透、入学する! 9
バキィーッ!
――はっ、しまった。思わず殴ってしまった。
どこからか必殺技の名前が聞こえてくるような、回転のかかった見事なアッパー。
赤髪はスローモーションで……倒れた。
焦って赤髪の顔をのぞき込むと、ヤツはうつろな目をしつつも俺の腕を掴んで引き寄せようとしてきた。
びしっ!
俺は今度はためらいなく、チョップをぶち込んだ。
「……うまく記憶を失ってくれるといいんだが……」
そう呟いて、俺はその場を後にした。
ああ、ひどい目に遭った。
遠回りをしながら自宅に戻った俺は、出迎えてくれた江本さんのねぎらいの言葉もそこそこに蹴り飛ばし、自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。
俺は男だ。チビなのは自覚しているが、まるで女の子のように扱われると、さすがの俺もプライドがちょっぴり傷つくのだった。
しばらくすると、携帯電話の着信音が鳴り響く。
「……もしもし」
『お兄ちゃん? 那由です。入学おめでとう!』
「ありがと。那由もおめでとう」
――俺たちの両親は別居しており、妹は母と、俺は親父と暮らしている。
離れてはいても妹とは仲が良く、今でもこうやってこまめに連絡を取り合っている。
「母さんはどう?」
『最近は調子いいよ? もっと会いにおいでよ。喜ぶよ』
「つい先月、誕生日に行っただろ。そっち行くとこっちに戻りたくなくなる」
『アハハ、お父さんかわいそう〜』
俺の呟きに、那由がコロコロと笑う。
「そっちの学校はどうだった? 馴染めそうか?」
『お嬢様ばっかりだったよ。さすが花椿って感じ。生徒会長なんかお姫様みたいだったし。縦ロールだよ、縦ロール。初めて見た、縦ロール……』
那由の言葉に、俺は思わず吹いた。
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