透、真剣勝負! 6
「んー、まぁ、囓った程度な」
「……チッ」
自分で言うのも何だけれど、相手が何を出してくるかわからないというのは、嫌だろう。
ルネは無言でシャツのボタンを外し脱ぎ捨てた。ついでに、中に着ていたランニングシャツも脱ぐ。
格闘家としておおよそ完璧なボディ。逞しく、それでいて無駄な筋肉はない。しなやかでバランスがいい。肩から腕にかけて翼のタトゥーが刻まれていて、まるで美術品のようだった。
ルネが上着を捨てた理由は、もちろん柔道の技の威力を半減させるためだ。投げも締めも押さえ込みも、着衣を利用する技は多いのだ。
戦闘本能で動くこいつが関節技でギブアップするワケがないから、俺が勝つためには、やはり締め落とすのが一番近道だ。
しかし、それを一番警戒したルネは、上着を全て捨てた。どれだけ貪欲なんだ。
……俺は雑念を頭から追い出し、改めて集中する。
俺とルネの呼吸を重ねる。
スー……ハー……スー……来る!
右アッパー、左フック、右ローキック。少ないステップで俺を追い込んでゆく。
畳みかけるようなワンツーの後にエルボー。そこまでは何とかかわしたものの、その直後の膝が、とうとう俺のみぞおちにめり込んだ。
「かはっ……!」
崩れ落ちかけた俺の身体に、容赦なくルネの蹴りが叩き込まれた。
「ぅぐ……ッ」
俺は隅に積まれたカフェテーブルに突っ込み、店内に騒音が鳴り響いた。
「……チッ」
ルネの冷たい舌打ちが聞こえる。
ギリギリで自分で飛んで勢いを殺した。それでもすごい衝撃が襲っていた。モロ喰らったら軽く死ねるっつーの!
テーブルをどけて、よろよろと立ち上がる。もう一発、たとえ浅いのでも喰らったら動けなくなりそうだ。
ほんとに強い。パワーとスピードは一級品、テクニックもある。クールな判断力と勝利への執着心。格闘家として大切なものを十分に持ち合わせている。ムカツク。
……勝てないにしても、一矢報いてやろうじゃねぇの。
俺は、次の反撃に全てを賭けた。
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