、ということは、丈の嫁になる、ということらしい。
あー。
ゲイ的にはそれ、常識なんですか?
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