透、遭遇する! 16
長い沈黙の後、早川は脂汗をかきながらようやく口を開いた。
「お……俺は、見た目で人を判断したりしない。けど、トールの妹はその、初めて会った時からあんな感じで笑うし……俺の心配までするし……」
馨の勢いに呑まれたのか、早川はたどたどしくも言葉を紡ぐ。
「トールは第一印象と違って……別人だから違って当たり前なんだけど……マジメなくせに強くて……突き放すわりに優しいし……」
言葉に詰まった早川は、困り果ててうつむいた。
自分に対する賛美を真横で聞く羽目になった俺も、対応に困ってポリポリと首筋をかく。
「……で。どっちが好きなの?」
追い打ちをかけてくる馨を、早川は恨めしそうな顔で見る。
「馨。早川はまだ混乱してる」
さすがに可哀想になって止めた。
「……ま、今日のところは勘弁してあげる。でも、言っておくけれど、私の目が黒いうちは、私の那由も透も不良なんかにゃ渡さないからね!」
馨は、ビシッと早川の顔に指を突きつけた。
どこから突っ込んでいいのやら……。
俺もお前のものだったのか。
「お待たせー!」
微妙な空気を変えたのは、チケット売り場から戻った那由だった。
「……あれ、どうしたの? 馨ちゃん、コワイ顔……」
「なぁ〜んでもないよ、那由。挨拶してただけ!」
馨は那由の背後から抱きついて、髪の毛にキスをした。
それは明らかに早川への当てつけで、馨は不敵な笑みを浮かべて挑発するような目で早川を見ていた。
俺は、真っ白に燃え尽きようとしている早川に心から詫びた。
だけど、まぁ、これで義理は果たしたよな。
俺だって、お前にうちの那由をやるつもりは毛頭ないからな!
次章:透、真剣勝負!
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