透、契約する! 1
唐突ではあるけれど、井原に恋人ができた。
今、俺の前で井原とイチャついているのがそれだ。
「ホクト、ホクト。あぁ〜ん♪」
「うう……静さん……恥ずかしいよぅ」
シャンプーのCMのオファーが来そうなほど美しい黒髪の持ち主が、手作りのお弁当をせっせと井原に食べさせている。デレデレに崩れた顔で。
だけど、その身を包むのは黒い学ラン。
「よーやるわ……」
と、沢木が呆れ果てていた。
お相手の名前は大王寺静。
ヤのつくお仕事、大王組の跡取り。
大王組は、表向きはキング建設なんて名前の土建屋を営んでいて、静の父親は昔からうちのクソ親父と、裏でも表でもガッツリ手を組んできた親友だ。
というわけで、俺と静も物心つく前からの友人。
俺の知っている静はおっとりとして大人しいヤツなのだけど、キレて長い髪を振り乱して戦う姿は《鬼神》のようだともっぱらの噂。
元々は一学年上だったのだけれど、怪我で入院したり、喧嘩で停学になったりが続いて留年して、俺と同じクラスになった。
静曰く、自分から喧嘩を売ることはないが、名を上げようとやってくるヤツラが結構いるらしい。
2月にちょっとした大怪我を負って、その傷が癒えるか癒えないかという頃にやってきたのがルネ。ガッツリ足の骨を折られたそうだ。あの野郎……。
中間テストの前あたりにようやく復帰したと思ったら、井原にまさかの一目惚れ。
何でも、昔飼っていた犬にそっくりらしい。その名も井原と一緒で、「ホクト」。
猛アタックをかけられまくって、井原、ナミダ目。
うーん、あんなにアグレッシブな静、初めて見たな……。
ま、友達の恋路は応援したくなるもので。
「静、女の子だよ?」
そう教えてあげたら、井原は大混乱しながらも落ちた。
めでたしめでたし。
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