透、真剣勝負! 5
ルネの表情が変わる。空気がチリチリと痛い。
俺はルネの呼吸を読んでいた。
動く前に必ず呼吸は変わる。合気道の師である馨の父に、俺はその呼吸を読むのが上手いと褒められたことがある。
その呼吸をこちらからずらしてやると、相手は体勢を崩し、隙ができるのだ。
ただし。ルネの動きのベースはキックボクシングだと思うが、残念ながらこれまでキックボクサーとは対峙したことがない。
テレビで見るのと、実際に戦うのは違う。例え呼吸を読んでも避けきれない可能性がある……。
少し弱気な方向に思いを馳せたせいか、反応が遅れた。
ルネが繰り出した異様に伸びるパンチを避けきれず、衝撃がアゴをかすめた。
かすっただけだというのに、くらっと眩暈。脳みそを揺さぶられた。やばい。
俺は、ラッシュをかけようとするルネから軸をずらし、身体を捻るようにして足をすくった。
途中で俺の動きに気がついたルネは、咄嗟に飛び退く。
それでも少し身体のバランスを崩したその隙を見逃さず、軸足を払ってやると、長身のルネが床に転がった。
すかさず上から覆い被さるように横四方固め。襟とベルトを押さえてやると身動きが取れなくなる柔道の技だ。
「くっ……!」
足技が得意なルネだが、この姿勢だと蹴りを入れることができない。
今は柔道の時間ではないので、押さえ込み一本、というわけにはいかないが、とりあえず眩暈が収まるまでの時間稼ぎだ。
ところが形勢を整える暇もなく、ルネはブリッジで俺の身体を浮かし、自由になる方の腕で俺をべりっと引っぺがした。
「……ちぇっ、やるなぁ」
俺は思わず称賛の声をあげた。
ルネは嫌な顔をしたけれど、押さえ込みが入った状態から抜け出るのはそう簡単なコトじゃないのだ。
「……お前、柔道やってんのか」
ルネが俺を睨みつけながら言った。
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