透、風紀を守る! 10 どうやら捕まったのはみんな1年生で、土木科以外の生徒だった。木戸先生の噂(伝説?)も知らなかったようだ。 先生を睨むのを諦めた生徒たちは、腹いせのように俺と委員長を睨みつける。それに気がついた木戸先生はニヤリと笑った。 「やめとけ、お前らじゃそいつらにも勝てねぇから」 「ふざけんなよ、こんなチビ……」 不良の一人が口を開く。 それとほぼ同時に、背後から誰かが俺の首に腕を巻きつけてきた。 「トール! 何してんの?!」 嬉しそうな声の主は早川だった。俺は眉間にシワを刻む。 「遊びに来たんじゃないから」 俺の言葉に怪訝そうな早川だったが、傍らに立つ金髪男が、ちょっと前に早川を介抱した木戸先生だと気がついて、「ゲッ」と声を漏らした。 それから、木戸先生の前にポカーンとした顔で並ぶ不良たちにギョッとし、俺の風紀委員の腕章に気がついて更に困った顔になる。 「うえぇ、トールが敵になった……」 「不良の味方になった覚えはいまだかつて無いな」 そう呟くと、さらにズシッと肩に重しが乗った。 早川の反対側から腕を回してきたのは、ルネだった。 俺は思わず苦虫を噛みつぶしたような顔になってしまったけれど、ルネはククッと楽しそうに笑った。 「よぉ。怪我は大丈夫か」 「なんとか」 「そうか。なら、もうちょいやれたな」 唇を舐めながら、不穏なことを言いやがるルネ。ぎゃー、身の危険を感じる! 「トールに気安く触んじゃねーよ」 早川がルネを睨みつけながら、そんなことを言った。 「お前もな!」 俺はルネと早川の足を順番に踏みつけて、三角巾で釣っていない方の手でシッシッと追いやった。 早川はしょんぼりしていたが、ルネは全く堪えていないようで、カラカラ笑いながらゲーセンの奥へと向かって行った。 その光景を見ていた木戸先生が目を丸くした。 「……透、早川と和解したのか。つか、早川と一緒にいたの義家じゃねぇか?」 「……そうとも言う」 「えれぇ仲良さそうだな」 「そうですかね?」 俺の腕をこんな状態にした張本人ですけどね、アイツ。木戸先生にはとても言えないけど! 「足達君……随分と派手なお友達がいるんですね」 篠原先輩も笑いながらそんなことを言った。 だけど先輩、目が全然笑ってませんよ?! ああっ、篠原先輩には嫌われたくないのにー! 一方、木戸先生の前に整列していた不良たちは、真っ青な顔をして俺から目をそらした。 さすがに、ルネや早川が何者なのかは不良である彼らの方が詳しいようだ。 ああ……俺の平凡な高校生活がどんどん遠ざかっていく気がする。 え? とっくに不可能だって? そんな馬鹿な……。 [*prev][next#] [戻る] |